革命×覚醒 前夜

革命×覚醒 前夜

巷で話題のRevolution medicines (RevMed)社のDaraxonrasib以前の報告。mTORアロステリック阻害剤ラパマイシンの薬効不足の課題を、ATP競合阻害剤を繋げることで補った。FKBP12–ラパマイシン複合体がmTORC1と結合するがmTORC2とは結合できない性質を利用した妙技。一方、ピサ大学はCB1/CB2アゴニストとCB2PAMを繋げることでCB2選択的アゴニストを創製、しかもGタンパク質バイアスのBiased Ligandとなった。

選択性の低いオルソステリックリガンドと選択性の高いアロステリックリガンドを1つに合体させることで、『オルソステリックの活性』と『アロステリックの選択性』を併せ持った化合物を得ることができた。

 

アレを食らったら・・・

ヤバい・・・

絶対に駄目だ

【① RevMed社によるmTORC1選択的阻害剤】

Discovery of RMC-5552, a Selective Bi-Steric Inhibitor of mTORC1, for the Treatment of mTORC1-Activated Tumors

J. Med. Chem. 2023, 66, 149–169.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c01658.

mTORは、セリン/スレオニンタンパク質キナーゼであり、RTK/PK3Kシグナル伝達の下流に位置している。mTORは、mTORC1およびmTORC2の2種類の複合体を形成し、前者はS6Kや4EBP1などをリン酸化することで正常細胞およびがん細胞の増殖を促進し、後者はAKTをリン酸化・活性化することでグルコース代謝、増殖、細胞生存、成長に影響を及ぼす。

mTOR阻害剤は3つに分類される。

第一世代: ラパマイシンおよび類縁体, FK-506など

・ アロステリック部位に結合してFKBPと三者複合体を形成

・ mTORC1によるS6Kリン酸化を阻害するが、4EBP1リン酸化は弱い

・ mTORC2へはほとんど影響を及ぼさない

第二世代: MLN0128, PP242, XL388

・ オルソステリック部位に結合してATP競合阻害

・ mTORC1および2すべての基質のリン酸化を阻害

 → 毒性があり使用が制限

第三世代: RapaLink-1

・アロステリック阻害剤とオルソステリック阻害剤を繋げた

・ S6Kおよび4EBP1のリン酸化を阻害しつつ、AKTのリン酸化を抑えた

・ mTORC2選択性が不十分 (AKTリン酸化も弱く阻害してしまう)

 → そこで、Revolution Medicines社は、選択性の向上を目指した

● 今回の創薬コンセプトその1: mTORC1複合体の場合

・ ラパマイシンのみ: FKBP12に結合した後、mTORのアロステリック部位を介して三者複合体を形成し、mTORC1のS6Kおよび4EBP1のリン酸化を阻害

・ ただし、4EBP1リン酸化の阻害活性は弱い

 → ATP競合阻害剤MLN0128を繋げることで、4EBP1リン酸化も強く阻害させたい

● 今回の創薬コンセプトその2: mTORC2複合体の場合

・ ラパマイシンのみ: FKBP12に結合した後、mTORのアロステリック部位を介した三者複合体を形成できない(Rictor, Sin1に塞がれている)

 → ATP競合阻害剤MLN0128を繋げても、オルソステリック部位に届かずにATPリン酸化を阻害できないはずだが

 → RapaLink-1MLN0128がオルソステリック部位は部分的にアクセスしてしまい、弱く阻害してしまう

 → 化合物とリンカーを調節して、選択性を上げたい

● RapaLink-1および類縁体(RMC-4287)の課題を解決

・ pEBP1 IC50/pAKT IC50=3.9の低い選択性

 ✓ リンカーをリジッドにして選択性向上

 ✓ MLN0128を低活性の阻害剤に変えると選択性が向上

  → 最終的にはMLN0128を選択したけど

 ✓ リンカーは最適な長さがある(長い方が良い傾向あり)

  → 最終的には元々と同程度の長さを選択したけど

・ トリアゾール体の合成が低収率かつ精製困難

 ✓ カーバメート体は活性・選択性が同等で合成が容易

・ げっ歯類でβ-ケトラクトンが開環し(AUCベースで35%)、開環体は活性が100倍以上減弱

 ✓ C32ヒドロキシル基で開環を回避

・ 最適化の結果、p4EBP1 IC₅₀ = 0.48 nM, mTORC1/mTORC2 ≒ 40-foldの高選択性なRMC-5552を取得

● RMC-5552のプロファイリング

・ MCF-7ヒト乳癌細胞株由来CDXモデルマウスで評価

 ✓ 単回ip投与で、用量依存的に4EBP1リン酸化阻害し、48時間後も阻害は持続

 ✓ 週1回ip投与(3, 10 mg/kg, 30日間)で顕著な腫瘍体積抑制効果を示し、体重減少は控えめ(10%以内)

・ NCI-H2122(KRAS G12C変異-STK11欠損)ヒト肺腺癌細胞株由来 CDX モデルマウスで評価

✓ MLN0128の代わりにXL388を繋げた類縁体RMC-6272(10 mg.kg, 週1回ip投与)は、KRAS G12C阻害剤ソトラシブ(100 mg/kg, po, QD)との併用で腫瘍体積抑制効果が増強、体重減少はほとんどなし

・ キナーゼパネルおよびユーロフィン社のスクリーニングでほとんど阻害なし

● RMC‑5552は、RASコンパニオン阻害剤として、固形がんを対象にPhaseⅠまで臨床開発を実施していたが・・・現在継続情報はない

 

● mTORC1-RMC-5552-FKBP12複合体のCryo-EM構造解析(8ERA)

・ RMC-5552のラパマイシン部分は、FKBP12のPhe37, Phe47, Trp60, Ile57, Val56, Ile91残基と疎水性相互作用を形成

・ RMC-5552のMLN0128部分は、mTORの以下相互作用を形成

 ✓ ヒンジ領域G2238, V2240の主鎖と水素結合

 ✓ Trp2239残基とπ-π相互作用

 ✓ Glu2190, Lys2187残基それぞれと水素結合

・ 両化合物間の距離(リンカー長)は、22.7 Å



【② ピサ大学によるCB2R選択的・Gタンパク質バイアスドアゴニスト】

Design, Synthesis, and Biological Activity of New CB2 Receptor Ligands: from Orthosteric and Allosteric Modulators to Dualsteric/Bitopic Ligands

J. Med. Chem. 2022, 65, 9918–9938.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c00582.

● GPCRは、5つのファミリーに分類され、それらを標的としたFDA承認薬は全体の30%を占めることから、創薬標的として魅力的な膜タンパク質であるが、以下の課題がある

① GPCRはオルソステリック部位がサブタイプ間で高度に保存されているため、選択性が得るのが難しい

② GPCRはリガンドにより活性化した後、Gタンパク質またはβ-アレスチンの2つの経路があり、制御が難しい。

・ ピサ大学のFrancescaらは、以前にCB1受容体(CB1R)およびCB2受容体(CB2R)のオルソステリックアゴニストFM-6bと、アロステリック調節剤EC-21aを見出している

・ そこで、両化合物をつないで、オルソステリック+アロステリックを同時に狙うことで、選択性を高めるアプローチに取り組んだ

● CB2オルソステリックアゴニストWIN55,212-2とCB2R、Giタンパク質の複合体のCryo-EM構造解析(6PT0)をベースに、FM-6bおよびEC-21aのドッキングを実施

・ FM-6bは、WIN55,212-2と同じオルソステリック部位に配置

・ EC-21aは3つのアロステリック部位が候補に挙げられたが(それぞれ文献報告あり)、TM4, 5間のFLAP S3領域上辺がもっともスコアが高かったので採用

 → Ser193残基とEC-21aアミドカルボニル基の水素結合が重要

・ FM-6bとEC-21aの距離は18.5 Å

→ それぞれピリドン環のNからアルキル側鎖を伸ばして、1,2,3‑トリアゾールで連結し、FD‑22a を創出

→ リンカー長は、アルキル側鎖3-トリアゾール1-アルキル側鎖3が最適で、それより短い化合物は活性なし。トリアゾールはTyr190とTrp194の間でπ-π相互作用を形成していると推定

● FD‑22aのプロファイリング

・ CB2Rアゴニスト活性は維持しつつ、CB1Rへの作用はほぼ消失

・ 機能解析では、cAMP抑制シグナルを強く活性化しつつ、β‑arrestin2のリクルートは弱いという、Gタンパク質バイアスを示した(Biased Ligand化)

・ in vitro: LPS刺激BV2ミクログリア細胞(マウス)およびLPS/TNFα刺激ヒトミクログリア細胞に対して、抗炎症作用(IL‑6↓・IL‑10↑)を示した

・ in vivo: オキサリプラチン誘発性神経障害性疼痛モデルマウスに対して、経口投与で神経障害性疼痛(licking latency)を改善した

 ✓ FM-6bよりも高い薬効を示し、鎮痛薬プレガバリンやデュロキセチンと同等

 ✓ CB2RアンタゴニストMC21やSR144528を同時に投与すると薬効が消失したことから、CB2R介在作用と考えられる



今回注目したいのは、1点です。

 それは、選択性の低いオルソステリックリガンドと選択性の高いアロステリックリガンドを1つに合体させることで、『オルソステリックの活性』と『アロステリックの選択性』を併せ持った化合物が得られた点です。ある意味いいとこどりです。

 選択性の低い化合物に新たな相互作用を付与することで選択性が改善すること自体は、たとえば下記のように、①非選択的なマルチキナーゼ阻害剤PCI‑29732にアクリルアミド(ワーヘッド)を付与してBTKのCys481と共有結合を形成できるようにすることで、薬効増強だけでなく他のキナーゼに対する選択性が改善したり、②サブタイプ非選択的なCDK阻害剤SNS‑032をCRBNリガンド(E3 ligaseバインダー)と繋げてPROTACにすることで、機能変化(阻害→分解)だけでなく、サブタイプ選択性を改善したり、よくあることです。

しかし、個人的にはオルソステリックリガンドとアロステリックリガンドを連結させる事例は記憶にありませんでした。今回のRevMed社の事例は、構造生物学に基づいて、FKBP12–ラパマイシン複合体がmTORC1には結合するけれどmTORC2には結合できない性質を利用した上手い研究と考えられます。と言ってもコンセプトはカリフォルニア大学のShokatらのRapaLink発案だけども。

ピサ大学の事例も非常に面白いと思います。特に、CB1/CB2アゴニストとCB2 PAMを組み合わせることで、CB2選択的アゴニストになるだけでなく、Gタンパク質バイアス化したのは、Biased Ligandを狙ってデザインするのは難かったと思うので、制御法の一つとして有用かもしれません。

これはメドケムテクとして、一般的に使えるでしょうか?

テュービンゲン大学のFlorianらは、EGFR阻害剤において、ATP競合阻害剤とアロステリック阻害剤を構造生物学に基づいて合体させ、リンカーを調節することで、阻害活性を激増させることに成功しています。

Commun Chem. 2024, 20;7(1), 38.

https://doi.org/10.1038/s42004-024-01108-3.

また、スクリプス研究所のRichardらは、『共有結合性PPARγ拮抗剤GW9662およびT0070907は、オルソステリック部位を塞ぐものの、PPARγには別のアロステリック部位が存在し、MRL20や脂肪酸がそこに結合して活性化を誘導できてしまうため、完全阻害には至らない』、という課題を解決するため、GW9662/T0070907の芳香環を改変した類縁体を合成し、Cys285 共有結合によるオルソステリック阻害とアロステリック部位の占有による活性化阻害を同時に達成するdual-site共有結合性拮抗剤であるSR16832 を見出しています。

ACS Chem. Biol. 2017, 12, 969–978.

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5652320/.

