塩基性を立体的に調節したい

#souyakuAC2021

 

アミノ基のような塩基性基は、標的タンパク中の負電荷と相互作用したり、化合物の溶解度を上げたり、Vdを上げて半減期を延ばしたり、
多くの利点がある一方、
塩基性が強すぎると、細胞毒性が強くなったり、hERG阻害やホスホリピドーシス、低膜透過性やPgp基質認識などのリスクがあるため、
良い塩梅に調節したいものです。

一般的に、塩基性を調節するアプローチとして『アミノ基の近傍に電子吸引性基を導入』が考えられます。

例えば、ピぺリジンの塩基性を調節しようと思うと、『ピペリジン環に電子吸引性基を導入』と『ピペリジンNHに電子吸引性基を導入』の2パターンが考えられます。
以下に各化合物のACD/PerceptでのpKa予測値を示します。


・Pipelidine
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 10.4

『ピペリジン環に電子吸引性基を導入』
・Morpholine
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 9.0

・Thiomorpholine, 1,1-dioxide
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 6.5

・4,4-difluoropiperidine
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 8.2

『ピペリジンNHに電子吸引性基を導入』
・N-(2-methoxyethyl)piperidine
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 8.8

・N-(2,2-difluoroethyl)piperidine
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 7.5

・N-(2-(methylsulfonyl)ethyl)piperidine
  ACD/Percepta pKa(予測値) = 8.0


しかし、個人的な感覚として、
スルホニル基はPgp基質認識性が上がったり分子量が上がり過ぎたり、ジフルオロ基は脂溶性が上がり過ぎたり溶解度が下がったり、
一方で酸素原子やモノフルオロ基だけ塩基性を調節するにはちょっと物足りなかったりします。
(あくまで個人的な感覚、スルホニル基もジフルオロ基も好きでよく入れるけど)


そこで、他の塩基性を調節するアプローチとして、立体障害も上手く利用できないかな、と考えています。
塩基性の立体障害と言えば、塩基or求核で出てくるけど、今回は塩基の強弱に使いたい)


立体障害の塩基性への影響に関して、以下のページが分かり易いと思います。
バイオ研究者がちゃんと知っておきたい化学(3ページ目の図4 アミンの塩基性)を見ると、
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/chemistry/cfb03.pdf
アンモニア(pKa=9.3)に対して、エチルアミン(pKa=10.6)、ジエチルアミン(pKa=10.9)ときて、3級アミンのトリエチルアミン(pKa=10.7)と僅かに塩基性が減少しています。


同じような事例がメドケムでもあったので、2つ紹介します。

 

【1つ目】
KSP Inhibitors;Discovery of MK-0731 for the Treatment of Taxane-Refractory Cancer
https://doi.org/10.1021/jm800386y

論文のハイライトは以下の素晴らしいブログ『気ままに創薬化学』をご覧いただきたい。
http://medchem4410.seesaa.net/article/217883323.html
1)pKaとMDR ratio(Pgp基質性)が相関する、
2)モノフルオロエチルアミンは代謝されてモノフルオロ酢酸が生成するリスク、
3)シクロプロピルアミンも反応性代謝物のリスク、
4)フッ素をピぺリジン環に導入するとアキシャルとエクアトリアルでpKaが異なる、
素晴らしい論文を紹介した素晴らしい記事です。


今回私が気になったのは、反応性代謝物のリスクがあったN-シクロプロピルピぺリジンに関してです。
以下に、論文にあったピぺリジンのN-置換基のpKa(実測値)と自分が調べたACD/Percepta pKa(予測値)を比較します。


・無置換(NHフリー):pKa(実測値) = 9.8に対して、 ACD/Percepta pKa(予測値) = 10.2(Classic)/9.5(GALAS)
・シクロプロピルメチル:pKa(実測値) = 9.1に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 8.9(Classic)/8.9(GALAS)
・メチル:pKa(実測値) = 8.8に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 8.7(Classic)/8.6(GALAS)
・フルオロエチル:pKa(実測値) = 7.6に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 7.6(Classic)/7.9(GALAS)

・シクロプロピル:pKa(実測値) = 7.5に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 9.7(Classic)/7.1(GALAS)
・ジフルオロエチル:pKa(実測値) = 4.9に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 6.6(Classic)/6.1(GALAS)


立体障害が小さいと考えられる無置換からフルオロエチルまでは、実測と予測は近い値で、予測もClassic法とGALAS法で乖離が見られません。
一方で、立体障害が大きそうなシクロプロピルとジフルオロエチルは実測と予測に乖離がある、またはClassic法とGALAS法に乖離が見られます。

 

【2つ目】
Discovery of Risdiplam, a SMN2 Gene Splicing Modifier for the Treatment of SMA
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.8b00741

先行化合物RG7800はhERG阻害やホスホリピドーシスを示し、おそらくピぺリジンの塩基性が原因と考えられました。
そこで、塩基性を調節してRisdiplamを創出しました。
先ほどと同じように、pKa(実測値)とACD/Percepta pKa(予測値)を比較します。


・RG7800:pKa(実測値) = 10.9に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 9.1(Classic)/10.0(GALAS)
・Risdipam:pKa(実測値) = 6.8に対して、ACD/Percepta pKa(予測値) = 9.4(Classic)/9.2(GALAS)


こちらはシクロプロピルを窒素原子ではなく隣に導入しています。
同じく立体障害の影響でしょう、予測よりも実測値の方が低いpKaになっています。

 

と言うことで、ドラッグデザインにおける塩基性調節に関して、
電子吸引性基の導入だけでなく、立体障害も考慮に入れてデザインしたいなって思うのですが、今のところACD/Percepta pKa(Classic/GALAS)で予測しつつ構造から想像するのみ(Classic/GALASの違いは分からない)。
立体障害を考慮したpKaの予測方法はあるのかしら?