阻害剤を分解剤に変える

阻害剤を分解剤に変える

#souyakuAC2023

 Novartis社とカリフォルニア大学バークレー校(UCB)のダニエル K. ノムラ教授の共同研究。標的タンパクリガンド(ここでは主に阻害剤)の溶媒露出部位にフマル酸誘導体(3-ベンゾイルアクリルアミド)を付けると標的タンパク分解誘導剤になる。

 ノムラ教授はPROTACやMolecular Glueの研究だけでなく、逆に脱ユビキチン化によってタンパクを安定化させるDUBTAC技術も開発してVicinitas社を立ち上げている。

 

まずはこのうっとうしい右腕を破壊させてもらう

 

Rational Chemical Design of Molecular Glue Degraders

https://doi.org/10.1021/acscentsci.2c01317

 

ハイライト

1)僅かな構造変化で阻害剤は分解誘導剤に変わる

2)3-ベンゾイルアクリルアミドを付与して阻害から分解誘導に変える

3)3-ベンゾイルアクリルアミドはRNF126を介して標的タンパクを分解する

4)他の阻害剤の溶媒露出部位に導入

 

【その1:僅かな構造変化で阻害剤は分解誘導剤に変わる】

  • 標的タンパク分解 (TPD: Targeted Protein Degradation)は、通常の低分子創薬で狙うのが難しいアンドラッガブルな疾患関連タンパクを破壊する強力なアプローチである。
  • TPDの主要なアプローチは、PROTACsとMolecular Glueである。
    • PROTACsは標的タンパクとE3リガーゼそれぞれのリガンドをリンカーで繋ぐ合理的デザインが可能だがMolecular Glueを狙って取得は難しい。
      • 細胞系フェノタイプスクリーニングで幸運にも手にするとか・・・。
    • 近年、僅かな構造変化で標的タンパクリガンドがMolecular Glueに変換された研究が報告されている。
      • 標的タンパクリガンド(ここでは主に阻害剤)に何かパーツを付与することによってMolecular Glueに変換できないか検証した。

Nature, 2020, 585, 293–297. https://doi.org/10.1038/s41586-020-2374-x

Nature, 2020, 588, 164–168. https://doi.org/10.1038/s41586-020-2925-1

 

【その2:3-ベンゾイルアクリルアミドを付与して阻害から分解誘導に変える】

  • CDK4/6阻害剤Ribociclibを用いて、標的タンパクのリガンドを標的タンパク分解誘導Molecular Glueに変換するパーツを探索した。
  • RibociclibとCDK4が複合体を形成する際の溶媒露出部位に該当するピペラジンに対して、様々なカルボン酸と縮合させた化合物を合成した。
    • 各化合物 (3 μM)を子宮頸癌C33A細胞で24時間処理したところ、p-トリフルオロメチル桂皮酸と縮合したEST1027は50%を越えるCDK4の減少を示した。
      • EST1027はCDK6の減少は示さなかった。
    • 位置異性体のEST1051やEST1054、二重結合を還元したEST1036はCDK4の減少を示さなかった。
      • EST1027とEST1051、EST1054は同程度の細胞毒性あり。
      • CDK4分解誘導は、細胞毒性とは異なる作用機序かつ共有結合性の特異的反応と考えられる。
    • プロテアソーム阻害剤で処理するとCDK4分解が抑制された。
    • 本反応はプロテアソーム阻害剤を加えると抑制されたため、ユビキチン・プロテアソーム系を介していると考えられる。
    • Tandem Mass Tagging (TMT)ベースのプロテオーム解析を実施した。
    • 5,000以上のタンパクの中でCDK4を含む100くらいのタンパクが大きく減少(そこそこの選択性)

 

  • Ribociclibと似た化学構造のCDK4/6阻害剤Palbociclibにシンナムアミドを適用 (EST1090)したところ、CDK4は分解されなかった。
    • Ribociclibを用いて再びパーツ探索した。
  • 3-ベンゾイルアクリル酸と縮合したEST1060は用量依存的にCDK4を分解した。
    • シンナムアミドEST1027と同様にCDK6は分解しなかった
    • Palbociclibに適用したEST1089も同様にCDK4を分解した。

 