オルソステリックリガンドとアロステリックリガンドの両方を取得していて、ある程度距離が近いことが前提ですが、非常に面白いメドケムアプローチと思います。あとは、分子量が大きくなるのでPKや物性も制御しないといけませんけども。

 

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。

相性良かったんだな

相性良かったんだな

 

中分子ペプチドが抗体や低分子に替わるニューモダリティと謳われて久しく、実際にGLP‑1ペプチドが医薬品市場を席巻し、環状ペプチドが新たな市場を開拓しつつある。しかし、実はペプチドと抗体を組み合わせるのもあり。

Amgen社は、ペプチドと抗体のDual作用で薬効を増強しつつ抗体のリサイクリング効果を共有して長期作用を実現し、国衛研らは、ペプチドで抗体の安定配座と活性配座を一致させて薬効を高め、南京大は、ペプチドDDSで腫瘍浸潤性を上げつつBiTE様の細胞間架橋と合わせて薬効を増強した。

 

ああ・・・そうだな

【①Amgen社:ペプチドと抗体のDual作用で薬効増強+リサイクリング効果で長期作用】

Discovery of AMG 133, a Glucose-Dependent Insulinotropic Polypeptide Receptor Antagonist and Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonist Antibody-Drug Conjugate for the Treatment of Obesity

J. Med. Chem.2026, 69, 8, 9348–9362.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.6c00032.

肥満治療では、Novo NordiskのGLP‑1受容体作動薬Liraglutide(1日1回)と Semaglutide(週1回)が承認され、いずれも≥5%の体重減少を示す。しかし、患者によっては効果不十分や悪心・嘔吐などの消化器症状が問題となり、依然としてunmet medical needsが残る。

薬効強化のアプローチとして、GLP‑1Rに他ホルモン作用を組み合わせた多重作動薬が開発されている。GLP‑1R/GIPR二重作動薬Tirzepatide(Eli Lilly)は既に承認済みで、GLP‑1R/GCGR二重作動薬Cotadutide(AstraZeneca)はPhase 2、GLP‑1R/GIPR/GCGR三重作動薬Retatrutide(Eli Lilly)はPhase 3に進行しており、いずれもGLP‑1単独より大きい体重減少が報告されている。

GIPRについては、作動薬として利用される一方で、日本・欧米の遺伝学的研究ではGIPR発現/機能低下がBMI低下と関連することが示されている。また、肥満サルでは抗ヒトGIPR抗体とGLP‑1R作動薬Dulaglutide(Eli Lilly)の併用で14%以上の体重減少が得られた。

これらの知見からAmgen社は、GLP‑1R作動薬ペプチドとGIPRアンタゴニスト抗体を単一分子に統合したAntibody–Peptide Conjugate(APC)の創製に着手した。

 

● 抗体-ペプチド コンジュゲート体の設計

・ ペプチドは、GLP-1(7~37)をベースに4つ変換した

 ① Ala8をAib(2-Methylalanine)にして立体障害によるDPPⅣ分解耐性を付与

 ② Gly22をAibにして分解耐性?それともα-ヘリックス安定化かも?

 ③ Arg36をGlyにしてスペーサー調整(たぶん)

 ④ Gly×4, Ser, Lys残基をブロモアセトアミド化して、抗体のCys残基と反応させる

(N末) His7-Aib8-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu- Aib22-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Lys-Gly-Gly36-Gly-(Gly-Gly-Gly-Ser)-Lys(bromoacetamide)-NH2 (C末)

・ 抗マウスGIPR抗体は、3つ結合部位の候補を変異させて検証

 ① 軽鎖上N末近くのAsp88

 ② ヒンジ領域近くFc上のGlu384

 ③ Fc領域上C末近くのThr487

  → それぞれをCysに変異させて、ペプチドと反応させて繋げる

  → 変異Cysはシステアミンで保護し、反応前に還元して戻す妙技

・ in vivo評価(CD-1マウス, iv)において、E384Cが最もバランスの良いPK/PD

 ✓ T487Cはin vitro活性が高いが、E384Cの方がin vivo(db/dbマウス, IP)で高い血糖低下/体重抑制作用を示した

● 最適化検討の実施

・ リンカー結合部位: GLP-1のN末は受容体活性化に不可欠なので避ける(C末のみ)

・ リンカー検討: (G4S)3KをP(PEG11)やAS(AP)5GSKに変換したところ、ペプチド/抗体どちらも活性は維持されたが大きな改善なく、(G4S)3Kを採用

・ ペプチド検討: α-ヘリックス安定化で活性向上

 ✓ G22EによってK26と分子内でイオン結合

 ✓ V16Yによって, F12とπ-π相互作用

・ 検討結果をヒト抗体に適用して28(AMG133)を取得

 ✓ 28は肥満カニクイザルに0.75 mg/kgを週1回投与で、血漿中のインスリン・トリグリセリド・コレステロール濃度を低下させ、6週間で体重を約17%減少

・ AMG133(maridebart cafraglutide)は肥満治療薬として臨床開発中(PhaseⅢ)で、月1回またはそれ以下の頻度で皮下投与、2型糖尿病を伴う肥満患者に対して最大17%の体重減少とHbA1cを最大2.2%の減少

 ✓ 抗体のおかげで生物学的半減期は約21日(セマグルチドは約7日)

https://investors.amgen.com/news-releases/news-release-details/results-amgens-phase-2-obesity-study-monthly-maritide-presented/

 

【② 国衛研ら:ペプチドが抗体の活性配座と安定配座を一致させて活性向上】

Specific peptide conjugation to a therapeutic antibody leads to enhanced therapeutic potency and thermal stability by reduced Fc dynamics

Sci Rep., 2023, 13, 16561.

https://doi.org/10.1038/s41598-023-43431-0.

国立医薬品食品衛生研究所の石井先生、鹿児島大の伊藤先生、東大の津本先生の共同研究。 伊藤先生の研究室では、抗体のFc領域Lys248に特異的に結合するペプチド(CCAP)を見出し、Antibody-Drug conjugate(ADC)に適用してきたが、その中でADCにすることで抗体依存性細胞毒性(ADCC)が増強されることがあった。そこで、その原因を解析した。

 

● ADCの調製と活性評価

・ 抗HER2ヒト化IgGトラスツズマブをモデル抗体にCCAPを結合させ、ペイロードDOTA (1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)をHuisgen反応でつないだ

 ✓ DOTAは放射性同位体をキレートさせることができる

  → 今後の展開性として選んだだけで、本研究ではDOTAに機能的役割はなく、強いて言えば親水性が高く抗体の凝集を引き起こさないためモデルペイロードとして選ばれたのかもしれない

・ ADCのFcγRIIIaへの結合親和性は、ペプチド/DOTAを1つ付けると4~5倍、2つ付けると14~18倍も向上

 ✓ ペプチドのみ付与、DOTA付与で大差がなかったのでDOTAの影響はない

・ ADCによるSK-BR-3細胞(HER2陽性)の細胞死は、ペプチド/DOTAを1つ付けると増強、2つ付けると更に増強

・ 抗CD20ヒト化IgGリツキシマブでも同様の増強を確認

 ✓ FcγRIIIaに対する結合親和性(SPR)KD値は、リツキシマブ単体:61 nM, ジペプチド付加体:2.8 nM, アフコシル体10.9 nM, ジペプチド付加 & アフコシル:1.1 nM, でアフコシル化と相加効果あり

● ペプチド-抗体Fc領域 複合体のX線共結晶構造解析

・ ペプチドの疎水性残基Val, Trpと Fcの疎水ポケット(Met252, Ile253, Met428, Tyr436)が主要な相互作用

 ✓ ペプチドのTrp残基は、FcのHis435残基とπ-π相互作用も形成

 ✓ FcのCH2ドメインとCH3ドメインの間の溝にハマって結合

・ Fc領域およびFc領域-FcγRIIIa複合体それぞれのX線結晶構造解析と比較

 ✓ Fc単体はclosed (N297-L328の距離21.1 Å)

 ✓ Fc-FcγRIIIa複合体はOpen (N297-L328の距離23.9 Å)

ペプチドがFcに結合した状態はOpen (N297-L328の距離25.0 Å)

 ✓ 安定配座と活性配座を一致させて活性向上

・ B-factor 解析: ペプチド結合によってFcのCH2ドメインの構造変化が抑制

・ 水素重水素交換質量分析法(HDX-MS): ペプチド結合によってFc変動が減少

・ DSC: ペプチド結合によって熱安定性が向上

 ✓ CH2/CH3ドメインのTm値70/82 ℃ → ペプチド結合によって84/88 ℃

● 本技術の課題

ペプチド1つ結合するとFcRnへの結合親和性が低下、2つで結合消失

 ✓ ペプチドとFcRnの結合部位が重なっているため

 ✓ 抗体のFcRnに対する結合親和性の低下 → 生体内での半減期が短い

  → 逆に、放射線同位体を付与する場合は、体内からの除去が早い方が曝露の最小化・安全性の観点で良いかもしれない(ただしそこにADCC活性が要るか分からぬ)

 

【③ 南京大:ペプチドをDDSとして腫瘍浸潤性を高めつつBiTE様の細胞間架橋で薬効増強】

Glycoengineering-based anti-PD-1-iRGD peptide conjugate boosts antitumor efficacy through T cell engagement

Cell Rep Med. 2024, 18, 101590.

https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2024.101590.

免疫チェックポイント阻害剤は、免疫系のブレーキを外して腫瘍免疫を再活性化する抗がん剤であり、本庶先生のノーベル賞で広く知られる。キートルーダやオプジーボは世界的に使用され、抗がん剤カテゴリーでもトップクラスの売上を誇る。一方で、コールド腫瘍への奏効率の低さや、抗体というモダリティ特有の組織浸潤性の制限が課題として残る。

そこで南京大学の魏嘉(Jia Wei)先生らは、腫瘍浸潤性を高める環状ペプチド iRGD を抗PD‑1抗体に付与し、薬効を増強するアプローチを検証した。

 

● Antibody-Peptide Conjugateの調製

・ 抗PD-1抗体(CS1003)のFc糖鎖(N297)を改変

 ✓ 天然糖鎖を加水分解酵素で除去した後、二糖LacNAcを導入して、Huisgen反応でiRGDを2つ付加(抗体あたり1.88 iRGD)

 ✓ 合成はワンポット反応で実施可能

・ iRGD-conjugate CD1003は、元のCS1003と比べて、PD-1に対する結合親和性や半減期・血清安定性が同等であった

・ iRGD-conjugate CD1003は、元のCS1003と比べて、iRGD受容体(インテグリンαvβ5およびNRP-1)高発現がん細胞株(N87, HGC27, MFC, B16)への結合量が増加し、インテグリンαvβ5阻害剤の共存下ではその結合量が低下、一方で正常細胞株(293T)への結合量は同等であった

● Antibody-Peptide Conjugateの薬効検証

・ iRGDはがん細胞株と結合し、抗PD-1抗体はPD-1⁺T細胞と結合し、結果としてお互いを引き寄せるBiTE様の“細胞間架橋”作用

・ iRGD-conjugate CD1003は、元のCS1003と比べて、ヒト胃がん細胞株において浸潤性を増加させた

 ✓ HGC27インテグリンαvβ5(結合) → NRP1(内在化)の二段階で抗体の腫瘍深部へ浸潤

・ 複数のマウス腫瘍モデル(MFC, B16F10, 4T1)で腫瘍増殖抑制・生存延長を示し、低用量(0.1 mg/kg)でも効果を維持

 

 今回注目したいのは、3点です。

 1つ目は、タイトル通りペプチドと抗体は組み合わせて色々な機能を引き出すことができて相性が良さそう、という点です。

最初のAmgen社の例は、単にDual作用にするだけでなく、抗体のリサイクリング効果をペプチドも共有して長期作用型の抗肥満薬となっているのが特徴的です。また、国衛研らの例は、今まで何度も紹介してきた『安定配座と活性配座を一致させる』アプローチで、低分子でも出来そうです。アフコース化(協和キリンのテク、ポテリジェント)と相加効果があるのも有望です。南京大の例は、DDSとしてのiRGD付加ですが、結果としてBiTE様の“細胞間架橋”が薬効増強に寄与している可能性があります。

