低分子でいく

低分子でいく

 

 近年、低分子や抗体以外に様々なモダリティが開発され、それによって狙える標的の幅も大きく広がってきています。環状ペプチドは、抗体に代わって経口投与により細胞内タンパク質間相互作用 (Protein-Protein Interaction, PPI)を阻害するアプローチとして注目されています。とは言え、現状では環状ペプチドの経口投与や細胞膜透過性は容易ではなく、盛んに研究が行われている状況です。一方で、PPIは結合面が平坦で広く柔軟であるため低分子で狙うには難易度が高い標的です。

 今回は、日本発のベンチャーPRISM Biolab社によるPPIを標的として取得した環状ペプチドを低分子化するアプローチを紹介します。

 

別に相手が誰だろうと俺は”ペプチド模倣(低分子)”しか使わない

Rational Strategy for Designing Peptidomimetic Small Molecules Based on Cyclic Peptides Targeting Protein–Protein Interaction between CTLA-4 and B7-1

https://doi.org/10.3390/ph15121506

 

 細胞傷害性Tリンパ球抗原4 (Cytotoxic T Lymphocyte-associated Antigen 4, CTLA-4)、別名CD152は、活性化T細胞や制御性T細胞の表面に発現する免疫調節因子の一つである。抗原提示細胞の一つである樹状細胞上のB7分子 (B7-1およびB7-2)をリガンドとして結合し、T細胞活性化を抑制する。つまり、CTLA-4とB7分子のPPIを阻害することによってT細胞の活性増強および維持が期待される。

以前に、Fragment-based drug discovery (FBDD)の大家であるVanderbilt大学のFesik教授らはFBDDを用いてCTLA-4に結合する低分子を取得したものの、本手法はホットスポットをポイントで狙うアプローチであるため広い結合表面で相互作用するCTLA-4には適さないことが分かった。そこで、PRISM社は、広く作用する環状ペプチドを取得し、それを低分子化するアプローチにチャレンジした。

 

【ハイライト】

1)ディスプレイ法で環状ペプチド取得、アラニンスキャンで重要残基を抽出

2)Pepmetics骨格にアミノ酸残基を導入して低分子化

3)CTLA-4-B7-1複合体結晶情報を元にSBDDで活性43倍向上

 

【その1:ディスプレイ法で環状ペプチド取得、アラニンスキャンで重要残基を抽出】

  • 環状ペプチドライブラリーは、12個のランダムなアミノ酸で構成
    • 12 merペプチドの両端にCysを入れてS-S結合で環構築 (合計14 mer)
    • Cysの先にそれぞれGlyが2つ繋がり、N末はFLAG, C末はc-Myc, tolAスペーサー, secMが続く
  • ビオチン化CTLA-4-Fcを用いてスクリーニング
    • カウンター系は、ビオチン化ヒトIgG1-Fc
  • CTLA-4に特異的に結合する環状ペプチドを7つ取得。
    • ペプチドC4-302 (配列:GGCMHPFLLVVSHHFCGG)はCTLA-4に結合、ヒトFcに結合せず
    • ※CCでS-S結合を形成、GGはリンカー
  • 残りの6ペプチドはCTLA-4とヒトFcの両方に結合のためボツ
  • C4-302はCTLA-4とリガンドB7-1のタンパク質間相互作用を阻害
    • CTLA-4に対する結合親和性はEC50 = 3.92 μM
      • 思ったより弱かったので、アフィニティーマチュレーションを実施
    • アフィニティーマチュレーションはError-Prone PCR法を利用
      • ペプチドC4m-3127 (配列:GGCMHPFLPIVSHHFCER)を取得
      • ※CCでS-S結合を形成、GGとERはリンカー
  • C4m-3127のCTLA-4に対する結合親和性はEC50 = 0.0747 μMで、元のC4-302から52倍向上
  • CTLA-4-ビオチン化B7-1評価系で阻害活性 (IC50 = 11.5 μM)確認
  • C4m-3127の類似ペプチドC4m-310044 (配列:GGCLHPFLPIVSHHFCGR, EC50 = 0.0818 μM)を親配列としてアラニンスキャンを実施
    • 結合に関与なし: F4, V8, H10, G(+1), R(+2)
    • 結合に重要:H2, P3, L5, P6, I7, S9, H11, F12
      • H2, P3, L5, S9, H11, F12はCTLA-4との結合に必須
      • P6はL, R, Qに、I7はV, T, Lに置換可能
        • 2残基は結合には関与していないが結合親和性に寄与している

 

【その2:Pepmetics骨格にアミノ酸残基を導入して低分子化】

  • ペプチド模倣技術 (Pepmetics)を用いてはC4m-3127の低分子化を実施
  • C4m-3127の12 mer (MHPFLPIVSHHF)の3つの連続するアミノ酸残基をPepmetics骨格に導入した化合物を順次合成
    • プロリン模倣の制限のため(M1, H2, P3), (H2, P3, F4), (F4, L5, P6), (L5, P6, I7)は合成せず
    • 連続するH10, H11は合成上の制限によりH10をV10に変更

※C4m-310044のアラニンスキャンでH10は結合に関与無し、H11は結合に必須

  • PGF00432 (V10, H11, F12)を取得
    • CTLA-4-ビオチン化B7-1評価系で阻害活性 (IC50 = 294 μM)あり

 

