2匹目のドジョウを狙えるpart2(耐性株に効かす)

2匹目のドジョウを狙えるpart2(耐性株に効かす)

#souyakuAC2022


Discovery of CH7057288 as an Orally Bioavailable, Selective, and Potent pan-TRK Inhibitor
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c01099

 

ハイライト
1)創薬コンセプト:中外製薬のキナーゼフォーカストライブラリーから4環系化合物を取得し、活性向上と酵素誘導リスク回避を達成

2)活性の向上:結合様式はTypeⅡ型(不活性化型・DFG-out)と仮定し、ドッキングシミュレーションを駆使して疎水性ポケットを埋めた

3)酵素誘導リスクの回避:水素結合ドナーの導入が効果あり

4)注目したい点:ユニークな構造によってキナーゼ選択性と耐性株への有効性を取得

 

創薬コンセプト】
キナーゼ融合は強力な発癌性ドライバーとして作用するため、キナーゼ阻害剤は臨床における融合癌遺伝子を有する癌の治療に有効である。
Neurotropic Tyrosine Receptor Kinase(NTRK)1-3遺伝子は、それぞれTRKA-Cをコードしており、それらのキナーゼドメインの70%が相同性を有している。
非小細胞肺がん(NSCLC)や結腸直腸癌(CRC)において、NTRK1融合は発癌性ドライバーとして作用しており、TRK阻害剤は、NSCLCやCRCの治療薬として期待できる。


ところで中外製薬は、以前にALK選択的阻害剤アレクチニブを創製している。

ALK(anaplastic lymphoma kinase)選択的阻害剤アレクチニブの創製
https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/25/2/25_81/_article/-char/ja

アレクチニブの特徴は、他のALK阻害剤(クリゾチニブ)とは異なるユニークな4環系の構造を有する点である。
構造が異なるため、クリゾチニブとは異なる結合様式が期待でき、クリゾチニブ耐性株(例えばL1196M)に有効であった。
加えて、そもそも一般的なキナーゼ阻害剤に含まれる構造(例えばアミノキナゾリンやアミノピリジン)を持たないユニークな構造であることから、他のキナーゼに対する選択性も良好であった。


今回、TRK阻害剤の創製を目指して中外製薬のキナーゼフォーカストライブラリーから同じく4環系のヒット化合物1を取得し、誘導体展開を行った。
ヒット化合物1はすでにTRKA~Cに対してIC50=4.7~8.1nMの良好な阻害活性を示しつつ他のキナーゼに対する選択性が良好であった。
ただし、CYP3A4酵素の誘導能を持っていたため、更なる活性向上に加えて、酵素誘導リスクの回避に着手した。

【活性の向上】
ヒット化合物1とTRKAとの共結晶は取得できなかったため、ドッキングシミュレーションによって誘導体展開を行った。
構造的特徴から、アレクチニブと同様にヒンジ領域に結合し、結合様式はTypeⅡ型(不活性化型・DFG-out)であると仮定した。
シミュレーションによると、
1) モルホリニルエチルオキシパーツは溶媒暴露領域にあったため、今後の物性調節に有用かもしれない。
2)シクロプロピルメチルオキシピリジンパーツは、バックポケットを埋めつつ、F589とπ-πスタッキングで相互作用している可能性が示唆された。
エーテルであるシクロプロピルメチルオキシパーツを、アミドであるシクロプロピルアミノカルボニルに変換したところ、活性IC50が3倍以上向上した。
アミドのNHはE560と水素結合を形成しているかもしれない。
一連の活性向上のための誘導体展開において、酵素誘導は改善しなかった。

 

酵素誘導リスクの回避】
2012年にFDAとEMAによる薬物間相互作用評価のガイドラインが策定された。
これによると、CYPのような代謝酵素の誘導は、mRNAレベルで評価すべきであり、
1)mRNAレベルが対照物質と比較して2倍未満であること、
2)mRNAレベルの上昇率が陽性物質(CYP3A4の場合はリファンピシン)と比べて20%未満であること、
この2点が満たされた化合物に関しては、酵素誘導能が低いと判断できる。
今回、mRNAの評価方法はスループットが低かったため、酵素的酸化(テストステロンの6β位ヒドロキシ基の酸化量の変化)によって酵素誘導能を評価した。
CYP3A4のmRNA発現量と酵素的酸化活性には相関があることが分かっている。

ヒット化合物1は、酵素誘導能がネガコン(DMSO)と比較して6.5倍、ポジコン(リファンピシン)と比較して33%であり、2倍/20%の閾値を満たさなかったことから、
酵素誘導リスクが高いと判断された。