 2つ目は、Amgen社の例で、GLP-1(7-37)のα-ヘリックスの安定化を高めることでin vitro活性が向上した点です。

α-ヘリックス安定化は、鎖状ペプチドの化学的・生体内安定性を増すことがメインで、活性にはフレキシブルの方が対応しやすいと勝手に思っていましたが、GLP-1とGLP-1R複合体のCryo電顕構造解析によると、GLP-1はα-ヘリックス構造で結合しているようです。つまり、こちらも『安定配座と活性配座を一致させる』ことによる活性向上ですね。

 3つ目は、伊藤先生の例で、残念ながらペプチドとFcRnの結合部位が重なっており、リサイクリング効果が失われてしまう点です。

何とか両立できないでしょうか? 以下にペプチド-FcおよびFcRn-Fcそれぞれの構造解析を載せました。どうやら結合部位は完全に一致してしまっているようです(赤枠)が、幸いペプチドがFcと結合する際の足掛かりとなるLys248はFcRnとの相互作用に関与していないようなので、少し横にズラして奥側で相互作用できるような調整(青枠)はできないでしょうか? とは言え、ただ結合すれば良いのではなく、CH2-CH3ドメインの間に結合して構造変化を引き起こしてFcγRIIIa結合Open状態に誘導することが重要なので、ズラしても達成可能か難しそうです。 ちょっと計算範囲が広そうだからMD計算による予測はキビシイかもしれませんね。

それなら、抗アルブミン抗体(VHHなど)やアルブミン結合ペプチドを追加で付与して半減期を延ばす方が現実的かもしれません。

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。

メドケムの革命

メドケムの革命

 

Revolution Medicines(RVMD)社は、undruggable targetであるKRAS(ON)に対して、モレキュラーグルーによってシャペロンタンパク質CypAとKRAS(ON)の三者複合体を形成させることでRAFファミリーとの相互作用を阻害、そのアプローチ自体はFK506/ラパマイシンを模倣したものだが、偶然ではなく狙って化合物をデザインした点が新しい。

戦略の肝はKRAS表面と相互作用が期待できるシャペロンタンパク質の選択と、共有結合ライブラリーの構築。まずはCypA結合体にwarheadを付与してKRAS-C12との三者複合体を成立させ、KRAS側との追加相互作用は後から最適化すればよい。その後、共有結合官能基は外してもよい。

 

わかった(わかってない)

Science, 2023, 381, 794-799.

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg9652.

J. Med. Chem. 2025, 68, 6041–6063.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.4c02313.

J. Med. Chem. 2025, 68, 6064–6083.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.4c02314.

 

【① コンセプト検証: モレキュラーグルーを狙ってデザインする】

● 課題: KRAS(ON)はundruggable target

・ KRASは、GDP結合型のOFF(不活性状態)とGTP結合型のON(活性化状態)を行き来する GTPase

・ KRASは、複数の変異ががんと関連しており、例えば、G12DやG12Vはすい臓がん(PDAC)や大腸がん(CRC)に多く、G12Cは非小細胞肺がん(NSCLC)に多い

・ 市販薬(sotorasib, adagrasib)は、KRASG12C(OFF)を標的としている

 ✓ しかし、腫瘍細胞はKRAS(ON)を増やすことで薬剤耐性化してしまう

 ✓ 一方、KRAS(ON)は平坦でポケットがなく、従来の低分子創薬ではundruggable

● 解決策: 天然物FK506/ラパマイシンの発想をKRASに応用

・ FK506は、Immunophilinの一種であるFKBP12と結合した後、カルシニューリンと三者複合体と形成し、カルシニューリンが本来結合すべきNFATなどとの相互作用を阻害する

・ ラパマイシンも同様に、FKBP12と結合した後、mTORと三者複合体を形成し、mTORが本来結合すべき4EBP1などとの相互作用を阻害する

・ 上記アプローチを利用して、低分子をシクロフィリンA (CypA)と結合させた後、KRASG12C(ON)と三者複合体を形成することで、KRASG12C(ON)とBRAFなどとの相互作用を阻害し、シグナル伝達を阻害する

 ✓ CypAとは、FKBP12と同じく、ペプチジル-プロリル異性化酵素(PPIase)で、タンパク質フォールディングを助ける細胞内シャペロン(Immunophilin)の一種

 ✓ CypAを選んだ理由は、細胞内に高発現かつ安定に存在し、表面に正電荷のアミノ酸を持つため、KRASの負電荷領域との相補性が高い(相互作用が期待できる)ため

● 化合物1同定の経緯

・ 基本骨格は、選択的CypA binderのSanglifehrin Aを元にデザイン

・ Sanglifehrin Aの部分構造に共有結合官能基を付与したライブラリーを用いてスクリーニングした結果、化合物1を取得

・ 1は、CypAおよびKRASG12C(ON)と三者複合体を形成し、KRAS-C12と共有結合していた

 ✓ 1は、モレキュラーグルーとして機能 (FK506/ラパマイシンに似たアプローチ)

 ✓ 1は、CypAに結合することでCypA表面の構造を再構築し、KRAS(ON)との新規界面を創出(chemical remodeling)

・ KRASG12C(ON)とCypAはタンパク質間相互作用を形成していた

 ✓ KRASG12C(ON)-D33, D38, E37, Y85がそれぞれCypA-K151, R149, R148, W121と相互作用しており、CypAの静電チャージが寄与 (狙い通り)

● 1の薬効確認

・ 1はKRASG12C(ON)-CypAと三者複合体を形成してKRAS下流(MAPK経路)を抑制

・ 複数のヒト腫瘍モデルで腫瘍退縮を確認。

・ KRAS(ON)を直接阻害した報告はこれ以前に存在せず、構造的にも機能的にもON-state selective inhibitionを実証した初めての事例

 

【② 1から合成展開してKRASG12C(ON)阻害剤Elironrasibを創製】

● X線結晶構造解析をベースに1から合成方針を策定

・ 1のメチルエステルとフェノールを繋いで、活性配座に固定

・ 環化する部分にKRASの溝があるので、疎水性の置換基で埋められそう

 → 溝にCypA-W121やKRAS-Y64があるので、芳香環を入れると相互作用できそう

・ ジスルフィドは反応性の低いwarheadに換えて安定性と選択性を改善

・ ピリジルインドールを介して環化し、置換基を最適化した化合物14を取得

 ✓ 細胞活性あり(EC50 = 0.62 nM)、WTに対して選択性あり(6.6倍)、三者複合体形成を確認(crosslinking = 47%)

・ 三者複合体のX線結晶構造解析より、相互作用を確認

 ✓ KRASG12C(ON)とCypAのタンパク質間相互作用は1のときと同様に維持

 ✓ 14のアクリルアミドがKRAS-C12と共有結合

 ✓ 14のピリジルインドールがKRAS-Y64とπ-π相互作用

 ✓ 14のメトキシ基がCypA-R146と水素結合

● 14を最適化してElironrasib(RMC-6291)を取得

・ フェノール除去で細胞膜透過性・経口吸収性を改善

・ Yn-amide型の共有結合warheadを導入して活性向上・安定性改善

 ✓ 塩基(ジメチルアミノ基)によりKRAS C12残基を脱プロトン化で求核能を向上

 ✓ ジメチル基による立体障害で共有結合部分の安定化・選択性を向上

・ Warheadリンカーをピロロジンからフルオロピペリジンに換えて活性向上・代謝安定化

・ ベンゼンをモルホリンに換えて脂溶性低減・溶解度改善

 ✓ モルホリン酸素原子とアミドNHが分子内水素結合を形成して、活性配座固定・経口吸収性改善

・ Elironrasib(RMC-6291)は、種間で代謝安定かつ高いバイオアベイラビリティ(経口投与可能)

・ KRASG12C(OFF)阻害剤Sotorasib耐性ゼノグラフトモデルに対して腫瘍体積増加を抑制し、ON状態阻害の有効性を示した

・ NSCLC患者の中枢転移を想定したゼノグラフトモデルに対してKRASG12C(OFF)阻害剤Adagrasibよりも強く長く腫瘍体積増加を抑制した

・ 現在、進行性 KRASG12C変異陽性固形腫瘍患者を対象に臨床開発中

 

【③ Warheadを無くしてpan-KRAS(ON)阻害剤Daraxonrasibを創製】

● 次の展開: すべてのKRAS(ON)を阻害するコンセプト

・ 固形がんは複数の変異で構成されており、例えば、NSCLCはG12Cの割合が多いが、G12VやG12D, その他の変異も含まれ、NRASもある

 → すべてのKRAS(ON)を阻害する化合物の創製を目指す

・ Elironrasib創製の途中で得られた化合物1から展開

 ✓ 1は、CypAおよびKRAS(ON)と三者複合体を形成する非共有結合性KRAS阻害剤

 ✓ 1は、CypAおよびKRAS G12V, G12D, G12Cと結合する(SPR)

 ✓ 1は、KRAS WT, G12V, G12D, G12C, G12R, G61HやNRAS WT, Q61K, HRAS WTら、多くのRAS-BRAF相互作用を阻害する(TR-FRET)*

 (* 下記KRASG12R, KRASG61Hと、NRASWT, NRASQ61K, HRASWTは省略)

● 1を最適化してRMC-6236を取得

・経口投与を目指す)分子量を低減、極性基の除去、水素結合ドナー数を低減

 ✓ N-アセチルプロリンアミド部分を除去

・活性向上を目指す)共有結合官能基が無い分、他の部分で補う必要がある

 ✓ ベンゼン環にヘテロ原子を導入して新たな相互作用を獲得

 ✓ 溶媒領域(ピリジンの先)にピペラジンを導入して溶解度を改善

  → 活性激増にも寄与(CypA KD1が30倍、細胞活性が100倍向上)*

  * 後で構造解析で示すが、新たにCypA-Trp121とπ-カチオン相互作用を獲得した

・Daraxonrasib (RMC‑6236)は種間で代謝安定かつ高いバイオアベイラビリティ(経口投与可能)

 ✓ Daraxonrasib は、PDACやNSCLCの複数変異かつヘテロなゼノグラフトモデルで腫瘍体積増加を抑制した

 ✓ 進行性 RAS 変異陽性固形腫瘍患者を対象に臨床開発中(RAS 変異全般)

● KRAS-Daraxonrasib-CypA三者複合体のX線結晶構造解析

・ Elironrasib創製時と同様の結合様式

 ✓ KRAS(ON)とCypAはタンパク質間相互作用を形成

 ✓ Daraxonrasib のピリジルインドールがKRAS-Y64とπ-π相互作用

 ✓ Daraxonrasibのメトキシ基がCypA-R146と水素結合

・ 加えて、DaraxonrasibのピペラジンがCypA-W121とカチオン-π相互作用

 → 高活性の肝と思われる(元々は溶解度向上が目的だったが・・・狙った?)