【その3:CTLA-4-B7-1複合体結晶情報を元にSBDDで活性43倍向上】

  • PGF00432とCTLA-4のドッキングシミュレーションを実施
    • CTLA-4-B7-1複合体結晶情報 (PDB: 1I8L)を使用
      • 親ペプチドC4-302がCTLA-4とB7-1の相互作用を阻害した結果からPGF00432もその相互作用面に結合して阻害していると仮定
    • PGF00432のヒスチジン残基はCTLA-4のGlu48と相互作用
      • 強塩基のグアニジンに変換して相互作用の増強を狙う
    • PGF00432のバリン残基はCTLA-4のIle93/Leu39の疎水性ポケットを部分的に占有
      • 疎水性が高くサイズの大きいシクロヘキサンに変換して疎水性ポケットを埋める
    • PGF00432のフェニルアラニン残基はCTLA-4-B7-1作用面 (溶媒領域)に位置
    • ( 図8Bを見るとTyr104とスタッキングしているように見えるが違う?)
      • 嵩高い置換基に変換してCTLA-4-B7-1作用面で立体障害を狙う
  • PGF00506 (IC50 = 6.8 μM)を取得
    • PGF00432と比べて43倍向上、C4m-3127の2倍弱の阻害活性

 

 今回注目したいポイントは2つあります。

 一つ目は、低分子の取得にX線結晶構造解析を必要としなかったことです。

ディスプレイ法で取得した環状ペプチドの3つの連続するアミノ酸残基をPepmetics骨格に導入し、順次合成した結果、PGF00432が見出されました。また、ペプチドのアラニンスキャンで重要残基を抽出することで、H10をV10に変換しています。ペプチドさえあれば結晶が取れなくても低分子化を狙えるのは非常に有用です。

 二つ目は、低分子に極性アミノ酸と芳香族アミノ酸が含まれていることです。

過去に紹介した中外さんのOrforglipronや塩野義さんのCompound 14にも極性アミノ酸と芳香族アミノ酸が含まれています。

※ただし、OrforglipronがGLP-1ペプチドから低分子化したかもというのは個人的な推理によるもの(以下記事参照)で実際は違うかも・・・違ったらすみません。

中外さん:https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/01/02/082956

塩野義さん:https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/12/10/054513

 低分子で結合面が平坦で広く柔軟なPPIを狙おうとしたら、極性アミノ酸による標的タンパクとの水素結合のようなエンタルピー駆動型の相互作用が重要かもしれません。塩野義さんの例ではHxG5とW6によるInduced fitが起こったため、芳香族性アミノ酸にはそのような作用も期待できるかも。

ペプチドライブラリーは極性アミノ酸や芳香族性アミノ酸にフォーカスしてデザインするのが効果的でしょう。芳香環にはハロゲン(特にフッ素)を入れても良いかな。

(ここまできたらペプチドの低分子化せずに直接Pepmetics骨格にフォーカスした置換基を導入した化合物ライブラリーでスクリーニングした方が早いかもしれないけど。)

 

 そう言えば、中外さんの膜透過性ペプチドのライブラリーは『電荷を持つアミノ酸を排除して、疎水性アミノ酸』で構成されていました。

 中外さん:https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/11/30/055443

上記の話で言うと、中外さんの膜透過性ペプチドは低分子化が難しい・・・と言うか、相互作用も疎水性相互作用を中心としたエントロピー駆動型でしょうから異なるし、もし結合部位・結合様式も異なるなら、適した標的タンパクも異なるかもかもしれないので、お互いに棲み分け・使い分けが出来るかもしれません。

 

 ところで、PGF00432 (IC50 = 294 μM)から誘導されたPGF00506 (IC50 = 6.8 μM)は元のペプチドC4m-3127 (IC50 = 11.5 μM)より強い阻害活性を持っているとは言え、マイクロオーダーで物足りないです。低分子でPPIを阻害するにはこれが限界なのか?個人的には共有結合官能基に期待しています。K-RAS阻害剤において、システインを狙った共有結合官能基(warhead)が導入された化合物がありますが、いつも都合よく傍にシステインがあるとは限らないので、他の官能基も狙えたら良いよね、リジンとか。

フェェェェドインッ!!

やることは変わらない

やることは変わらない

 

 環状ペプチドは、抗体のようにタンパク質間相互作用(結合部位が広くて平面)を選択的に狙いつつ、低分子のように細胞膜透過性があり経口投与可能で化学合成による低コスト化も期待できることから、長年注目のモダリティである。

 今回は、一昨年巷を賑わせたMerckさんの環状ペプチドMK-0616創出の経緯である。大きな構造に圧倒されるが、ヒットペプチドからMK-0616取得までのメドケムアプローチは、低分子創薬と変わらない。

 

モダリティが変わろうが、創薬化学者がやることは変わらない。

Series of Novel and Highly Potent Cyclic Peptide PCSK9 Inhibitors Derived from an mRNA Display Screen and Optimized via Structure-Based Design

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.0c01084

A Series of Novel, Highly Potent, and Orally Bioavailable Next-Generation Tricyclic Peptide PCSK9 Inhibitors

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.1c01599

Orally Bioavailable Macrocyclic Peptide That Inhibits Binding of PCSK9 to the Low Density Lipoprotein Receptor

https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.122.063372

 

 PCSK9は、LDLコレステロール代謝に重要な役割を果たしている。

 主に肝臓や小腸に発現しており、細胞表面にあるLDL受容体(LDLR)の細胞内分解を促進することで、LDLRによるLDLコレステロールのクリアランスを減少させる。

 現在、PCSK9を標的とした脂質異常症の治療薬として、抗体医薬のEvolocumabや核酸医薬のinclisiranが承認されているが、PCSK9とLDLRとタンパク質間相互作用の結合サイトは大きく平面であるため、低分子バインダーは見つかっていない。一方で、承認薬の抗体や核酸は注射剤であるため、経口剤のアンメットメディカルニーズが存在する。

 そこで、Merck社は経口吸収可能な環状ペプチドによりタンパク質間相互作用を阻害するアプローチを狙った。

 