【その3:3-ベンゾイルアクリルアミドはRNF126を介して標的タンパクを分解する】

  • EST1027およびEST1060の共有結合部位(α,β-不飽和カルボニルのオレフィン部位)がCDK4分解に必要であることから、E3リガーゼとの共有結合を介した作用機序と推定して、標的探索を行った。
  • EST1027に対して、isotopically labeled desthiobiotin azide (isoDTB)タグベースのActivity-Based Protein Profiling (ABPP)による標的探索を行った。
    • 定量された3,772個のプローブ修飾システインのうち、control/EST1027 ratio > 2 ( p-value < 0.05)の49個の標的が同定された。
  • RINGファミリー E3ユビキチンリガーゼRNF126を推定標的として同定した。
    • RNF126の亜鉛配位Cys32と共有結合を形成している。
      • Cys13, Cys16, Cys29が残っているためRNF126の機能は維持している。
    • ゲルベースABPPにより、EST1027およびEST1060、EST1089 (Palbociclib誘導体)がRNF126に濃度依存的に結合することを確認した。
      • EST1090 (Palbociclib誘導体)はCDK4への結合が確認されず。
    • RNF126をノックダウンするとEST1027のCDK4分解は抑制された。
    • EST1027はRNF126も有意に減少させた。
      • CDK4-EST1027-RNF126は三者複合体を形成してユビキチン・プロテアソーム系で分解が誘導されていることが示唆された。
    • 残り48個はユビキチン・プロテアソーム系と関連が無いタンパクだったのでこれ以上の追跡はしなかった。
  • RNF126に結合するEST1060の最小部分構造の探索を行った。
    • ピペラジンJP-2-196はEST1060と同等の強さのRNF126への結合を確認した。
    • JP-2-196のアルキン修飾体を用いたゲルベースABPP (control/EST1027 ratio > 2, p-value < 0.01)により、RNF126の加えてRNF40, MID2, RNF219, RNF14, LRSAM1の5つのE3リガーゼへの結合も確認された。
    • NMR解析により、JP-2-196がRNF126と相互作用を形成することでRNF126タンパクのフォールディングや安定性、機能を損なわないことが推察された。

 

【その4:他の阻害剤の溶媒露出部位に導入】

  • 3-ベンゾイルアクリルピペラジンJP-2-196をCDK4阻害剤以外の標的タンパクリガンドに適用した。
  1. 溶媒露出部位にピペラジンまたはモルホリン構造を含む化合物への適用

  1. 溶媒露出部位にピペラジン構造を含まない阻害剤への適用
    • BRD2/3/4阻害剤のJQ1から誘導したLP-2-197はBRD4のみ分解誘導を示した。
      • CDK4/6阻害剤Ribociclibから誘導したEST1027やEST1060がCDK4のみ分解誘導したケースと似ている。
      • ピペラジンをエチレンジアミンに変換したJP-2-219や、trans-1,4-不飽和ジケトンをcis体に変換したFB-84-GG64もBRD4分解誘導を示した。(ただしJP-2-197より分解能は低い。)
    • Pan-HDAC阻害剤Vorinostatに適用したところ、HDAC1と3は分解誘導したが、HDAC2と6は分解誘導しなかった。

  1. 薬剤耐性変異タンパクに対する分解誘導の適用
    • アンドロゲン受容体ARの変異体AR-V7を狙った。
      • AR-V7は、アンドロゲンや多くのAR標的薬が作用するリガンド結合ドメインが欠損した変異体であり、アンドラッガブルターゲットと考えられる。
      • AR-V7のDNA結合ドメインに結合するリガンドとして知られているVPC-14228に適用したところ、野生型ARと変異型AR-V7それぞれを分解誘導した。

 著者らも述べているように、まだ有効性や選択性、安全性や基質適用範囲など、最適化には更なる検討が必要ではあるが、合理的かつ容易に標的タンパクリガンドをMolecular Glueに変換できるアプローチとして興味深い。

 また、EST1027のプロファイリング時に、5,000以上のタンパクの中でCDK4を含む100くらいのタンパクが大きく減少して『そこそこの選択性』と述べており、素人的には100個も減少して大丈夫?って思うが、核酸医薬において、標的遺伝子のノックダウンだけでなく他にも多くの遺伝子が増減するが、AMEDの『核酸医薬品のオフターゲット効果のリスク評価に資するヒト遺伝子機能の抽出と分類に関する調査(発現抑制による機能低下がリスクとなりうるヒト遺伝子を抽出・分類するための最初の試みとして、生命維持に重要な機能を有する遺伝子及び疾患との関与が大きいと考えられる遺伝子約 1,700 個をまず選定し、ヒトとマウスの病態情報を整理したもの)』を参照しながら安全性を確認する的な話を聞いた気がするので、タンパク分解誘導も色々分解しちゃうけど疾患やマージン等を含めて安全性を確認していくのかな。知らんけど。

https://www.amed.go.jp/program/list/17/01/yakuzai_kakusaniyakuhin.html

 

とは言え、自分が扱っている化合物に試してみたいよね。(試してみたかった)

唆るぜ、これは・・・!