・ G12, G13, Q61周辺はスペースがあり変異の影響を受けづらい

今回注目したいのは、1点です。

それは、モレキュラーグルーを(おそらく)狙ってデザイン・取得した点です。

コンセプト自体は、天然物FK506/ラパマイシンを参考にした既存のアプローチです。モレキュラーグルーをデザインすること自体も、Protein degraderでCRBNリガンドをベースに多く報告されてきました。また、平坦でポケットがなく従来の低分子創薬ではundruggableな標的をモレキュラーグルーとして作用して阻害するアプローチも、以下の事例があります。

参考記事『はさまった』

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2026/01/25/065922

・ PD-L1単量体では結合部位が平坦で低分子が結合するためのポケットが存在しないが、化合物2aは、PD-L1二量体を形成させることで疎水性の溝を形成して結合 (induced pocket)し、PD-1結合面を防ぐという間接的な阻害様式をとる。

しかし、一から化合物ライブラリーをデザインしてスクリーニングで取得、メドケム的な合成展開してオリジナルな化合物を取得した事例はこれが初めてではないでしょうか?(知らないor覚えてないだけであったかもしれないけど)

肝は2点、CypAの選択と共有結合性の化合物ライブラリーです。

① CypAを選んだ理由は、細胞内に高発現かつ安定に存在し、表面に正電荷のアミノ酸を持つため、KRASの負電荷領域との相補性が高い(相互作用が期待できる)ため、ということで、標的タンパク質に合わせたシャペロンタンパク質の選択が重要と考えられます。そのようなタンパク質とリガンドのデータを構築することが適用範囲を広げるカギでしょう。

② 選択的CypA binderのSanglifehrin Aの部分構造に共有結合官能基を付与したライブラリーによって、強制的に三者複合体を形成させて (この時点でライブラリー化合物は、共有結合以外に標的タンパク質と相互作用してなくて良い) 、構造解析をベースに標的タンパク質との相互作用を追加形成・最適化、化合物を展開させていくのが良いでしょう。展開させた後で共有結合官能基は外しても良いのは、RMC-6236で実証済です。共有結合官能基は、システインだけでなくリジン等も含めて持っておくと汎用性が広がりそうです。ここは大鵬さんや王子田先生の研究が参考になりそう。

これはProtein degraderや近接系にも使えそうです。

他にも、分子量削減・水素結合ドナー/アクセプターを削除して経口吸収性を向上させたり(マクロサイクル自体が経口吸収性にも寄与してそう)、Yn-amide型の共有結合warheadを導入して反応性・安定性を調整したり、溶媒領域に導入したピペラジンが活性激増に寄与したり、細やかなメドケムテクニックもうまくハマっていて勉強になります。

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。

ペプチドの流儀

ペプチドの流儀

 

Ra pharmaceuticals社はアラニンスキャン情報をベースに脂質を導入して半減期を延長させ、Merck社は構造解析をベースに環を繋いで活性を向上させ、中外製薬は疎水性アミノ酸主体で構成させて経口吸収性を確保した。それぞれに流儀はあるが、共通しているのはヒットペプチドから大きな構造変換を伴わずに開発化合物を取得していること。ヒット取得前の工程が大事。

 

分子量が倍以上じゃねーか!!

【① Ra PharmaceuticalsのC5阻害剤Zilucoplan】

補体システムは自然免疫で重要な役割を担い、その調節異常は発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、非定型溶血性尿毒症(aHUS)、全般性重症筋無力症(gMG)などに関与する。補体経路は古典・代替・レクチンの3系統だが、いずれもC5活性化に収束するため、C5阻害剤は有望な治療薬として複数が開発されている。

既存のC5阻害薬(エクリズマブ等)は抗体医薬が中心で、高コスト・投与負担・R885変異による反応性低下が課題である。一方、低分子でC5の大きなタンパク質界面を阻害するのは困難である。

そこでRa PharmaceuticalsはペプチドによるC5阻害剤創製を進め、最終的にZilucoplanを開発した。同剤はgMG治療薬として2023年にFDA承認された。

ちなみにRa Pharmaceuticalsは2020年にベルギーUCB社に買収されて子会社になっている。

● ヒット探索と初期SAR

・ mRNA displayから鎖状の1と環状の2を取得

・ どちらも13 merのペプチドで、青色の残基が類似している


● ペプチド1の初期SAR

・ 酸化や二量化リスクのあるP2(Cys)をSerに、エピ化リスクのあるP12(PhenylGly)をCyclohexylGlyに変換して、活性を維持しつつ、安定性を改善

・ アラニンスキャンを実施し、P3, P8, P10の芳香族残基、P9のGlu残基が必須と判明

・ N‑メチル化スキャンを実施し、 P3, P5が許容、他は活性が激減または消失

 ✓ 一般的にNHアミドはtrans, NMeアミドはcis配座を取るので、活性配座と安定配座がズレたのかもしれない

・ トランケーションスキャンを実施し、P1, P2, P12, P13は削除が許容, P3 (Tyr)は削除不可と判明(そもそもP3は、アラニンスキャンで重要残基だったけど)

 ✓ 削除許容な残基は、除いて分子量低減や、逆にPK modifierの修飾可能


●ハイブリッドおよび安定性の最適化、脂質かによるPK改善

・ ペプチド1は安定性が低い(マウス血漿中24hで4%残存、ヒト血漿中24hで9%残存)

 ✓ 安定性改善を目指して合成展開したが改善できず

・ ペプチド2とハイブリッドした化合物32は安定性が改善(ヒト血漿中24hで95%残存)

 ✓ 活性も維持された(IC50 = 9 nM)

・ エピ化リスクのあるPhenylGlyをCyclohexylGlyに変換

・ 環のチオエーテルは酸化・還元に不安定のため、ラクタムに変換

・ 環の外側Aspのアミド結合がプロテアーゼ切断部位のためN-メチル化で立体的に嵩高くして安定性改善

 ✓ N-メチル化スキャンで許容されていた部位をメチル化した(スキャン情報を利用)

・ PKの更なる改善を目指してPK modifierとして脂質修飾してアルブミン結合を狙う

 ✓ アラニンスキャン・トランケーションスキャンの情報を利用して、変換・削除しても活性への影響が小さいC末NvlをLysに変換

 ✓ そこからPEGスペーサー、γ-グルタミン酸リンカーを介してC16脂質を付加

 ※ PEGスペーサーが無いor短いと活性減弱(アルブミン結合による立体障害と考察)

・ サルIV投与PK試験で血漿中t1/232(20.7 h)から45(182 h)に大幅延長、活性はIC50 = 0.9 nMから2.9 nMでほぼ維持

45はZilucoplanで、抗AChR抗体陽性gMG患者の治療薬として承認

 ✓ 1日1回の皮下注射自己注射療法

 ✓ 世界初の mRNA display由来ペプチド医薬

 ✓ R885 変異にも有効

 

● 構造解析

・ 化合物46とC5の活性化断片C5dのチオエステル含有ドメイン(TED) の複合体の共結晶構造を取得

・ C5d(TED)の溝に深く結合してC3bとの結合を阻害

・ 抗体(Eculizumab)が結合するMG7ドメインとは異なる結合部位

 ✓ R885と離れているため、R885変異にも有効

 

【② MerckのPCSK9阻害剤Enlicitide (MK-0616)】

詳しくは過去の記事参照

『やることは変わらない』

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2024/03/10/071144

● Ra Pharmaceuticalsとのコラボでヒットペプチド1を取得(mRNA display)

・ 活性は良好だが、代謝安定性が低い/物性が悪い/結晶取得できず、の課題あり

● 初期SARを実施

・ 活性に不要なN末テール部分を除去して分子量を削減

・ 代謝部位のプロリンα位にメチル基を導入して立体障害で代謝安定性を改善

 → ペプチド2を取得

● ペプチド2は、PCSK9との複合体のX線共結晶構造解析ができた

距離が近い2箇所を環化して、配座固定(活性配座と安定配座を合わせる)

・ 活性に不要なC末カルバモイル部分を除去して分子量を削減

代謝部位のアスパラギン酸をプロリンに変換(2級アミンで立体障害)、グリシンをD-アラニンに変換(α位にメチル基導入)して、代謝安定性を改善

・ ラットにアレルギー反応(マスト細胞脱顆粒)があり、原因(塩基性/脂溶性)はリジン残基であったが、無くすと今度はOATP基質になってしまったので、残しつつ塩基性を調整してアレルギー反応およびOATP基質認識を回避

・ Fine Tuningを経て、Enlicitide (MK-0616)を取得、現在FDAが承認審査中

 

【③ 中外製薬のKRas阻害剤LUNA18】

詳しくは過去の記事参照

『暗黒大陸を行く(上陸編)』

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/12/03/072840

● mRNAディスプレイ(ペプチド数 ≧ 1010個)を実施し、KRASに結合が確認された環状ペプチドAP8784(KD = 0.34 μM)を取得

・ AP8784はKRAS(WT)とSOS1の相互作用をIC50 = 180 nMで阻害

・ X線結晶構造解析によりKRAS-SOS1相互作用面への結合を確認

 ✓ AP8784の複数の疎水性アミノ酸残基が、KRAS表面でInduced-Fitにより生成された疎水性の溝と相互作用を形成

● AP8784からアミノ酸側鎖の変換のみで最適化を実施し、LUNA18を取得

・ 大きな構造変化(スキャホールドホッピング)はしない

・ 極性アミノ酸の導入は必要ない。

・ 疎水性相互作用の獲得によって活性だけでなく膜透過性も向上

 ✓ 環状アミノ酸やαジ置換アミノ酸による配座固定も狙ったか

・ LUNA18は進行性固形がんで開発していたが、昨年中止となった(後継はAUBE00)

今回注目したいのは、1点です。

それは、3社ともにヒットペプチドから大きな構造変化を伴わずに開発化合物を取得している点です。

『大きな構造変化・スキャホールドホッピングはしない』と明言しているのは中外さんのみですが、結果として3社ともに同じ傾向をとっています。つまり、『ヒット段階で既に開発可能な構造を引けているかどうか』がペプチド創薬において肝と考えらえます。

(もちろん低分子創薬でも肝の一つだけど、あとでメドケムテクによる挽回が難しいのかも?)

その観点で言うと、

・ ライブラリーの数を多くする・多様性を広げる

・ 評価系の妥当性を担保する

・ オルソゴナルアッセイで偽陽性を排除する

・ 構造情報(結晶/クライオEM)を早期に取得する

・ ライブラリー構築・ヒット選抜の基準を戦略的に設計する(例えば中外さんの疎水性アミノ酸のみで構成)

といった『ヒット取得前』の工程が、低分子以上に開発成功率を左右するのかもしれません。

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。

GO CENTRAL

GO CENTRAL(ちょっと長文過ぎた・・・)

【2026/06/26追記】

中分子を脳移行させるには?

PROTACは分子内水素結合でHBDを隠すデザインが鍵。

核酸はDDS必須で、hTfR1ペプチドを使うなら塩基性アミノ酸+トランスフェリンと競合する部位への結合がBBB通過に効く可能性がある。

と書いたけど、そうとも限らないかもしれない。

JCR/Peptidreamの脳移行No.894と、IONIS/Bicycleの筋移行BCY15466は、結合部位・様式が異なり、アミノ酸残基の組合せで作り分けられる可能性がある。
特に脳移行TfRリガンドペプチドは、表面残基を狙えばシミュレーションでde novoデザインできるのでは?

 

一気に追いついてみせるぞ

【① イントロ: 低分子化合物を中枢移行させる】

4年前の記事『ヘテロ原子が増えて脳内移行性がむしろ改善』から抜粋

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/05/26/064717

Eli Lily社のZoran Rankovic博士が、市販されているCNS薬とnon-CNS薬の物性の物性を比較している。

CNS Drug Design: Balancing Physicochemical Properties for Optimal Brain Exposure

J. Med. Chem.2015, 58, 2584–2608.

https://doi.org/10.1021/jm501535r

しかし、上記論文において、市販されているCNS薬の89%が伝統的なアミン作動性のGPCRやトランスポーター、イオンチャネルなどを標的とした化合物群で構成され、ケミカルクラスが限定的であった。そこでZoran博士は、Eli Lily社のデータを元にキナーゼやプロテアーゼなどを標的とした脳内移行性化合物(対するは末梢限定化合物)を加えて再解析したところ、CNSを狙う際の化合物の物性(Property Space)は市販のCNS薬よりも広く、重要な因子は分子量と水素結合ドナー数であることが分かった。

CNS Physicochemical Property Space Shaped by a Diverse Set of Molecules with Experimentally Determined Exposure in the Mouse Brain

J. Med. Chem.2017, 60, 5943–5954.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.6b01469.

2つの論文の一部を抜粋した表を以下に示す。

また、脳内移行性を妨げる要因の1つである排出トランスポーターP糖タンパク質(P-gp)に関して、Pharma Algorithms社のRemigijus Didziapetrisらは、化合物中に含まれる

・ 窒素原子と酸素原子の数(N + O)≧ 8

・ 分子量 > 400 Da

・ 酸性度pKa > 4

の化合物はP-gp基質になりやすいと述べている。一方で、

・ (N + O)≦ 4

・ 分子量 ≦ 400 Da

・ 塩基性度pKa < 8

の化合物はP-gp基質になりにくい傾向がある。

 

PROTACやオリゴ核酸のような上記を満たせない化合物はどうだろか?