余談だが、以前にPfizer社はPCSK9とLDLRのタンパク質間相互作用を直接狙うのではなく、その発現を抑制する低分子創薬核酸医薬の低分子化)を報告している。

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/02/23/135326

 

【ハイライト】

1)X線複合体共結晶構造解析(と代謝部位同定)でメドケム方針を定める

2)不要な部分の除去、代謝部位周辺に置換基導入、環化して配座固定

3)極性基導入でOATP基質回避、製剤添加物で経口吸収化

 

【その1:X線複合体共結晶構造解析(と代謝部位同定)でメドケム方針を定める】

  • Ra pharma社(UCB社が買収)とのコラボレーションにより環状ペプチド1を取得
    • mRNAディスプレイ法で2つのシステイン残基とジブロモキシレンで環化させて環状ペプチドを形成
    • 活性良好であったが、代謝安定性が低い/物性が悪い/結晶取得できず、の課題があったため、初期SAR取得の合成展開を実施
  • 2つのメドケムアプローチで化合物2を取得
    1. 活性に不要な部分を除去して分子量を削減
      • N末テール部分を除去
    2. 代謝部位周辺に置換基を導入して立体障害で代謝改善
  • それぞれのアプローチで活性が大きく増加

  • 化合物2はPCSK9と共結晶を取得できたためX線解析を実施
    • 化合物2の5つの水素結合アクセプター/ドナーがPSCK9と水素結合を形成
    • 化合物2の5-フルオロトリプトファン残基がPCSK9のPhe379やIle369から成るポケットに収まっている
      • 5-フルオロ基は水素結合を形成して活性に必須
    • 化合物2のベンゼン環はPCSK9のIle369周辺で疎水性相互作用を形成
    • 化合物2のグリシンは溶媒露出側に置換基導入が可能
    • 環化して配座固定できそうな箇所あり

【その2:不要な部分の除去、代謝部位周辺に置換基導入、環化して配座固定】

  • 4つのメドケムアプローチで化合物17を取得
  1. 活性に不要な部分を除去して分子量を削減
    • C末カルバモイル部分を除去
  2. 代謝部位周辺に置換基を導入して立体障害で代謝改善
  3. 環化して活性配座を固定
    • オレフィンメタセシスで環化(transが活性体)
  4. ラットにアレルギー反応(マスト細胞脱顆粒)あり

  •  化合物17は肝OATP基質(かつ阻害剤)のため高クリアランス
    • ラットでOATPをKOするとCLが低減
    • OATP基質性は脂溶性と相関
  • 極性基を導入して回避を狙う(アニオントランスポーターなのでカルボン酸はダメ、マスト細胞脱顆粒リスクあるのでアミンの塩基性が高いとダメ)

【その3:極性基導入でOATP基質回避、製剤添加物で経口吸収化】

  • 2つのメドケムアプローチで化合物44を取得
    1. 極性基を導入してOATP基質認識を回避
      • 塩基性の低いアミンや3級アミンの導入が効果的
      • リンカーをPEGにして更に極性化(溶解度向上に寄与)
    2. 環化して活性配座を固定
      • アルキンとアジドでトリアゾールを形成するHuisgen反応で環化
  • 化合物44はOATP基質認識を回避しつつ活性も大幅向上
    • 消化管吸収を促進する製剤添加物Labrasolを加えた30% Labrasol/PBS溶液で経口投与(rat F = 2.7%, cynomolgus F = 2.9%)
      • カニクイザルに1 mg/kg経口投与でフリーPCSK9量80%以上低下が6時間維持(80% target engagement)

  • 環化を最適化してMK-0616を取得
    • オレフィンをアミドに変換して脂溶性低減と異性体回避
    • ジスルフィドをアミドに変換して酸化回避
  • MK-0616は製剤添加物Sodium caprateで経口投与
  • 第2b相試験で 高コレステロール血症患者のLDL-Cを有意に低下

https://www.msd.co.jp/news/chq-20230324-1/

  •  

 

 今回、MerckのヒットペプチドからMK-0616取得までのメドケムアプローチを見ると、注目したい点は5つある。

①不要な部分を除去する

 低分子創薬では、活性だけでなくLigand Efficiency(LE)を利用して(個人的には特にFBDDで使われる印象)、もし構造削減によって活性低減してもLEが維持されればヨシッとして合成展開することがある。ペプチドは元の分子量が大きいのでLEが使えるか不明だし、今回は構造削減によって活性が増強されたが、経口吸収化を狙うためには分子量を小さくしつつ水素結合ドナー/アクセプターを減らすアプローチは重要と思う。

代謝部位周辺に置換基を導入して立体障害によって代謝回避を狙う

 低分子創薬でも代謝部位またはその周辺に置換基を導入して、立体障害や電子吸引性を利用して代謝回避を狙うことはよくある。ペプチドでは、ペプチドの加水分解を回避するためにアミノ酸α位にメチル基を導入したり、2級アミノ酸プロリンに変換したりするのが一般的のようだ。塩野義さんもやっていた。

https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.2c00310

とは言え、前提として代謝部位を同定する必要があるため、今まで紹介してきた塩野義さん中外さんJTさんと同様に、ヒット化合物の時点で代謝を評価することは重要だろう。ここを丁寧に取り組めるかが、今後の成功の可否を分けるポイントかもしれない。

③環化して配座固定する

 これも低分子創薬でよくやる手法で、フレキシブルな構造をリジッドにして活性向上(や選択性改善、物性改善)を狙うが、今回は2回も環化することで活性を激増させた。ただし、何となく環化するのではなく標的タンパクとのX線複合体共結晶構造解析を元にデザインした方が良い。