酵素誘導は核内受容体(PXR,CAR,AhR)の活性化が原因であることが多い。特にPXRに対して、ドッキングシミュレーションを実施したが、大きな疎水性ポケットを持つPXRであるにも関わらず化合物1が剛直で長いためか(16Å)、うまくハマらなかった。
もしかしたらPXRが原因ではないかもしれない?
ピリジン側の変換で酵素誘導が改善しなかったため、モルホリンパーツの変換を行った。
1)モルホリンを架橋したり増炭で7員環にしたり嵩高くするアプローチは効果がなかった。
2)モルホリンの塩基性を上げると酵素誘導能が大きく改善したが、他のキナーゼLCKの活性が上がって選択性が悪化した。
   → 後の検討で塩基性を上げても酵素誘導能の低減に効果がなかったことが分かった。
3)NHのような水素結合ドナーを含むパーツを導入すると酵素誘導能が大きく改善した。
4)モルホリニルエチルオキシパーツはフレキシブルであるため、オフターゲットとの相互作用を触りやすい(?)と考え、
芳香環に直付きモルホリンにして剛直性を増したところ、効果は薄かったが、僅かな改善が見られた。
5)芳香環に直付きで水素結合ドナーパーツとしてスルホンアミドを導入したところ、化合物5dは、
ネガコン(DMSO)と比較して1.2倍、ポジコン(リファンピシン)と比較して0.9%であり、酵素誘導能が大きく改善した。
6)更なる検討により、化合物7を取得した。
   → 化合物7は、TRKAと共結晶が取得でき、予想通り結合様式はTypeⅡ型(不活性化型・DFG-out)であった。
   → 化合物7は、ネガコン(DMSO)と比較して3.0倍、ポジコン(リファンピシン)と比較して7%であり、酵素誘導の懸念が残ったが、
実際にCYP3A4のmRNA発現量を評価したところ、3.0倍未満/20%未満で酵素誘導リスクは低いと判断できた。

 

【注目したい点】
化合物7は、ユニークな構造によってキナーゼ選択性(ALK,EGFR,KDR,etc)と耐性株(エヌトレクチニブの耐性株G667C)への有効性を取得した点である。
これはユニークな構造によりエヌトレクチニブとは異なる結合様式を取っているためと考えられる。
耐性株に効かすユニークな構造とはどのような構造であろうか?

彼らは、化合物7とエヌトレクチニブ、それぞれとTRKAのG667C変異株の相互作用をドッキングシミュレーションで考察している(図8)。
エヌトレクチニブはジフルオロベンゼンがCys667と立体障害によって上手く相互作用できなくなって有効性が低下し、
一方、化合物7はむしろ疎水性相互作用を獲得して活性が維持していると考えられた。


似たような状況が、以前のアレクチニブでも見られた。

CH5424802, a Selective ALK Inhibitor Capable of Blocking the Resistant Gatekeeper Mutant
https://doi.org/10.1016/j.ccr.2011.04.004

アレクチニブ(CH5424802)は、小さなシアノ基がLeu1196とCH-π相互作用しているが、先行品クリゾチニブの耐性株L1196Mに対しても同様に
Met1196と相互作用を維持することで有効性を維持していた。

耐性株は抗がん剤だけでなく感染症でも問題となっている。
塩野義さんは抗HIV薬ドルテグラビルを創製した際に、先行品ラルテグラビルとの差別化の一つとして、耐性株への有効性を挙げた。

次世代HIV-1 インテグラーゼ阻害剤 ドルテグラビルの優れた耐性プロファイルに関する考察
https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/26/2/26_71/_article/-char/ja/


複数の耐性株にドルテグラビルが有効である原因の一つとして、ウイルスDNA 3'末端アデニンのπ-πスタッキング相互作用により、乖離半減期が長いためと考えた。
インテグラーゼのアミノ酸変異に対して、影響は受けるものの、乖離半減期の長さによって活性を維持している。
また、アデニンはウイルスDNAの必須部位で変異しないため、その効力は失われない。
一方、ラルテグラビルはループ領域のY143と相互作用しているが、Y143が変異すると活性が下がってしまう。

つまり、『変異しない部位のみ』と『小さく強く相互作用』することが耐性株に効かす(もしくは耐性化を防ぐ)重要なポイントであると考えられる。
中外さんの4環系化合物も、ただユニークなだけでなく、剛直でシンプルな構造が良かったのかもしれない。

話は変わるが、中外さんは抗体ばかり話題になるけど低分子(特にキナーゼ)もアレクチニブのようなブロックバスターを創出したり超強い。キナーゼマスターがいるのだろう。
今後は塩野義さん/ペプチドリームさんやペプチドリームさん/モジュラスさんみたいな、ペプチド医薬の低分子化にも取り組むのかな?