レビューや論文から探ってみた。

 

【② PROTACsを中枢移行させる】

『2-1) 最初に、伊トリノ大学Caronらのレビューから現状を把握する。』

BBB-Permeable PROTACs: Where Do We Stand?

ACS Med. Chem. Lett. 2026, XXXX, XXX, XXX-XXX

https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.5c00768.

神経変性疾患との関連が示唆されるタンパク質として、タウやアミロイドβ、α-シヌクレイン、TDP-43らの凝集体、GSK-3βやCDK5、LRRK2のようなキナーゼ、RAGEのような受容体、アポリポプロテインE、プレセニリン1,2 (γ-セクレターゼ複合体の構成成分)などが挙げられ、それらを標的とするには、化合物が脳血液関門 (Brain-Blood Barrier; BBB)を通過して脳組織に到達する必要がある。 しかし、PROTACsのようなルールオブファイブを越えた化合物 (beyond rule of five; bRO5)は、高い分子量、高いTPSA、高いフレキシビリティゆえに、BBB通過性が著しく低い。 そして中枢移行PROTACsのデザイン指標や標準化された評価系は確立途上である。

 

● BBBの特徴

BBBは脳内皮細胞 (BECs)とアストロサイト、ミクログリア、平滑筋細胞、基底膜などが組み合わさって脳実質細胞を血液から分離して恒常性を確保している。BECにはタイトジャンクションや取込・排出トランスポーターなどが含まれる。

化合物がBBBから取込・排出される経路は主に4種類。

1) 受動拡散

2) キャリア媒介輸送CMT (GLUT1, LAT1など)

3) 受容体介在輸送RMT (TfRなど)

4) 排出トランスポーターEfflux (P-gp, BCRPなど)

加齢や神経変性疾患の影響でBBBが部分的に破綻することがあるが、空間的に不均一であるため期待できない。

 

● 中枢移行PROTACsを目指すときの課題

一般的に中枢移行を高めるためのメドケム戦略として、①脂溶性 (cLogP/cLogD)を上げる、②水素結合ドナー数 (HBD)を減らす、③極性 (TPSA)を下げる、④分子の剛直性を上げる、⑤イオン化 (pKa)を減らす、の5つが考えられる。

Pfizer社は、それらを総合的に評価する指標CNS MPOを提言している。しかし、CNS MPOはbRo5化合物では予測精度が低下しやすい。分子内水素結合・カメレオニシティのような三次元的・動的な特性の評価が難しいためと考えられる。

中枢移行を予測する評価系は以下の課題がある

【in vitro評価系】

・ BBB評価用にリン脂質を最適化したPAMPA: HTS向きだが、PROTAC吸着、efflux非対応という問題

・ Caco-2 / MDCK-MDR1: 腸管モデルのためBBB予測には不十分

・ iPSC-BEC: ヒトBBBに近く将来有望であり、それを利用したBBB-on-chip (microfluidic)は、生理学的再現性高いが標準化に課題あり

【in vivo評価系】

・ マウスが主流だが排出トランスポーターは種差が大きい。一方、非ヒト霊長類 (NHP)はスケーラビリティや倫理性に課題がある

・ CNS活性を主張するには、unbound Kp,uuの評価が重要だが、多くの研究で未測定

 

●2017–2025の23報からCNS-targeted PROTAC 30化合物を分析

・ in vitro評価したのは5化合物

 ✓ 評価系はPAMPAまたは or Caco-2

  → 使われた細胞株の65%が腸管系などnon-CNS由来でBBB透過評価としては限定的

・ in vivo評価したのは 11化合物

 ✓ LC-MSで脳内濃度が定量されたのは9化合物 (以下に示す)

  → うち6化合物は経口投与

  → うち4化合物は塩基性官能基をもつ

  → うち3化合物は臨床開発中

・ 多くが高分子量 (>700), 高TPSA (>160 Ų), 高フレキシビリティ(nRotB >9) に属する

・ E3 ligase: CRBNが多数、VHLは2化合物

・ 水素結合ドナー(HBD)数:2~5個、水素結合アクセプター(HBA)数:14~21個

 ✓ 分子内水素結合や立体的遮蔽を考慮すると、実効HBDは1程度に低減している可能性

  → CFT1946は酸性官能基(スルホンアミド)を嵩高さで遮蔽している

・ 2D記述子ではCNS-targeted PROTAC 30化合物間の関連性を見出せず

 ✓ 2D記述子のみではBBB透過性を十分に説明できず、3D構造・動的性質を反映できない

  → 分子内水素結合やカメレオニシティ、RMTなどを考慮した設計が必要

  → AIも必要だが、活用するには高品質で体系化されたBBB透過データが重要だろう

 

『2-2) 次に、米国ノースイースタン大学のAmijiらのレビューから対応策を考察する。』

CNS delivery of targeted protein degraders

Journal of Controlled Release, 2024, 372, 661–673.

https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2024.06.057.

● 分子量の抑制

・ CRBNリガンドは分子量を抑えやすい

 ✓ CRBNリガンドはVHLリガンドよりも分子量・HBD/HBAが低く、bRo5領域でも物性最適化しやすい

 ✓ 実際に、CNS-targeted PROTAC(前述)はCRBNが多い

・ リンカーを短くする

・ モレキュラーグルーをデザインする (できれば苦労しない)

 

● TPSAの削減

・ 分子内水素結合を形成するデザイン

 ✓ HBDから5,6炭素離れたところに窒素や酸素のHBAを配置

 ✓ HBDの立体的マスクはP-gp基質認識の回避にも重要

 ✓ 実際に、CNS-targeted PROTAC(前述)は多く分子内水素結合を形成してそう

・ リンカーのアミド部分をエステルに置換する、または疎水性にする

 

● フレキシビリティの低減

・ 柔軟性が高いとP-gp基質になりやすいため、マクロサイクル化や剛直化が有効

 ✓ カメレオニシティはマクロサイクルに有効 (環状ペプチドのシクロスポリンのような)

 

● pKaの調整

・ 弱塩基性(pKa 6–8)が受動拡散によるBBB通過に有利

 ✓ Targeted Protein Degraders (TPD) は中性〜弱酸性のものが多く、受動拡散による膜透過性が低くなりがち

  → リンカーの微調整で改善可能

 ✓ 実際に、CNS-targeted PROTAC(前述)はリンカーに塩基性を持つ化合物が多い

  → そもそもCNS-targetedに限らずピペリジン/ピペラジンとか多いから、中枢移行以前に膜透過性/経口吸収に重要と考えられる

 

● E3 リガーゼの脳内発現には偏りがある

・ CRBN: 複数の脳領域で安定して発現し、CNS TPDの主要な実績を持つ

 ✓ 臨床入りしている CNS TPD の多くが CRBN を採用

・ VHL: 脳内発現データはデータベース間で不一致だが、実際には脳内分解の成功例が複数存在

 ✓ Ubihub (The Ubiquitin Proteasome System Knowledge Base)では主要脳領域でのVHL発現が低い一方、HPA (Human Protein Atlas)では一定の発現が報告されている

 ✓ tauやLRRK2などでVHL系TPDが脳内で作用した報告がある

・ MDM2, cIAP1: 脳での発現が限定的で、CNS用途では優先度が低い

CNS疾患では標的タンパク質 (POI)の局在・細胞種特異性も複雑であるため、『E3 ligase発現 × POI局在 × 標的脳領域』の三者適合がCNS TPDの鍵

 

● 投与経路/製剤/DDSの適用

・ Intrathecal(髄腔内)やICV(脳室内)、Intranasal(経鼻)の投与経路は、直接脳へ到達させられるが、侵襲性が高く、均一分布が難しく、長期投与には不向きとされる

・ 受動拡散を高める製剤として、固体分散体やシクロデキストリン包接、脂質製剤(LNP、リポソーム)、ポリマーNP(PLGA)が用いられている

・ 受容体介在輸送RMT

 ✓ 受容体としてTfR, InsR, LRP1などを利用

 ✓ 受容体に結合する抗体(IgGやscfv, VHH)やペプチドを付加 (BBB shuttle)

 

個人的には、TPDは投与経路や製剤、DDSに頼らずに、メドケム的分子デザインによって単剤で経口投与、中枢移行させたい気持ちではある。

とは言え、例えばPPI阻害バインダー+E3 ligaseリガンドのような高分子量が予想されるPROTACにはBBB shuttleが必要かもしれない。ましてAntisense Oligonucleotide (ASO)やsiRNAのようなオリゴ核酸には必須であろう。

それでは、BBB shuttleはどのようなものがあるだろうか?

 

【③ Brain Shuttle Peptide (脳移行ペプチド)による中枢移行】

『3-1) 最初に、スペインのラモン・リュイ大学Salviaらのレビューから全体を把握する。』

Brain Shuttle Peptideの2015-2025年トレンド

New Trends in Brain Shuttle Peptides

Mol. Pharmaceutics, 2025, 22, 1100–1109.

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.molpharmaceut.4c01327

● Blood-Brain Barrier (BBB)が中枢疾患を狙う際のボトルネック

・ BBBは多層的バリア機能をもつ

 ✓ 物理的バリア: タイトジャンクションによる細胞間隙の制御

 ✓ 代謝バリア: CYPなど代謝酵素による分解

 ✓ 輸送バリア: P-gpなどトランスポーターによる排出

・ 一方、BBBはGLUT1など栄養素輸送のためのトランスポーターや受容体も備えている

 

● BBB Shuttle Peptideによる2種類の脳移行アプローチ

・ 吸着性トランスサイトーシス (Adsorptive-Mediated Transcytosis, AMT)

 ✓ 塩基性アミノ酸を多く含み細胞膜の硫酸塩などと相互作用する細胞透過ペプチド (Cell-Penetrating Peptide, CPP)であるHIV-TATやR8などを利用した輸送機構

  → 非特異的かつ細胞毒性が懸念

・ 受容体介在性トランスサイトーシス (Receptor-Mediated Transcytosis, RMT)

 ✓ 脳血管内皮細胞に発現する受容体に結合するリガンドペプチドを利用した輸送機構

   1) Angiopep-2: 標的は低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質1 (LRP1)

   2) ApoE(133-150): 標的は低比重リポタンパク質受容体 (LDLR)

   3) T7, T12, THR, B6: 標的はトランスフェリン受容体1 (TfR1)

   4) GSH: 標的はグルタチオントランスポーター

   5) RVG29: 標的はニコチン性アセチルコリン受容体 (nAchR)

   6) RGD: 標的はインテグリン受容体

 ✓ 脳ペプチド以外のモダリティで報告例のあるRTM

   7) インスリン受容体 (INSR)を標的とした抗体

   8) グルコーストランスポーター (GLUT1)を標的とした低分子

 