④また、経口吸収する環状ペプチドと言えば、シクロスポリンや中外さん、ペプチドリームさん皆共通してN-メチルアミノ酸が含まれているが、今回のMK-0616には含まれていない(2級アミノ酸プロリンはあるけど)。これは何故だろうか?化合物2のX線解析から、PCSK9との相互作用に幾らか水素結合ドナーが必要っぽいが、それだけだろうか?分子内水素結合で配座の維持にも使われている?それともN-メチル化すると立体障害で配座が維持されない?中外さんのプラットフォームではアミノ酸 = 11個, CLogP ≧ 12.9, N-アルキル化 ≧ 6個が膜透過に重要とあったが、標的タンパクによってはもっと大きいサイズが必要だったり、N-メチル化できない場合もあったりするのかもしれない・・・と思った。

一方で、今回のMK-0616において5-フルオロトリプトファンのフルオロ基が活性に必須だったが、中外さんのペプチドライブラリーにもハロゲン化チロシンがあったので、ハロゲン(特にフッ素?)の入った非天然アミノ酸は重要かもしれない。あとプロリンも共通している。

⑤そして、論文を眺める限りでは経口吸収のためのアプローチは製剤添加物LabrasolまたはSodium caprateを加えるのみで、メドケム的に何を検討したのか分からなかった。おそらく2つの環化は効いているだろうけど。製剤添加物は、GLP-1受容体作動薬リベルサス(セマグルチド)もSodium Salcaprozate (SNAC)により経口化している。

 

 以上、モダリティが変わっても創薬化学者がやることは基本的には変わらない・・・と言っても、こんな大きな分子を相手に同じことが出来るMerckさんはやっぱりスゴイ。Merckの化学は世界一イイイイ!!

マジックメチルを狙って入れる_その3

マジックメチルを狙って入れる_その3

 

 以前にメチル基を導入することで立体配座を制御して安定配座を活性配座に近づけて活性向上を達成した事例を紹介しましたが、今回はJTさんによる「メチル基を導入することでInduced fitを引き起こしつつ安定配座と活性配座を近づけたKeap1-Nrf2タンパク質間相互作用阻害剤」の研究です。

 既知化合物において、共有結合型は毒性懸念、非共有結合型は物性の悪さという課題があったため、彼らは、非共有結合型で良好な物性を持ったHTSヒット化合物を元に、その物性を維持しながら活性向上を目指しました。

 

『タンパク質間相互作用を阻害する』、『良好な物性を維持する』

「両方」やらなくっちゃあならないってのが

「メドケム」のつらいところだな

Methyl and Fluorine Effects in Novel Orally Bioavailable Keap1–Nrf2 PPI Inhibitor

https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.3c00067

 

 慢性腎臓病(CKD)は、糸球体濾過量(GFR)低下やアルブミン尿を含む腎機能の進行的損傷をもたらす病気であり、最終的には腎不全をもたらす。CKD患者数は世界中で毎年増加しており、2040年には5番目の死亡要因になると予測されている。近年、SGLT2阻害剤やミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が治療薬として承認されたがアンメットメディカルニーズは依然として高い。

 Nuclear Factor Erythroid 2-related factor 2 (Nrf2)は、約250の抗酸化タンパク質の産生を促進する酸化ストレス応答転写因子である。Nrf2は通常Kelch-ECH-associated protein 1 (Keap1)と結合してプロテアソーム-ユビキチン系で分解されるが、酸化ストレスに曝されるとKeap1との結合から放出されて機能を発揮する。

 バルドキソロンメチルは、Keap1と共有結合を形成することでNrf2を活性化させ、臨床試験においてステージ3-4のCKD患者の推算糸球体濾過量(eGFR)を有意に改善した。しかし、心不全の発現リスクが確認されたため開発は中止された。

https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2013/20131111_01.html

副作用の原因の一つとして、バルドキソロンメチルはマイケルアクセプターを持つためKeap1以外の分子のシステイン残基とも反応してしまったためと考えられる。

 

ちなみに、バルドキソロンメチルはその後安全性に配慮して国内で再開されたが、

https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2014/20140702_01.html

末期腎不全(ESRD)が最初に発現するまでの期間を改善できず中止している。

https://www.kyowakirin.co.jp/pressroom/news_releases/2023/20230510_01.html

 

 Keap1-Nrf2タンパク質間相互作用を阻害する多くの化合物の研究が報告されてきたが、非共有結合型の化合物のほとんどは物性が悪く(低溶解性または低膜透過性による低バイオアベイラビリティin vivoで高クリアランス)、臨床試験まで進んだ例はまだない。

そこで、JTは非共有結合型のKeap1-Nrf2タンパク質間相互作用阻害剤で良好な物性を持ち、腎で抗酸化作用を示す化合物の創製を目指した。

 

【ハイライト】

1)HTSヒット化合物の溶解度/膜透過性/代謝安定性を評価して選抜

2)異なるケミカルクラスのX線解析と比較して置換基導入によるInduced fitをデザイン

3)異なるケミカルクラスのX線解析と比較して置換基導入による水素結合を狙う

 

【HTSヒット化合物の溶解度/膜透過性/代謝安定性を評価して選抜】

  • 自社化合物ライブラリーに対して、Biacoreを用いたHTSを実施した。
    • Nrf2のNeh2ドメインの部分配列(ETGE peptide)を固定して、Keap1のKelchドメイン(Nrf2結合部位)と化合物の混合溶液を流して評価。
  • Nrf2-Keap1結合阻害活性を有するスルホンアミド6およびβ-アミノ酸7を取得。
    • どちらも高い溶解性(Solubility)および良好な膜透過性(Caco2 Papp)あり。
    • スルホンアミド6はヒト/ラット肝ミクロソーム代謝安定性が低いためボツ。
  • セミ体7を光学分割して活性本体の(S)体9を取得。

 

