マジックメチルを狙って入れる_その1

マジックメチルを狙って入れる_その1

 

#souyakuAC2023

 

 以前に塩基性を立体的に制御する記事を書いたが、

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/03/03/064117

もちろん活性においても同様である。今回、置換基を導入することで立体配座を制御して安定配座を活性配座に近づけて活性向上を達成した事例を2つ紹介する。

 

「立体」だ!!

「立体」でやれ!

 

1報目:メルク社の事例

Discovery and Optimization of Potent, Selective, and Brain-Penetrant 1-Heteroaryl-1H-Indazole LRRK2 Kinase Inhibitors for the Treatment of Parkinson’s Disease

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c01605

 

 LRRK2 (Leucine rich repeat kinase 2)阻害薬は、神経変性疾患パーキンソン病の疾患修飾薬として期待されている。メルク社は以前にLRRK2阻害剤MLi-2を報告したが、MLi-2は種間でPKのバラつきが大きくヒト予測投与量が高用量となり、かつ薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)と遺伝毒性リスクがあり、周辺展開では改善できなかった。そこで、上記リスクを改善した新規LRRK2阻害剤の創製を目指した。

 

【MLi-2から骨格変換してCpd 20を創出】

  • インダゾールを逆向きに変換して水素結合ドナー(HBD)の数を減らした。
    • HBD数が多いとPgp基質認識性が上がり(脳内移行性が下がり)中枢薬に不向きとなる。
    • MLi-2のインダゾールの1位NHやCpd 20の3位水素原子はHBDとしてHinge領域と相互作用している。
    • 静電ポテンシャル(Va(r): electrostatic potential descriptor values)の計算値から、HBDの塩基性すなわち相互作用の強さ(活性への影響)を推察した。骨格変換で活性が下がった分は他の相互作用でサポートした。
  • 溶媒露出部位のジメチルモルホリンからヒドロキシ基を含むピロリジンに変換して溶解度向上を狙った。結果として効果は無かったが。
    • ヒドロキシ基はHBDなのでPgp基質認識性が上がりそうだがジメチルでマスクして逃れるデザイン。
  • ピロリジンを架橋してFsp3を上げて(平面性を下げて)溶解度向上を狙った。
    • 溶解度に劇的に効果あり。

 

【安定配座と活性配座が一致すると活性向上】

  • Cpd 20のシクロプロピル基に置換基(メチル、ジメチル、シクロプロピル)を導入したCpd21,22, 24を合成した。
    • ジメチルのCpd22のみ活性が低下した。
    • 結合様式を解析すると、シアノ基の水を介した水素結合とシクロプロピル基の疎水性相互作用がハマるのは、シアノ基とインダゾール縮環が同一平面状、つまり活性配座は角度0°が良い。
    • QM計算すると、Cpd 22の最安定配座は角度110°で、0°を取るには8 kcal/mol程度の大きなペナルティを要する。
    • 一方でCpd 24の最安定配座は角度0°で活性配座と一致して高活性を示した。

 

  • 最終的には、Cpd 24はin vitro小核陽性で先には進めず。ピロリジンの架橋を解いたCpd 25がin vitro小核陰性・Ames陰性で有望化合物として選抜された。
    • 僅かな違いで毒性回避できることもあるので最適化は細かく合成すべし。

 

2報目:大正製薬の事例

Lead generation from N-[benzyl(4-phenylbutyl)carbamoyl]amino acid as a novel LPA1 antagonist for the treatment of systemic sclerosis

https://doi.org/10.1016/j.ejmech.2023.115749

 

 LPA1 (Lysophosphatidic acid receptor 1)は組織線維化と関連が示唆されていることから、その拮抗薬は全身性強皮症の治療薬として期待されている。大正製薬は、自社ライブラリーのHTSから見出したヒット化合物を元に既知のX線結晶構造解析の情報(4Z34)を利用したStructure-Based Drug Discoveryを行い、Cpd 17 (IC50 = 110 nM)を見出した。更なる活性向上を目指して、MD計算から置換基導入による安定配座の制御を計画した。

 

【メチル基導入で安定配座を活性配座に寄せて活性向上】

  • MD計算でCpd 17とLPA1の複合体解析を実施したところ、N-ベンジル部位は127°の状態が活性配座であった。
    • 一方でCpd 17の安定配座は±120°周辺で逆向きも取り得る。
  • ベンジル位にメチル基を導入した化合物の安定配座を計算すると、(R)-体Cpd 18は120°周辺に傾き、(S)-体Cpd 19は-120°周辺に傾いた。
    • 実際にCpd 18 (IC50 = 1.60 nM)で活性が69倍向上、Cpd 19 (IC50 = 470 nM)は活性が4倍低減した。

 

 化合物の活性向上を目指す際に、①新たな相互作用を獲得したり、②すでにある相互作用を強化したり、がアプローチとして考えられますが、安定配座と活性配座を一致させることも有用なアプローチの一つです。今回は置換基を導入することでそれを達成した事例を紹介しましたが、他にも構造を固定化(Rigid)にするのもありです。ただ、一般的に固定化すると平面性が上がる傾向がある気がする(スピロ構造みたいに立体的に固定化することもあるけど)ので、溶解度とかも考慮すると、置換基導入で安定配座を制御しつつ3次元性も上げるアプローチは面白いなって思いました。合成難易度も上がるかもだけど。大正さんはエルマンイミンを用いて上手く合成していると思う。

 マジックメチルを狙って入れる。ハッキシ言って、おもしろカッコいいぜ!