● BBB Shuttle Peptideの取得・最適化アプローチ

・ 取得法: 天然タンパク質由来の配列を短縮化やファージディスプレイにより取得

・ 最適化法

 1) 親和性に重要な部分配列を抽出して短縮化

 2) D-アミノ酸化や環状化、ペプチド結合の向きや残基の不斉を反転して代謝安定化

 3) 複数のペプチドを付与 (多価化)してエンドサイトーシス促進

 4) AMTとRMTを組み合わせて輸送効率を上げる

 5) 二次ターゲティング: 脳内の特定部位に特異的に移行するDDSペプチド (ニューロン特異的/アストロサイト特異的/ミクログリア特異的など)や、特定部位に特異的に発現する代謝酵素 (MMP, Cathepsin, Caspaseなど)に切断されるリンカーを追加することで選択性を上げる

 

● BBB Shuttle Peptideの適応

・ 適応疾患: 膠芽腫やアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮症、脳炎など

・ 適応方法: ナノ粒子に多価付与が最も多いが、低分子やオリゴ核酸に直接付与もある

・ ペプチドの抗体と比べて優位性:

 ✓ 製造容易性や低コスト

 ✓ 化学修飾の自由度

 ✓ AMT利用

 ✓ 組織拡散性や投与経路

 ✓多価化: 抗体も多価化はできるが、過剰な親和性はトランスサイトーシス後の脳実質細胞への放出に不利であり、例えば二価 (IgG)だと内皮細胞に強く保持されてトランスサイトーシスしにくく、一価(Fab, scFv)だと BBB を越えやすいらしいので、実際はキビシイだろう

・ 逆に抗体の優位性: 高い結合親和性や血中滞留性 (安定性)、定量・イメージング

 

これまで同定されているRMTで利用する標的は、BBBだけでなく他組織にも発現しているため、今後はBBB特異的な標的の探索・適用が期待される。またCaronらのレビューでも述べられていたが、BBBに適応した評価モデルの構築が重要と考えられる。

 

『3-2) 次に、BBB shuttleの事例から特徴を学ぶ』

● WO2021167107:ヒトトランスフェリンレセプター結合ペプチド

出願人は、JCRファーマおよびペプチドリーム

ヒトトランスフェリンレセプター(hTfR)に結合することで、血液脳関門(BBB)を通過することができるペプチド,筋組織に指向性を有し、筋組織に効率的に移行することが出来るペプチド及び細胞浸透性を有するペプチド

 

● マウス脳移行性・脳内局在確認試験

hTfR結合環状ペプチドNo.894と蛍光物質のコンジュゲート体

 ✓ hTfR (SPR) = 0.28~1.09 nM (蛍光物質: FITC, vivotag740)

・ TfR-KIマウスにiv投与

 ✓ ネガコン投与群と比べて胸椎、心臓、大腿骨、大腿四頭筋および脳により強い蛍光を観測

 ✓ コンジュゲート体のBBB通過、小脳内部への導入を確認

  → 複数回投与によってプルキンエ細胞のようなニューロンにまで到達

・ BBBを通過し脳内へ移行すること、および筋組織を中心とした各組織へ移行することが確認された。

・ 別で、ヒト乳がん細胞BT-549での試験で細胞内への移行性を確認

・ 以下、No.894の構造および請求項を参考にした必須アミノ酸

● BeBetter社がSOD1*を標的としたsiRNA (siSOD1)とhTfR No.894のコンジュゲート体 (POC2)を評価

 * 神経変性疾患(特に ALS)と病態関連性が高い遺伝子で、既報のsiSOD1配列があって比較研究に適しており、siRNAによるKD効果がin vitro / in vivoで評価しやすい

TfR1-Binding Peptide Conjugation Facilitates Robust and Specific siRNA Delivery to the Central Nervous System

Bioconjugate Chem. 2025, 36, 1377–1383.

https://www.sciencedirect.com/org/science/article/pii/S1043180225001223.

・ 大槽内投与 (ICM)および髄腔内投与 (IT)を実施。脂質C16のコンジュゲート体 (C16-siSOD1)とKD部位および作用を比較評価

 ✓ 両投与経路において、POC2およびC16-SOD1は共にCNS全域でSOD1 mRNAを強いKD作用を示した

 ✓ POC2は末梢組織でほぼ作用せず、脳内濃度が肝臓の3倍で、28日後までKDが持続

 ✓ 一方、C16-siRNAは脳内だけでなく抹消組織も強くKD作用を示した

  → 脳内と肝臓で同等の濃度 (ICM/IT投与したsiRNAが抹消に移行するのか!?)

  → C16の高脂溶性に依ると考えられる

・ POC2リンカーの検討

 ✓ 長さの調整:[2-(2-aminoethoxy)ethoxy]acetic acid/AEEAをスペーサーとして入れたり入れなかったり

 ✓ 電荷を変える検討: 中性のSar×10、両性のAsp-Lys-Asp、塩基性のArg×3

  → 長さや電荷はKD活性に影響なし(以前にkiwiさんが毒性に影響するのでは?とコメントしていたが、毒性やiv投与でのKDへの影響も気になる)

 

hTfR No.894は、特許でBBB透過性が示されていたが、それだけでなく論文により、CNS選択性・持続性・低末梢暴露を兼ね備えていることが示された。また、C16もCNSへの作用として強力で有用だが、ICM/IT投与であっても抹消に作用するリスクが考えられた。

ところで、hTfRリガンドは、脳内移行だけでなく、筋肉組織への移行で使用されることもある。以前にバナナさんから親和性の違いでコントロールできると教えていただいたが、特許でのNo.894と蛍光物質のコンジュゲート体のhTfR KD値は、0.28~1.09 nMと非常に高く感じられた。他に何か特徴的な違いはないだろうか?

 

『3-3) 最後に、他組織を標的としたhTfRリガンドと比較する』

● Ionis社とBicycle社のTfR1結合ペプチドによるオリゴ核酸の筋肉・心臓に選択的な移行

Conjugation to a transferrin receptor 1-binding Bicycle peptide enhances ASO and siRNA potency in skeletal and cardiac muscles

Nucleic Acids Res., 2025, 53, gkaf270.

https://doi.org/10.1093/nar/gkaf270

・ TfR1結合二環性ペプチドBCY17901を同定し、ASO/siRNAにコンジュゲートさせることで筋肉・心臓へのデリバリー効率を大幅に向上させた

 ✓ BCY17901は、ASO/siRNAの筋組織でのED50を5〜9倍改善し、心臓でも同等の改善を示した

 ✓ サルおよびhTfR1 KIマウスに対して、骨格筋・心筋における強力なKD作用を示した

・ BCY17901–ASOを全身投与しても、脳皮質・脊髄でKDが見られず、BBBを通過しないことが示された

 ✓ BBBでのTfR1介在性トランスサイトーシスには、より低親和性のTfR1リガンドが必要

 ✓ hTfR KD (SPR) = 7.8 nM (BCY17901単独), 5.6 nM (Dmpk ASO conjugate), 22.7 nM (Malat1 ASO conjugate), 42.9 nM (Hprt siRNA conjugated)

 → 出元が異なるので比較できないが、No.894の方が数字上は高親和性・・・

● BCY17901取得の経緯

・ ファージディスプレイでhTfR1に対する二環性ペプチドスクリーニングを実施

・ トランスフェリンと競合しないヒットペプチドBCY15466, 15468を取得

 hTfR1発現細胞に対して蛍光ラベル化ペプチドで内在化・局在化を観察

・ BCY15466とhTfR1の共結晶を取得、X線構造解析を実施

 ✓ BCY15466はトランスフェリンとは異なる部位(Apicalドメイン)に結合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

・ BCY15466のアラニンスキャンで結合親和性に重要な残基を把握

 ✓ 前述のX線構造解析と同様の結果

 ✓ 合わせてメドケム展開を行い、BCY17901を取得

 

ここで注目したいのは、No.894とBCY17901の比較です。

前者はTfR1介在性トランスサイトーシスでBBBを越える一方、後者はエンドソーム内に取り込まれるものの、結合が維持されたままリサイクリング経路に乗って細胞外へ戻されると考えられます。ここで「BBB通過には、より低親和性のTfR1リガンドが必要」と言われていますが、特許や論文のSPRのKD値を見る限り、数字上はNo.894の方が高親和性に見えます。この矛盾は、KDの絶対値以外の要素が影響していると考えられます。

一つの違いとして、No.894には塩基性アミノ酸(Arg)が含まれています。これはCPP(TAT, R8など)でも知られるように、エンドソーム膜との相互作用や膜不安定化に寄与し得るため、エンドサイトーシス後に部分的なエンドソーム脱出を促し、結果として BBB 通過に寄与した可能性が考えられます(と言ってもNo.894にArgは2つしか入っていないけど)。つまり、TfR1リガンドに限らず、BBB shuttleペプチド全般において塩基性アミノ酸が重要になるかもしれません。

さらに妄想レベルではありますが、BCY17901は疎水性相互作用や水素結合を中心としたinduced fitにより結合が安定し、解離が遅いためリサイクリング経路に留まりやすい一方、No.894はイオン性相互作用が多くinduced fitが起こりにくい可能性が考えられます。また、BCY17901がApicalドメインに結合することが分かっているのに対し、もしNo.894が(構造情報はないが)Helicalドメインやトランスフェリン結合部位近傍に結合しているとすれば、トランスフェリンの結合・解離サイクルに巻き込まれてトランスサイトーシス側へ放出されやすい、ということもあるかもしれません。

と言うのも、米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのCrookらが報告したシステイン架橋ペプチドTfRB1G3は、アルギニンやリジン、ヒスチジンの塩基性アミノ酸を多く含んでおり(むしろアスパラギン酸やグルタミン酸の酸性アミノ酸の方が数自体は多かったが・・・)、TfRとの複合体のX線結晶構造解析によると、BCY17901とは異なり、トランスフェリンと同じ部位(ヘリカルドメイン)に結合しており、そしてBBB通過が示されたためです。

A TfR-Binding Cystine-Dense Peptide Promotes Blood–Brain Barrier Penetration of Bioactive Molecules

J Mol Biology, 2020, 432, 3989-4009.

https://doi.org/10.1016/j.jmb.2020.04.002.

と言うことで、hTfR1を標的としたBBB shuttleペプチドを手に入れるには、連続した塩基性アミノ酸を含むペプチドをデザインし、結合試験でトランスフェリンと競合するペプチドを釣ってこれば良いのかな?

 

【2026/06/26追記】

バナナさんのコメント

● 脳移行しやすい抗体のプロファイル

・ トランスフェリン非競合性エピトープ

・ TfR1に1価結合する

・ 低親和性(Koffが早い)

(ただし、中性と酸性で抗体の結合が大きく変わらない場合)

● No.894は高親和性でも、TfR1の非競合性エピトープ(apical domain)の露出しているTyr211&酸性アミノ酸(Asp204、Glu214、Asp302のどれか)と相互作用していて、pH依存性により脳移行が高いと想像

 

hTfR1-BCY15466複合体のX線共結晶構造解析 (9GH7)を元に、上記アミノ酸残基をピックアップして、hTfR No.894を重ねてみました。

(302 はAspでなくHisだったが、代わりにAsp284, Glu294 が周辺にあったので一緒にピックアップ)

なんか相互作用しそうです。

興味深いのは、BCY15466の結合部位とは違うこと、そして、No.894は表面に露出した残基と相互作用しそうな一方、BCY17901はもっと下のポケットに深く入り込んでいることです。上でも書きましたが、疎水性+水素結合中心の induced fit で結合が安定し、解離が遅く、リサイクリング経路に留まりやすい解離しにくい(=筋移行しやすい)のが特徴かもしれません。

そうすると、結合部位および結合様式によって、つまりDDSペプチドのアミノ酸残基の組合せによって脳移行 or 筋移行を作り分けられるかもしれません。(と言っても、TfRはユビキタスに発現しているので、脳移行=筋肉や全身にもある程度行くとは思いますが)

そして脳移行TfRリガンドペプチドは、相互作用するアミノ酸残基が上側に集中しているので、シミュレーションでde novoデザインできるのでは? たとえば東京科学大の大上先生なら。

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。

ゆるくはあるが軽くはない

ゆるくはあるが軽くはない

 

S–O 相互作用は、酸素のローンペアが硫黄の反結合性軌道 σ* に供与されることで生じる相互作用で、強さとしては水素結合や π–カチオン相互作用よりは弱いものの、π–π スタッキングや疎水性相互作用よりは強い。硫黄はチオエーテルのような電子豊富な状態よりも、チアゾールのように電子欠乏した環境の方が σ-hole が強くなり、この相互作用を形成しやすい。

BMS 社や Gilead 社は標的タンパク質のアミノ酸主鎖カルボニル基との相互作用に、Accent 社は化合物の分子内で活性配座を固定するために、それぞれこの相互作用を利用して活性を向上させた。

他にも環状ペプチドや PROTAC のカメレオニシティに利用できるかもしれない。

 

この「ゆるさ」・・・

ゆるくはあるが、軽くはないのだ

【① イントロ: S-O相互作用とは?】

気ままに創薬化学の16年前の記事から引用。

http://www.medchem4410.seesaa.net/article/142718530.html

Intramolecular Nonbonded S···O Interaction Recognized in (Acylimino)thiadiazoline Derivatives as Angiotensin II Receptor Antagonists and Related Compounds.