【異なるケミカルクラスのX線解析と比較して置換基導入によるInduced fitをデザイン】

  • 化合物9の良好な物性を維持しながら活性向上を目指すために、なるべく小さな構造変換/置換基導入により、分子量を大きくしない合成展開を実施。
    • 活性評価に加えて、Ligand Efficiency(LE)も考慮する。
  • 化合物9とKeap1のKelchドメインの複合体のX線結晶構造解析を実施。
    • カルボキシ基が、Arg483残基とイオン結合、Ser508残基と水素結合を形成。
    • アミドのカルボニル基が、Ser555残基と水素結合を形成。
    • トルエン部分が、β-プロペラ-構造のトンネル入口の疎水性領域を占有。
    • テトラヒドロナフタレン部分が、Tyr572残基で形成された疎水性領域を占有。
  • 異なるケミカルクラスのX線結晶構造解析と比較すると、アミノ酸残基の位置が違った。
    • Ile461の位置が違った:9との複合体では内側(カルボキシ基近く)にあるが、他のケミカルクラスとの複合体では外側にフリップしている。
      • カルボキシ基α位に置換基を導入してIle461のInduced fitを狙う。


化合物9のカルボキシ基α位に置換基を導入。

    • メチル基導入により(S)体12は活性減弱、(R)体13は活性が14倍くらい向上。
    • エチル基導入した(R)体15は活性減弱。

  • 化合物13の活性が向上した要因を解析。
    1. X線結晶構造解析:導入されたメチル基は、Ile461がフリップしてできたスペースを占有。(メチル基導入によるInduced fit)
    2. MD計算によるWater Map解析:Ile461がフリップしてできたスペースにある水分子はエネルギー的に不安定であるため、メチル基を導入して退かすと有利。
    3. 配座解析:メチル基導入によって活性配座が安定化。
    4. 等温滴定熱測定(Isothermal Titration Calorimeter: ITC):化合物13は化合物9と比較して⊿Gが3下がっているが、その内訳は、⊿Hほとんど変わらず、−T⊿Sが1.5下がっている。
      • メチル基導入による活性向上はエントロピー駆動型(疎水性相互作用や配座安定化)によるもの。

 

【異なるケミカルクラスのX線解析と比較して置換基導入による水素結合を狙う】

  • 異なるケミカルクラスのX線結晶構造解析と比較すると、水素結合のチャンスあり。
    • 他のケミカルクラスではベンゾトリアゾール基が水素結合アクセプターとしてGln530残基と水素結合を形成。
      • 他のケミカルクラスのベンゾトリアゾール基は、化合物13におけるアミドのカルボニル基α位に近い位置。
      • 水素結合アクセプターを導入して水素結合を狙う

  • 合成を容易にするために化合物13の構造を単純化(テトラヒドロナフタレンをベンゼンに変換)した化合物16のアミドのカルボニル基α位に水素結合アクセプターを導入。
    • 極性基を導入したジケトン17やメトキシ20は活性減弱、フルオロ基を導入した(S)体23は活性が19倍以上も向上、(R)体24は活性減弱。
    • 元化合物13に適用した(S)体25は活性が31倍以上も向上。

  • 化合物25の活性が向上した要因を解析。
  1. X線結晶構造解析:導入されたフルオロ基は、距離的にGln530残基と水素形成が示唆。(F-N距離 = 2.97 Å)
  2. MD計算によるタンパク質の各残基の相互作用している傾向:Ser555とより安定な水素結合形成が示唆。
    • 化合物13との複合体では、Ser555はGln530と分子内水素結合を形成しており、化合物13のアミドのカルボニル基との水素結合はあまり安定では無い。
    • 化合物25では、フルオロ基がSer555とGln530の間に入ることで、Ser555はGln530から引き離されて、アミドのカルボニル基との水素結合が増強。
  3. 等温滴定熱測定(ITC):化合物25は化合物13と比較して⊿Gが4下がっているが、その内訳は、⊿Hが3.9下がり、−T⊿Sが2.5上がっている。
    • フルオロ基導入による活性向上はエンタルピー駆動型(上記水素結合の獲得/増強)によるもの。
    • 一方で、フルオロ基導入によりF-C-C=Oの角度が安定配座(逆平行)と活性配座(25.5°)で乖離が生じ、エントロピーのロスを招いている。

     (エンタルピーゲインとエントロピーロスで差し引き活性向上)

  • 化合物25のin vivo試験を実施。

化合物25は、元のHTSヒット7から溶解度/膜透過性/代謝安定性を維持し、目標とした高溶解性かつ高膜透過性かつ高バイオアベイラビリティin vivoで低クリアランスを達成。

  • Wister ratに化合物25を経口投与6時間後の腎臓組織中のHO-1タンパク量を評価。
    • 用量依存でHO-1タンパクの増加が観測、30 mpkでvehcleの4.6倍増加。
    • BARD(3 mpk)と同等の薬効を示した。
  • 共有結合型のKeap1-Nrf2タンパク質間相互作用阻害剤で良好な物性を持ち、腎で抗酸化作用を示す化合物25を創製できた。

 

 今回注目したいポイントは2点あります。

 一つ目は、HTSヒット化合物の時点でPKプロファイルを取得していることです。一見すると化合物7より化合物6の方が、不斉点が無く、合成上の切り口的に展開しやすそうだなって感じましたが、代謝安定性が全然ダメなので場合によっては泥沼に入りかねません。前職ではリード化合物創出のステージにおいて、ある程度in vitro活性を上げてin vivo評価に進む際に初めてPK評価を実施することが一般的で、そこで代謝や暴露が全然ダメで仕切り直すこともあったため、あらかじめ良好なPKプロファイルが担保されているのは良いなと思いました。これは、以前に塩野義さんがS-217622(Ensitrelvir)を超スピードで創製した際にも感じましたし、最近では中外さんの環状ペプチドにおいてヒットの時点で膜透過性と代謝安定性が担保されるようにデザインした際も同様です。

