低分子Splicing modifiers

#souyakuAC2021

 

※詳しくないので誤解していたらすみません。

 

RNAを標的とした低分子創薬が近年話題ですが、個人的には以下の4つがよく取り組まれているように思います。
1)mature mRNAに結合して二次構造を安定化させ、リボソーム内でのタンパク翻訳を阻害する。
2)pre-mRNAに結合してExon InclusionまたはSkippingを誘導する。(低分子Splicing modifiers)
3)リピート配列に結合して何かする。(例えばMBNL1との複合体形成を阻害する)
4)pre-miRNAに結合してDicerなどによるプロセッシングを阻害してmature miRNAの産生を阻害する。

今回は、2)について個人的な感想(誤解してたらすみません)を紹介します。

 

【Exon Inclusionの事例】
Structural basis of a small molecule targeting RNA for a specific splicing correction
https://www.nature.com/articles/s41589-019-0384-5
脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬リスジプラムの作用機序を解析した論文。
リスジプラム類縁体(構造にフッ素基を含む)SMN-C5を用いて19F-NMRで解析した。

19F-NMRで、SMN-C5はU1 snRNPとSMN2 pre-mRNAのExon7の5'-Splicing Site(E7 5'-SS)から形成される二本鎖に結合していた。Kd値は15µMで、SMN-C5のヘテロ縮環構造による塩基とのスタッキングおよびピペリジン構造による水素結合が活性に必須であった。

一方、細胞系でSMN2mRNAのExon7を含有させるEC50値は30nMであった。検証の結果、核抽出物の有無が重要で、それによって活性がnM⇔µMの変化が見られた。

SMN-C5は単にsnRNPとSMN2 E7 5'-SSの間に結合して二本鎖形成を誘導するだけでなく、スプライシング因子の誘導などスプライソソーム形成を正に制御していることが示唆された。

そもそも化合物は患者由来細胞のフェノタイプスクリーニングで取得してたはず。

 

【Exon Skippingの事例】
Design, Optimization, and Study of Small Molecules That Target Tau Pre-mRNA and Affect Splicing
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c00768
神経変性疾患の一部はタウpre-mRNAの変異と関連している。
タウpre-mRNAのExon10とIntron10の間に形成されているヘアピン構造に含まれるCがUに変異すると構造が不安定化(非構造化に傾く)すると、U1 snRNPとの結合が促進され、Exon10が除去されず(Inclusion)、凝集体を形成しやすいアイソフォーム(4R)が産生してしまう。(多分U1 snRNPは二次構造を取らない/非構造化された領域と二本鎖を形成する感じで作用するっぽい。多分。)
低分子化合物をヘアピン構造にあるA-バルジに結合させて安定化さることで、U1 snRNPとの結合を阻害し、Exon10を除去させ(Skipping)、4Rの減少を狙った。

まずは、標的の塩基配列を元にDisney研究室が作成した独自データベースinfornaでA-バルジと結合する化合物を取得し、そのファーマコフォア抽出してPfizerライブラリーから化合物を取得した。詳細は省くが、Infornaで取得した化合物と比べてかなりドラッグライクな構造(CNS MPOスコアが高い)で興味深い。
その後、ルシフェラーゼアッセイやFRETアッセイ等、複数の評価系で、用量依存的なA-バルジへの結合とExon10スキップを確認した。Kd値とIC50値は1~30µMで化合物間における各アッセイの活性強弱はある程度相関。

選択性は、A以外のバルジ構造(他の塩基U,C,Gによるバルジ構造)や、配列が類似したpre-miRNAとの結合評価で確認した。
RT-qPCRでタウ総発現量は変わらずに4Rの産生割合が減少した。親和性の高い化合物の方が低用量で同程度の減少を示してるっぽい。(しっかり相関を確認できている)
そして、ヒト化モデルマウス初代神経細胞でも用量依存的に4R産生を減少させた。

NMRで化合物の相互作用部位を同定し、MD計算の拘束条件に適用した。相互作用には化合物のヘテロ縮環構造による塩基とのスタッキングが重要であった。水素結合とVan der Waalsで溝を埋めることが選択性に寄与するかもしれない。

 

【個人的な感想】
リスジプラムの事例は、塩基一本鎖の安定化ではなく、snRNPとSMN2 E7 5'-SSの二本鎖に結合して安定化させているのでSPR等の評価系構築やシミュレーションとか難しそうだなって素人ながら想像した。また、Kd値は弱くともネットワークを正に制御して細胞系で強く作用する化合物とか狙って取得するの難しそう。
単に二次構造に結合して安定化させKd値を向上させるだけでは薬効に不十分なのだろうか?結局フェノタイプで偶然釣ってきて作用機序を解析するしかないのだろうか?
その点、後者のDisney先生のアプローチは合理的に狙って化合物を取得できそうな気がする。Exon InclusionよりExon Skippingの方がまだ取り組みやすいのかな?

あと、化合物のファーマコフォアとしてヘテロ縮環(スタッキング狙い)とアミン(水素結合狙い)が重要ね。

やったことないので想像ですけど。