J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 3104–3110.

https://doi.org/10.1021/ja973109o.

●徳島大学 長尾善光先生らの報告

・ 化合物1の(アシリミノ)オキサジアゾリン部分の酸素原子を硫黄原子に置き換えた化合物2は活性が10倍弱も向上

・ (アシリミノ)チアジアゾリン部分にS-O相互作用(約2.5 Å)あり

 ✓ 硫黄と酸素のファンデルワールス半径の和(3.32 Å)より短い

 ✓ 共有結合の距離(1.4~1.5 Å)より長い

  → S-O間の相互作用形成が示唆される

Impacts of noncovalent interactions involving sulfur atoms on protein stability, structure, folding, and bioactivity

Org. Biomol. Chem., 2023, 21, 11-23.

https://doi.org/10.1039/D2OB01602H.

●カルフォルニア大学 ヴォルガらのレビュー

・ S-O相互作用は、静電相互作用と分散相互作用の両方が寄与

 ✓ 静電安定化は、部分的に正に帯電した硫黄(硫黄は電気陰性度が低い)と部分的に負に帯電した酸素との引力によって生じる

 ✓ ドナー–アクセプター軌道相互作用 (酸素のローンペアが硫黄の反結合性軌道σ*に供与されることで生じる)

・ S-O相互作用の大きさは2~3 kcal/mol

 ✓ 水素結合(1~10 kcal/mol)やπ–カチオン相互作用(3~8 kcal/mol)より弱い

 ✓ π-πスタッキング(0.5~2 kcal/mol)や疎水性相互作用(0.5~1 kcal/mol)より強い

ゆるくはあるが軽くはない相互作用と考えられる。

以下、製薬3社の利用事例を見ていく。

 

【②BMS社のGalectin-3阻害剤でのS-O相互作用】

Identification of benzothiazole derived monosaccharides as potent, selective, and orally bioavailable inhibitors of human and mouse galectin-3; a rare example of using a S···O binding interaction for drug design

Bioorg. Med. Chem., 2024, 101, 117638.

https://doi.org/10.1016/j.bmc.2024.117638

●Galectin‑3(Gal‑3)は、特徴的なCarbohydrate Recognition Domain (CRD)を介してβ‑ガラクトシドと結合するタンパク質で、線維化、がん、炎症など多様な疾患に関与する重要な治療標的である。しかし、Gal‑3 の結合ポケットは浅く親水性で、さらにヒトとマウスで重要残基が異なるため、両方に強力かつ薬物動態的に優れた阻害剤の創出は難しい。既存のTD139 は高い阻害活性を持つが経口吸収性が低く、GB1211は経口吸収性を有するが阻害活性が弱い。

そこでBMS社は、高活性かつ経口吸収性のある化合物の取得を目指した。

●BMS社が以前に創製した化合物6から展開

・ 化合物6のクロロベンゼンの塩素原子がhGal-3 G182主鎖カルボニル基と相互作用

 ✓ 硫黄原子に置き換えてS-O相互作用で代替できないか?

  → ベンゾチアゾールに変換した化合物7はhuman/mouseそれぞれ阻害活性が4,5倍向上

・ 周辺展開で、トリアゾールにメチル基の導入が活性向上に有効

●化合物9-Gal-3複合体のX線結晶構造解析

・ C6ヒドロキシ基とAsn188, Glu198残基と水素結合を形成

・ C5ヒドロキシ基とテトラヒドロピラン酸素原子がArg176と水素結合を形成

・ トリアゾール窒素原子とTrp195残基が水を介して水素結合を形成

・ トリアゾール環とHis172残基がT字型(edge‑to‑face)CH-π相互作用を形成

・ トリフルオロベンゼン環とArg158残基がカチオン-π相互作用を形成

・ テトラヒドロピラン骨格がTrp181残基とファンデルワールス半径相互作用を形成

・ トリフルオロベンゼンC–FとIle159主鎖カルボニル基がorthogonal multipolar interactionを形成

 ✓ C–F の双極子がカルボニルの双極子に対して直交に配置されると静電的に安定化するらしい

・ C3ヒドロキシ基は相互作用に必須でないかも

 → メチル化して膜透過性を改善できるかも?(脂溶性付与、水素結合ドナー削減)

●化合物8に脂溶性付与して膜透過性を上げる

・ まずはトリフルオロベンゼンのp-FをClに変換した化合物12は膜透過性向上

 ✓ 活性向上は脂溶性効果およびIle159, Val160主鎖カルボニル基とハロゲン結合形成かも

・ C3ヒドロキシ基をメチル化した化合物17は膜透過性向上

 ✓ 上記構造解析からの狙い通り活性は維持された

・ 芳香環の周辺展開活性によって活性と膜透過性が改善した化合物4を取得

●異なるケミカルクラスの探索

・ 化合物4のC2トリアゾールをアミドに変換

 ✓ N-メチルアミドで化合物4と同等の阻害活性を有する化合物5を取得

 ✓ NH-アミドは活性なし、N-エチルは活性あり

  → N-アルキルが配座を制御&トリアゾールのメチルの代替も

  → cis-アミドが活性に必須と考えられる

・ 化合物4,5は共にサブタイプ選択性あり&良好なin vivo PKプロファイル

・ 残念ながらin vivo薬効評価の記載はなし

 

 

【③Gilead社のIRAK4阻害剤でのS-O相互作用】

Examination of Noncanonical Kinase Hinge Binders Leads to Thiadiazoles as Potent IRAK4 Inhibitors

ACS Med. Chem. Lett., 2026, 17, 175–182.

https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.5c00602.

●IRAK4(Interleukin‑1 receptor–associated kinase 4)は、IL‑1R/TLR シグナル伝達の中心的キナーゼで、炎症性疾患の治療標的として注目されている。一般的なキナーゼ阻害剤は、キナーゼのヒンジ領域に結合するATPアデニン構造を模倣した典型的 (canonical)なヒンジバインダーによるATP競合的な (オルソステリックな)阻害剤であるが、キナーゼ間の選択性の低さによる副作用や、平面的な構造による物性への影響が懸念される。

そこでGilead社は、アデニン模倣ではないnon-canonicalなヒンジバインダーを探索したところ、ニコチンアミド構造をもつ化合物1を取得した。

●化合物1はhERG阻害が見られたため、その低減を目指した

・ 先行研究でピリジン部分の塩基性とhERG阻害の相関が示唆されていた

 ✓ アミド基をヘテロ環に置き換えて塩基性(pKa, 計算値)を下げられないか?

  → 水素結合ドナーNHはヘテロ環の極性化CH-O相互作用で代替

・ トリアゾール2は阻害活性が維持された(むしろ向上)

 ✓ しかしピリジンの塩基性が強まり、hERG阻害も増強

  → 置換基を変えて塩基性を弱めた化合物3はhERG阻害が減弱

・ 化合物3のトリアゾールをオキサジアゾールに変換した化合物4は更に塩基性が下がりhERG阻害が減弱したが、活性も減弱

 ✓ チアジアゾールに変換した化合物5は活性が向上

●化合物5-IRAK4複合体のX線結晶構造解析

・ 活性向上の一因:チアジアゾールSとMet265主鎖COにS-O相互作用(約3.0 Å)

 ✓ 硫黄と酸素のファンデルワールス半径の和(3.32 Å)より短い

 ✓ B3LYP/6-31G**/PBF(water) で DFT 計算を行い、静電ポテンシャルマップと双極子モーメントから、チアジアゾール環の C–S 結合周辺の電子受容性(C–S σ* 方向)を推定

  → S-O相互作用の方向と一致

・ ピロロピリダジン3位シアノ基がLys213残基と水素結合

・ ピロロピリダジンがTyr262残基とT字型(edge‑to‑face)CH-π相互作用

●化合物5をベースに合成展開して化合物22を取得

・ Ligand lipophilicity efficiency (LLE)を指標に合成展開

・ 化合物5のシクロヘキサンを架橋型ピペリジンに変換した化合物12はLogDそのままでEC50が3倍以上改善

 → イソプロアミノ基を2-シアノエチル基に変換した化合物22はLogDを下げつつEC50が6倍以上改善

・ 化合物22はキナーゼ選択性あり(一番狭いIRAK1でも16倍あり)&良好なin vivo PKプロファイル

・ 残念ながらin vivo薬効評価の記載はなし

・ 化合物12-IRAK4複合体のX線結晶構造解析から、化合物5と同様の結合様式を確認

・ 新たにアセトアミド基とSer186残基の水素結合あり

・ 化合物5と12の比較

 ✓ 化合物5のシクロヘキサンはチアジアゾールと垂直に配置

 ✓ 化合物12の架橋ピペリジンがチアジアゾールと同平面上に配置

  → 架橋メチレンが疎水性面と接触 (N265、R273、L277 の主鎖が連続した水素結合ネットワークを形成し、その背後に水や極性リガンドがアクセスしにくい疎水性面を作り出している)

 ✓ アセトアミド基の位置は両者同様なのに、なぜか化合物12はSer186と水素結合を形成

●合成で面白かったポイント

・ チアジアゾールとピリジンのカップリング

 ✓ シクロヘキサンの場合はC-HとBrでPdとCu触媒のクロスカップリング

 ✓ ピペリジンの場合はBrとBでPd触媒のクロスカップリング

  → 電子リッチ/プアによって使い分け

 

【④Accent社のDHX9阻害剤でのS-O相互作用】

Discovery of ATX968: An Orally Available Allosteric Inhibitor of DHX9

J.Med. Chem., 2025, 68, 9537–9554.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.5c00252.

