2匹目のドジョウを狙える

#souyakuAC2022

 

2匹目のドジョウを狙える


Discovery of Small-Molecule CD33 Pre-mRNA Splicing Modulators
https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.1c00396

Pfizer社によるRNA創薬(多分)の報告を紹介する。


ハイライト
1)創薬コンセプト:低分子によって、選択的スプライシングにおけるexon2をスキップ(exclusion)させて標的タンパクのアイソフォーム産生を制御する

2)HTSヒット化合物の取得:レポーターアッセイによってexon2スキップを確認した後にCD33タンパク発現の変化を確認

3)HTSヒット化合物の出元:別のRNA創薬(PCSK9が標的)で誘導体展開を行っていた化合物だった


創薬コンセプト】
ゲノムワイド関連解析(GWAS)から、CD33の一塩基多型(SNP)と遅発性アルツハイマー病(LOAD)の関連が示唆されている。
CD33遺伝子は、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン3(Siglec-3)という主に脳の単球およびミクログリア細胞の表面に発現している一回膜貫通型受容体をコードしている。
CD33のpre-mRNAの選択的スプライシングにおいて、exon2が含有(inclusion)されると、Siglec-3内のシアル酸の結合部位V-set Igドメインを含む完全長なCD33Mが翻訳されるが、exon2がスキップ(exclusion)されると、V-set Igドメインが欠損した不完全長なCD33mが翻訳される。(シアル酸はSiglec-3のリガンドである。)
pre-mRNAの選択的スプライシングの変化による完全長CD33Mの減少が、LOADに対して保護的であると示唆されているため、選択的スプライシングを調節してexon2をスキップさせて完全長CD33Mの産生量を減らせれば、LOAD治療に有望かもしれない。


【HTSヒット化合物の取得】
1)K562細胞に遺伝子編集を用いて一次スクリーニングの評価系を作成
  → exon2に終始コドンを導入、exon3にルシフェラーゼタンパク質を導入
   (exon2が含有すると翻訳ストップ、スキップされると蛍光を示す)

2)Pfizer社の300万化合物ライブラリーを評価(1点のみ → 再試験&カウンター → 濃度測定)
  → 78化合物がHTSヒット化合物として同定(ヒット率=0.0025%)

3)HTSヒット化合物の類似性・クラスター検索で化合物を追加(合計231化合物)
  → ケモインフォマティクス解析で初期SARを取得

4)二次スクリーニングとして、THP-1細胞のマクロファージ分化の際のCD33タンパク発現の変化を評価
  → exon2スキップの増加がCD33細胞表面発現の減少につながっていることを確認

5)RNAへの結合そのものを評価した訳ではないが、タンパクに結合する化合物(FDA)およびRNAに結合する化合物(R-BIND)と物理化学的性質や
構造的特徴を比較すると、本化合物群はRNAに結合していると期待される。(Table-S1)


【HTSヒット化合物の出元】
HTSヒット化合物は、以前に別プロジェクトのRNA創薬で誘導体展開を行っていた化合物だった。

Small Molecule Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin Type 9 (PCSK9) Inhibitors: Hit to Lead Optimization of Systemic Agents
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.8b00650

以前のRNA創薬は、低分子がPCSK9のmRNA-リボソーム界面に結合してPCSK9タンパクの翻訳を阻害するコンセプトであった。
本化合物群はRNAに結合しやすいファーマコフォアを持っているのだろう。
ただし、今回のexon2スキップとPCSK9翻訳阻害それぞれの活性に相関は無かった。

 

過去にRNA創薬で誘導体展開した化合物が、新たなRNA創薬でもヒットした。
先日、塩野義さんのS-217622(Ensitrelvir)を紹介した際に、『以前に他の創薬プロジェクトで展開したことのある自社オリジナル化合物でその際にPK評価を実施したデータが残っていたのか』と述べたが、
塩野義さんは他にも、
HIVインテグラーゼ阻害剤テビケイ(ドルテグラビル)を、活性中心の2つのマグネシウムイオンにキレートして酵素反応を阻害するコンセプトで取得
・ キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬バロキサビル(ゾフルーザ)を、同じく活性中心の2つのマンガンマグネシウムなど金属にキレートして酵素反応を阻害するアプローチでコンセプトで取得
→ その出元はドルテグラビルで誘導体展開した化合物がヒット化合物だった(って言ってた気がする、多分)

『二匹目のドジョウを狙える』と言うか、例えば、
小野さんはプロスタグランジン誘導体をたくさん持っているかもしれないし、大塚さん住友さんは中枢疾患に合いそうなヘテロ縮環構造を持った化合物をたくさん持っているかもしれないし、どこかの会社はキナーゼ阻害剤ライブラリーを持っているかもしれない。
そういう一つのコンセプトに特化した独自の化合物を持っていると、次のプロジェクトに活かされる可能性があるので重要だなと思った。
もしRNA創薬に本気で取り組みたいならRNAにフォーカスした化合物ライブラリーを持った方が良いのかしらね。