(とは言え、動態研の立場からしたら毎回全部やっていたらキリがないでしょうけど)

塩野義さん:https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/11/26/122918

中外さん:https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/11/30/055443

 

 二つ目は、異なるケミカルクラスのX線解析と比較して置換基導入をデザインしたことです。特にアミノ酸残基の位置の違いからInduced fitを狙ってデザインしてそれがハマった点は秀逸です。自分も前職でときどき狙いましたが上手くいった試しが無かったので、素晴らしいと思いました。結果として、導入したメチル基はInduced fitを引き起こしつつ、安定配座と活性配座を近づけるマジックメチルとなりました。このように複数のデータを元に、計算化学者と協力して、三次元的で動的な相互作用を制御する化合物をデザインするのが、メドケムの難しさであり楽しさですよね。

興奮してきたな。

lncRNAを狙う低分子創薬

lncRNAを狙う低分子創薬

 

 DNAから転写されるRNAには、タンパク質をコードするmRNAとコードしないncRNAがある。ncRNAには、rRNAやtRNA、miRNAなど様々な機能を持ったRNAがあり、200ヌクレオチド(nt)以上の長さを持つ長鎖ncRNAはlong non-coding RNA (lncRNA)と呼ばれ、他のRNAやタンパク質との相互作用を介して遺伝子の転写や翻訳、エピゲノムの調節等を行うことで細胞の分化や癌化などへの関与が示唆されている。

 Hox transcript antisense intergenic RNA (HOTAIR)は、約2.2 kbのlncRNAである。

HOTAIRは、5’-ドメインがポリコーム複合体 (PRC2)のサブユニットEZH2と結合してヒストンH3の第27番目のリジン残基 (H3K27)をメチル化して遺伝子転写を抑制したり、3’ドメインがヒストン脱メチル化酵素 (LSD1)と結合してH3K4を脱メチル化して遺伝子転写を抑制したり、複数の機能を持つ。HOTAIRとEZH2の結合は、ネモ様キナーゼ (NLK)の発現を抑制して神経膠芽腫および乳癌の腫瘍形成および転移を促進する。

 今回紹介するのは、天津医科大学総合病院の康春生(Chun-sheng Kang)教授によるHOTAIRとEZH2のRNA-タンパク質間相互作用を阻害する低分子化合物ADQを見出した経緯である。

 

大きな標的であってもピンポイントに要所を抑えれば低分子で狙える!

 

Targeted design and identification of AC1NOD4Q to block activity of HOTAIR by abrogating the scaffold interaction with EZH2

https://doi.org/10.1186/s13148-019-0624-2

 

【ハイライト】

1)lncRNAの部分配列に絞って立体構造を予測してバーチャルスクリーニング

2)ADQはRNA-タンパク質間相互作用阻害によって腫瘍の増殖と転移を阻害

3)ADQ(ニトロベンゼン)とHOTAIR(G36)のπ-πスタッキングが相互作用の肝

 

【その1:lncRNAの部分配列に絞って立体構造を予測してバーチャルスクリーニング】

  • 彼らは以前の研究で、HOTAIRの212~300 ntがEZH2結合部位の最小単位として同定している
  • 部分配列(212-300 nt)に絞ってMC-Fold/MC-Symを用いて三次元モデルを構築
    • 予測されたHOTAIR(212-300 nt)の三次元構造は複数のヘアピンループ構造あり
  • AutoDockを用いてPubChemライブラリー2,000化合物のバーチャルスクリーニング
    • 結合自由エネルギー⊿GをAutoDockで計算してTINKERで最適化
    • 高い結合自由エネルギー(⊿G ≦ −8)の7化合物を同定
    • 2化合物(NSC-371876/371878)はDMSOや水に溶解しなかったので排除

  • 5化合物に対して、4種の癌細胞(LN-229, U87-MG, MDA-MB-231, U87-MG/EGFRⅧ)におけるNLK(HOTAIRの転写標的)のルシフェラーゼレポーターアッセイを実施
    • 4種すべての癌細胞で有意にレポーター活性を示したNSC-372295 (ADQ)を取得
      • 次点でNSC-36806がU87-MG/EGFRⅧを除く3つの癌細胞で有意にレポーター活性あり。他の3化合物は活性なしor弱い活性だった
    • ADQは4種すべての癌細胞でNLKのmRNA発現を有意に増加(1.5~2倍)
      • 一方でHOTAIRの発現量は変化しない(影響を与えない)ことを確認
      • ADQをリード化合物として評価を進める

 

【その2:ADQはRNA-タンパク質間相互作用阻害によって腫瘍の増殖と転移を阻害】

  • 2種の癌細胞(U87, MDA-MB-231)においてEZH2抗体を用いたRNA免疫沈降(RNA immunoprecipitation; RIP)を実施
    • ADQ処理によってHOTAIR結合性EZH2シグナルが有意に減少
      • 一方でPRC2と結合する他の5つのlncRNA(MALAT1, HOTAIRM1, KCNQ1OT1, HOXA11, and XIST fragment)との結合性EZH2シグナルは、ADQ処理による有意な減少が観測されず
      • ADQはHOTAIR/EZH2の複合体形成を選択的に阻害する
    • MDA-MB-231細胞においてmRNAマイクロアレイで発現変動遺伝子(DEGs)を解析
      • ADQ処理によって90遺伝子が発現増加、64遺伝子が発現低下(fold change ≥ 0, P < 0.05)
      • 発現低下したmRNAのKEGGパスウェイ解析
        • ADQはWntシグナル経路を負に制御し、細胞接着分子を不活性化し、上皮間葉転換(epithelial-to-mesenchymal transition; EMT)を阻害する
      • HOTAIRをノックダウンするとβ-カテニンシグナル経路が抑制された
        • ADQ処理によって全細胞溶解液および核抽出物におけるβ-カテニン発現が顕著に減少した
      • in vivo試験:MDA-MB-231を移植したゼノグラフトモデルマウスに対して、ADQ(15 mg/kg)を一日おき腹腔内投与で42日間観察
        • 腫瘍面積の減少し、肺転移結節の形成が抑制された
        • 腫瘍切片の組織染色によりNLK陽性細胞の増加を確認
      • ADQはRNA-タンパク質間相互作用阻害によってWnt/β-カテニン経路を負に抑制して腫瘍の増殖と転移を阻害する