●DHX9 は RNA/DNA ヘリカーゼに属し、転写・翻訳の調節や R‑loop の解消、DNA 修復を通じたゲノム安定性の維持に不可欠な多機能酵素である。腫瘍細胞ではしばしば DHX9 の発現亢進や機能異常が報告されており、DHX9 を阻害すると R ループ蓄積、複製ストレス、DNA 損傷応答の破綻が誘導され、腫瘍細胞が選択的に脆弱化することが示されている。こうした知見から、DHX9 は新規な抗腫瘍標的として注目を集めており、特に小細胞肺がんや MSI‑H/dMMR 大腸がんなどで依存性が示唆されている。

そこでAccent社は、腫瘍細胞の脆弱性を突く新たな抗がん剤として DHX9 阻害剤の取得を目指した。

●HTSでヒット化合物1を取得

・ ATPase活性は部分阻害(最大70%)だが、アンワインド活性(ATP を使って二本鎖の核酸を一本鎖にほどく)は完全阻害

・ X線結晶構造解析で、ATP結合部位とは異なるアロステリック部位への結合を確認

 ✓ 結合部位(アロステリック部位)はヘリカーゼファミリーで保存性が低く、高選択性期待

・ ピラゾールNが水を介してSer345残基, Arg504主鎖COと水素結合

・ アミドNHがTrp343主鎖COと水素結合

・ ベンゼンがTrp343残基とT字型(edge‑to‑face)CH-π相互作用を形成

・ スルホンアミドNHがSer345主鎖COと水素結合

・ スルホニルOがArg504主鎖NHと水素結合

●化合物1をベースに合成展開してATX968を取得

・ 上記構造解析より、アミド、ベンゼン、スルホンアミドは活性に必須と示唆(変換が難しそう)

ピラゾールをチオフェンに換えて活性が大幅に向上

・ チオフェンのメチル基をピリジンに換えて活性と物性が改善

・ ベンゼンにクロロ基を導入して活性が向上、ATX968を取得

 ✓ ハロゲン(Cl/Br)の導入はresidence timeを延長させ、細胞活性(circBRIP1 EC50)を向上させた

  → ATPase IC₅₀よりもresidence timeの方が細胞活性と強く相関(R²: 0.55 vs 0.84)

・ ATX968-DHX9-ADP複合体のX線結晶構造解析から、化合物1と同様の結合様式を確認

・ チオフェンはピラゾールのNとは異なる配置

 ✓ 反転してSer472, 477残基と水素結合

  → それぞれ距離が3.7, 3.4 Åで硫黄と酸素のファンデルワールス半径の和(3.32 Å)より長いのでS-O相互作用では無さそう

  → むしろATX968アミドのカルボニルCOとS-O相互作用して活性配座に固定してそう

・ ベンゼンのクロロ基がCys489と硫黄-ハロゲン相互作用、Val441とv.d.w.相互作用

 ✓ これが活性向上およびresidence time延長の肝

・ ATX968のプロファイル

 ✓ 高い選択性(DHX36, SMARCA2, WRN など他ヘリカーゼを阻害しない)

 ✓ マウスで良好なPK(改善されたクリアランス・AUC)

 ✓ 300 mg/kg BIDで24時間EC90を維持し、MSI-H CRCゼノグラフトモデルで腫瘍体

 

今回注目したいのは、2点です。

一つ目は、S-O相互作用の有用性です。

どの事例でも活性向上に寄与しています。水素結合やπ–カチオン相互作用より弱いが、π–πスタッキングや疎水性相互作用より強い、これは利用したいです。そもそもS-O相互作用は、タンパク質内でメチオニン–セリンやメチオニン–スレオニン、ジスルフィド–酸素間を介して安定化に寄与する相互作用のようですが、今回の4例を見た感じでは、硫黄原子はチオエーテルのような電子豊富な状態よりも、チアゾールやチアジアゾールのような電子欠乏した環境の方が相互作用を形成しやすいように思えます。X線結晶構造解析やGiliad社のDFT計算から、硫黄原子の左右斜めの位置(C-S σ*)に3.2 Å以内の距離に酸素原子が配置されるような設計が良さそうです。

また、他の使い方として、例えば環状ペプチドやPROTACのカメレオニシティに利用して物性と細胞膜透過性を両立させるテクに使えないかなとも思いました。

東大 菅先生、京大 後藤先生が環状ペプチド内にチアゾールを入れたりしていた気がしますが、水中だと水と水素結合しつつ、細胞膜内だと分子内S-O相互作用を形成して透過性が上がったりするかも。

二つ目は、Ascend社の硫黄-ハロゲン相互作用によるresidence time延長です。

もう少し論文を詳しく紹介すると、以下のように無置換10、ブロモ基23、メチル基24でATpase活性に大きな差はありませんが、細胞活性(circBRIP1 EC50)は大きく差が出ています。構造解析から、ハロゲンはCys489と硫黄-ハロゲン相互作用、Val441とv.d.w.相互作用していることが示唆されており、メチルでもv.d.w.相互作用は形成するでしょうから、Cys489との相互作用が肝なのか、硫黄-ハロゲン相互作用という形式が肝なのか・・・。方向性を持った相互作用が重要、ということなのかも・・・?

 

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。

はさまった

はさまった

#創薬人格付けチェック

どうも三流創薬人です。

今年の創薬ちゃんの創薬人 格付けチェック、はずしてしまいました。

来年は正解するために、抗体-抗原の結合様式を学びたいと思います。

(ついでに低分子も。)

 

Genentech社が創製した抗PD‑L1抗体Atezolizumab(商品名:テセントリク)は、CDRループがPD‑L1のβシートとしっかり噛み合い、お互いのシートがきれいに揃っているように見えた。一方、Bristol Myers Squibb社が創製したPD‑1/PD‑L1相互作用阻害低分子BMS‑200は、PD‑L1の二量化を誘導することで、単量体では平坦で低分子が結合しにくい領域に疎水性の溝を形成し、その溝にハマる形でPD‑L1と結合していた。

 

悪いな・・・PD-L1・・・

おまえのおかげだ・・・

これでタンパク質間相互作用を阻害できる・・・

お前と組めてよかったよ・・・

おまえのおかげで・・・

上海交通大学のFeiらの報告

Structural basis of the therapeutic anti-PD-L1 antibody atezolizumab

Oncotarget. 2017, 8, 90215-90224.

https://doi.org/10.18632/oncotarget.21652

●結合部位: Atezolizumab FabはPD-L1のIgVドメインのβシートに結合

・PD-1とほぼ同じ面を占有して競合阻害

AtezolizumabのVHドメインCDR1-3とVLドメインCDR3が主に相互作用

●相互作用: 13の水素結合と複数のπ–π/カチオン–π相互作用、約82の疎水性の接触

・ AtezolizumabのY54, G55, S57, T58は、PD-L1のE58, D61, N63, Q66, V111と6つの水素結合を形成

 ✓ 特にY54は、主鎖COがD61主鎖NHと、側鎖フェノールOHがV111主鎖COとそれぞれ水素結合を形成、側鎖ベンゼン環がR125側鎖とカチオン–π相互作用を形成

・ AtezolizumabのS30, D31は、PD-L1のR113, Y123, R125との4つの水素またはイオン結合を形成

・ AtezolizumabのW33, W50, W101は、PD-L1のM115側鎖と疎水性相互作用を形成

 ✓ 特にW101は、Y123とπ-π相互作用も形成

・ AtezolizumabのL92およびY93は、PD-L1のA51, A52と疎水性相互作用を形成

 ✓ G119は疎水性相互作用の隙間を埋めるスペーサー?(密着に関与)

ホットスポット: PD-L1のアラニンスキャンでAtezolizumabとの結合親和性を評価

・I54A: 3.2倍低下

・Y56A: 2.7倍低下

・E58A: 18.2倍低下 (G55, S57と水素結合)

・R113A: 8.6倍低下 (D31主鎖COと水素結合)

・M115A: 4.6倍低下 (W33, W50, W101と疎水性相互作用)

・Y123A: 4.7倍低下 (D31と水素結合、W101とπ–π相互作用)

・R125A: 6.0倍低下 (S30と水素結合、Y54とカチオン–π相互作用)

単独の強い相互作用というより、ネットワークのハブになっている残基がホットスポット化する。

 → 加えて言うと、主鎖との相互作用も重要(位置が固定されていて相互作用が安定)

 

創薬人格格付けチェックの振り返り

1) 自身のコメントで『抗体-抗原相互作用はEntropy drivenだとか、作用面のアミノ酸は抗体側Y,W,H等、抗原側K,E,R等が多いって論文を見掛けた』 と書いたが、Atezolizumab-PD-L1の作用面を見ると・・・

ホットスポットを中心とした水素結合やπ–π/カチオン–π相互作用が形成されており、EntropyよりもEnthalpy drivenと考えられる。(違った)

・抗体側 (Atezolizumab)にY, Wが、抗原側 (PD-L1)にR, E, 同じカルボン酸という観点でDが、それぞれ多いように見える。(合ってた)

2) ADCのケミストさんが『④が一番ループをがっちり噛んでいる気がする』とコメントされていたが、こちらもAtezolizumabのCDRループがPD-L1のβシートとしっかり噛み合っているように見える。また、お互いのシートがきれいに揃っているように見える点も、格付けチェックの④と様相が近いと思う。

以上を踏まえて、格付けチェックを見直すと、確かに④が正解と導き出せる・・・かもしれない。

答えを知った上での後出しとも言えるが・・・。

 

ところで、低分子のPD-1/PD-L1相互作用の阻害剤はどうだろうか?

抗体と同じだろうか、それとも違う?

調べてみた。

 

ヤギェウォ大学 (ポーランド)のKatarzyna

Small-Molecule Inhibitors of the Programmed Cell Death-1/Programmed Death-Ligand 1 (PD-1/PD-L1) Interaction via Transiently Induced Protein States and Dimerization of PD-L1

J. Med. Chem. 2017, 60, 5857–5867.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.7b00293

●結合部位: 化合物2a (BMS-200)はPD-1やAtezolizumabと近い領域で結合

・ 注目すべきは、化合物2aがPD‑L1二量体を形成させることで、PD‑1結合面を塞ぐという間接的な阻害様式

・ PD-L1単量体では結合部位が平坦で低分子が結合するためのポケットが存在しないため、二量体化させる疎水性の溝を形成して結合 (induced pocket)

●相互作用: PD-L1二量体のI54, Y56, V68, M115などで形成される溝にハマって疎水性相互作用

・ 化合物2aのカルボキシ基がPD-L1のT20側鎖と水素結合

・ 化合物2aのカルボニル基がPD-L1のQ66側鎖と水素結合

・ 化合物2aのジフルオロベンゼン部分がPD-L1のY56とπ–π相互作用

ホットスポット: Atezolizumabの場合と比較

Atezolizumabとの結合親和性に重要だったE58やR113, R125とは相互作用していない

・ Atezolizumabとの結合親和性に結合親和性にやや影響を及ぼしていたI54, Y56, M115とは相互作用を形成

・ Atezolizumabの阻害形式はEnthalpy drivenと考えられたが、化合物2aは疎水性相互作用を中心としたEntropy drivenと思われる

 

今回、PD1/PD-L1タンパク質間相互作用を題材に抗体-抗原の結合様式を学ぶオマケとして、低分子阻害剤の結合様式も調べた結果、実に興味深い学びがありました。

似たような阻害様式として、タクロリムス (FK506)やラパマイシンが考えられます。

タクロリムスは、FKBP12とカルシニューリンと三者複合体を形成することで、カルシニューリンが基質を結合できなくなり、脱リン酸化作用が阻害されます。同様にラパマイシンは、FKBP12とmTORと三者複合体を形成することで、mTORが基質と結合できなくなり、リン酸化作用が阻害されます。化合物2aは、三者複合体というよりはPD-L1の二量化を誘導してPD‑1結合面を塞ぐことで、PD1とPD-L1のタンパク質間相互作用を阻害しており、厳密には上記2化合物と作用機序は異なりますが、同じモレキュラーグルーと言えるのではないでしょうか。

PD-L1単体では平坦で低分子が結合するポケットが無いけれども、二量体にすることで疎水性の溝を形成して結合する、というのは非常にユニークです。一方で、予測してこのような結合様式の化合物を取得できるか?と言えば難しそうに思えます。

ところで、化合物2aはHTRF binding assayでIC50 = 80 nMとのことです。この先さらに活性を上げるにはどうすれば良いでしょうか?

・ あまり大きく構造変換すると二量体化の性質が崩れる懸念があります。

・ Atezolizumabとの結合親和性に重要だったE58やR113, R125は距離がちょっと離れているように見えます。

共有結合はどうでしょうか? C40, 114がありますがこちらもちょっと距離が遠い気がします・・・てかジスルフィド結合しているようなので無理です。他にはK75, 124が化合物2aのカルボキシ基またはカルボニル基と7.4または5.3 Å離れていますが、リジン側鎖の柔軟性も考慮すると、Warheadを入れれば届く・・かもしれません。

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。