Gene selectiveは狙ってデザインできるか?

#souyakuAC2021

 

最終日に相応しくないかも・・・。
ちょっとフワッとした話で申し訳ないです。


Mitobridge社の選択的PPARδアゴニストである化合物1は、同じ選択的PPARδアゴニストであるGW501516と比べて、『影響を及ぼす遺伝子の数が少なく、毒性が低かった』という話・・・からの遺伝子発現は狙ってデザインできるのかなー期待したいなーって話。


Highly selective peroxisome proliferator-activated receptor δ (PPARδ) modulator demonstrates improved safety profile compared to GW501516
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0960894X17310818

GW501516は、選択的PPARδアゴニストとしてGSKとLigand Pharmaceuticalsによって創出され、脂質異常症などの治療薬として開発されていました。(PhaseⅡ)
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00158899
しかし、マウスとラットで104週間の連投試験によって発がん性を示したため、開発が中止されています。
PS895-896
http://www.toxicology.org/AI/PUB/Tox/2009Tox.pdf

本論文の化合物1は、GW501516を含むPPARsアゴニストによく見られる構造3-(4-アルコキシフェニル)プロピオン酸(https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/44/6/44_KJ00009579009/_pdf/-char/ja)とは違って、少し長い側鎖のカルボン酸を持っています。

それに由来するのか、ヒト初代筋細胞に対する遺伝子発現への影響が、化合物1とGW501516で異なりました。
 ・化合物1とGW501516で共通で変動:25遺伝子(ANGPTL4, CPT1a, PDK4等)
 ・化合物1のみ変動:16遺伝子
 ・GW501516のみ変動:67遺伝子

in vivo薬効に関して、化合物1(100mpk)とGW501516(10mpk)が熱傷モデルマウスで筋肉再生の効果を示しました。

安全性に関して、ラットに14日間連投した後に非腺胃のKi67染色によって細胞増殖の増加率を評価しました。
 ・  30mpk:化合物1 → Not Tested,   GW501516 → 34%増加
 ・100mpk:化合物1 → 2%低減,   GW501516 → 81%増加
 ・300mpk:化合物1 → 28%増加,    GW501516 → 190%増加※
※ただし、GW501516の300mpkはラットの体重と摂餌量の減少のため6日から200mpkに減量

in vivo PKを確認すると、化合物1はGW501516よりも1/10程度低いAUCだったので何とも言えませんが、筆者らは非腺胃は局所的であるため全身暴露とは違うと述べています。とは言え、化合物1はGW501516と比べて影響を及す遺伝子の数が少ないことが安全性につながっているかもしれない(毒性試験の結果と関係しているかもしれない)とのことです。


そもそも、影響を及ぼす遺伝子の数が異なるのは、どうしてでしょうか?


Structural basis for specific ligation of the peroxisome proliferator-activated receptor δ(フリーで見れる)
https://www.pnas.org/content/114/13/E2563

ソーク研究所の報告で、前述のMitobridge社の化合物1と構造的に類似した化合物9とGW501516それぞれとPPARδリガンド結合ドメインとの共結晶X線構造解析を比較すると、PPARδの活性化に必要な活性化領域AF-2のY437/H287/H413との相互作用は同様でしたが、化合物の末端に位置するW228の方向が異なっています。(Fig. 2.の2Bと2C)
GW501516の末端ベンゼン環の4-トリフルオロメチル基がW228と立体反発を起こして動かしているようです。


もしかしたら、僅かな相互作用の違いがPPARδの構造変化に微妙な違いをもたらし、結果として影響を及ぼす遺伝子の数が異なっているのかもしれません。


一方で、GW501516の末端ベンゼン環の4-トリフルオロメチル基のオルト位にフルオロ基を1つ導入しただけの類縁体であるGW0742は、逆に結腸のポリープサイズを減少させたとの報告例があります。
Ligand Activation of Peroxisome Proliferator–Activated Receptor B Inhibits Colon Carcinogenesis
https://cancerres.aacrjournals.org/content/canres/66/8/4394.full.pdf


結局のところ、影響を及ぼす遺伝子の数は狙ってデザインできるのでしょうか?
正直よく分かりません。

ただし、もし僅かな相互作用の違いがPPARδの構造変化に微妙な違いをもたらし、結果として影響を及ぼす遺伝子の数が異なっているのだとしたら、例えば、各々の共結晶X線解析と遺伝子プロファイルを学習データとすることで、化合物の構造から遺伝子プロファイルを予測したり、逆に所望の遺伝子プロファイルを持つ化合物をデザインしたり、できるかも?と期待しています。

他にも、GPCRアゴニストアンタゴニストやバイアスドリガンドと結晶構造クライオ電顕のデータから自由に予測できたりしたら・・・。

低分子創薬まだまだ色々できそうかなって期待しています。


あくまで妄想なので、全然無理かもしれませんけど。