 

【その3:ADQ(ニトロベンゼン)とHOTAIR(G36)のπ-πスタッキングが相互作用の肝】

  • AutoDockを用いてADQとHOTAIR部分配列(212-300 nt)の相互作用を解析
    • ニトロベンゼン環が36位のグアニン塩基(G36)とπ-πスタッキングを形成
    • もう一方のニトロベンゼン環は46位のアデニン塩基(A46)周辺のポケットに挿入
    • G36とA46を他の塩基に置き換えた配列でin silico解析すると結合親和性が低下
      • ADQとHOTAIRの相互作用(阻害活性)にはG36とA46が重要
    • ADQの構造活性相関を探索
      • 4種すべての癌細胞のルシフェラーゼアッセイでレポーター活性を示し、NLK mRNA発現増加&HOTAIR発現変化無しはADQ/NSC-372315(ニトロ基)のみ
        • NSC-372315(無置換)は3種の癌細胞でレポーター活性を示したがNLK mRNA発現変化無し
        • NSC-372303(クロロ基)は2種の癌細胞でレポーター活性を示したがNLK mRNA発現変化無し
        • NSC-372303(ジメチル基)は3種の癌細胞でレポーター活性を示したがNLK mRNA発現変化無し、何故かHOTAIR発現増加
      • ニトロ基はADQとHOTAIRの相互作用(阻害活性)に重要
        • 芳香環の共役効果によりπ-πスタッキング相互作用を強化していると考察

 

 今回注目したい点は2つある。

 1つ目は、部分配列に絞って構造予測した点である。標的RNAのHOTAIRは約2.2 kbのlncRNAだが、阻害したいRNA-タンパク質間相互作用の作用部位(HOTAIRがEZH2に結合する最小部分配列, 212-300 nt の89塩基配列)に絞って高次構造を予測した。

 2つ目は、ADQがPRC2複合体と結合する他の5つのlncRNA(MALAT1, HOTAIRM1, KCNQ1OT1, HOXA11, and XIST fragment)との結合は阻害しなかった点である。固定された2つのニトロベンゼン環同士の距離と向きが良かったのかな?一方で周辺展開におけるニトロ基以外(無置換、クロロ基、ジメチル基)でNLK mRNA発現が変化しなかった点も気になる。そんなセンシティブなSARなのか。以前に紹介した『核酸医薬の低分子化』でも、SARが掴みづらかった印象がある。

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/02/23/135326

 

 ところで、lncRNAを標的とした場合、様々なタンパク質やRNAとの相互作用を介して多様な機能を持っているため、例えば核酸医薬(標的鎖切断誘導型アンチセンスやsiRNA)等で分解してしまうと、生体に重要な機能まで失われて副作用の懸念があるかもしれない(?)から、今回のように抑えたい相互作用だけ阻害するようなアプローチが良いのではないか。そうすると、核酸医薬以外のモダリティ(低分子やペプチド、抗体)でも狙えるんじゃないかな。もちろん核酸医薬(Steric-block型アンチセンス核酸)でも良い。抑えたい相互作用を押さえないといけないけど。

阻害剤を分解剤に変える

阻害剤を分解剤に変える

#souyakuAC2023

 Novartis社とカリフォルニア大学バークレー校(UCB)のダニエル K. ノムラ教授の共同研究。標的タンパクリガンド(ここでは主に阻害剤)の溶媒露出部位にフマル酸誘導体(3-ベンゾイルアクリルアミド)を付けると標的タンパク分解誘導剤になる。

 ノムラ教授はPROTACやMolecular Glueの研究だけでなく、逆に脱ユビキチン化によってタンパクを安定化させるDUBTAC技術も開発してVicinitas社を立ち上げている。

 

まずはこのうっとうしい右腕を破壊させてもらう

 

Rational Chemical Design of Molecular Glue Degraders

https://doi.org/10.1021/acscentsci.2c01317

 

ハイライト

1)僅かな構造変化で阻害剤は分解誘導剤に変わる

2)3-ベンゾイルアクリルアミドを付与して阻害から分解誘導に変える

3)3-ベンゾイルアクリルアミドはRNF126を介して標的タンパクを分解する

4)他の阻害剤の溶媒露出部位に導入

 

【その1:僅かな構造変化で阻害剤は分解誘導剤に変わる】

  • 標的タンパク分解 (TPD: Targeted Protein Degradation)は、通常の低分子創薬で狙うのが難しいアンドラッガブルな疾患関連タンパクを破壊する強力なアプローチである。
  • TPDの主要なアプローチは、PROTACsとMolecular Glueである。
    • PROTACsは標的タンパクとE3リガーゼそれぞれのリガンドをリンカーで繋ぐ合理的デザインが可能だがMolecular Glueを狙って取得は難しい。
      • 細胞系フェノタイプスクリーニングで幸運にも手にするとか・・・。
    • 近年、僅かな構造変化で標的タンパクリガンドがMolecular Glueに変換された研究が報告されている。
      • 標的タンパクリガンド(ここでは主に阻害剤)に何かパーツを付与することによってMolecular Glueに変換できないか検証した。

Nature, 2020, 585, 293–297. https://doi.org/10.1038/s41586-020-2374-x

Nature, 2020, 588, 164–168. https://doi.org/10.1038/s41586-020-2925-1

 

【その2:3-ベンゾイルアクリルアミドを付与して阻害から分解誘導に変える】

  • CDK4/6阻害剤Ribociclibを用いて、標的タンパクのリガンドを標的タンパク分解誘導Molecular Glueに変換するパーツを探索した。
  • RibociclibとCDK4が複合体を形成する際の溶媒露出部位に該当するピペラジンに対して、様々なカルボン酸と縮合させた化合物を合成した。
    • 各化合物 (3 μM)を子宮頸癌C33A細胞で24時間処理したところ、p-トリフルオロメチル桂皮酸と縮合したEST1027は50%を越えるCDK4の減少を示した。
      • EST1027はCDK6の減少は示さなかった。
    • 位置異性体のEST1051やEST1054、二重結合を還元したEST1036はCDK4の減少を示さなかった。
      • EST1027とEST1051、EST1054は同程度の細胞毒性あり。
      • CDK4分解誘導は、細胞毒性とは異なる作用機序かつ共有結合性の特異的反応と考えられる。
    • プロテアソーム阻害剤で処理するとCDK4分解が抑制された。
    • 本反応はプロテアソーム阻害剤を加えると抑制されたため、ユビキチン・プロテアソーム系を介していると考えられる。
    • Tandem Mass Tagging (TMT)ベースのプロテオーム解析を実施した。
    • 5,000以上のタンパクの中でCDK4を含む100くらいのタンパクが大きく減少(そこそこの選択性)

 

  • Ribociclibと似た化学構造のCDK4/6阻害剤Palbociclibにシンナムアミドを適用 (EST1090)したところ、CDK4は分解されなかった。
    • Ribociclibを用いて再びパーツ探索した。
  • 3-ベンゾイルアクリル酸と縮合したEST1060は用量依存的にCDK4を分解した。
    • シンナムアミドEST1027と同様にCDK6は分解しなかった
    • Palbociclibに適用したEST1089も同様にCDK4を分解した。

 

【その3:3-ベンゾイルアクリルアミドはRNF126を介して標的タンパクを分解する】

  • EST1027およびEST1060の共有結合部位(α,β-不飽和カルボニルのオレフィン部位)がCDK4分解に必要であることから、E3リガーゼとの共有結合を介した作用機序と推定して、標的探索を行った。
  • EST1027に対して、isotopically labeled desthiobiotin azide (isoDTB)タグベースのActivity-Based Protein Profiling (ABPP)による標的探索を行った。
    • 定量された3,772個のプローブ修飾システインのうち、control/EST1027 ratio > 2 ( p-value < 0.05)の49個の標的が同定された。
  • RINGファミリー E3ユビキチンリガーゼRNF126を推定標的として同定した。
    • RNF126の亜鉛配位Cys32と共有結合を形成している。
      • Cys13, Cys16, Cys29が残っているためRNF126の機能は維持している。
    • ゲルベースABPPにより、EST1027およびEST1060、EST1089 (Palbociclib誘導体)がRNF126に濃度依存的に結合することを確認した。
      • EST1090 (Palbociclib誘導体)はCDK4への結合が確認されず。
    • RNF126をノックダウンするとEST1027のCDK4分解は抑制された。
    • EST1027はRNF126も有意に減少させた。
      • CDK4-EST1027-RNF126は三者複合体を形成してユビキチン・プロテアソーム系で分解が誘導されていることが示唆された。
    • 残り48個はユビキチン・プロテアソーム系と関連が無いタンパクだったのでこれ以上の追跡はしなかった。
  • RNF126に結合するEST1060の最小部分構造の探索を行った。
    • ピペラジンJP-2-196はEST1060と同等の強さのRNF126への結合を確認した。
    • JP-2-196のアルキン修飾体を用いたゲルベースABPP (control/EST1027 ratio > 2, p-value < 0.01)により、RNF126の加えてRNF40, MID2, RNF219, RNF14, LRSAM1の5つのE3リガーゼへの結合も確認された。
    • NMR解析により、JP-2-196がRNF126と相互作用を形成することでRNF126タンパクのフォールディングや安定性、機能を損なわないことが推察された。

 

【その4:他の阻害剤の溶媒露出部位に導入】

  • 3-ベンゾイルアクリルピペラジンJP-2-196をCDK4阻害剤以外の標的タンパクリガンドに適用した。
  1. 溶媒露出部位にピペラジンまたはモルホリン構造を含む化合物への適用

  1. 溶媒露出部位にピペラジン構造を含まない阻害剤への適用
    • BRD2/3/4阻害剤のJQ1から誘導したLP-2-197はBRD4のみ分解誘導を示した。
      • CDK4/6阻害剤Ribociclibから誘導したEST1027やEST1060がCDK4のみ分解誘導したケースと似ている。
      • ピペラジンをエチレンジアミンに変換したJP-2-219や、trans-1,4-不飽和ジケトンをcis体に変換したFB-84-GG64もBRD4分解誘導を示した。(ただしJP-2-197より分解能は低い。)
    • Pan-HDAC阻害剤Vorinostatに適用したところ、HDAC1と3は分解誘導したが、HDAC2と6は分解誘導しなかった。

  1. 薬剤耐性変異タンパクに対する分解誘導の適用
    • アンドロゲン受容体ARの変異体AR-V7を狙った。
      • AR-V7は、アンドロゲンや多くのAR標的薬が作用するリガンド結合ドメインが欠損した変異体であり、アンドラッガブルターゲットと考えられる。
      • AR-V7のDNA結合ドメインに結合するリガンドとして知られているVPC-14228に適用したところ、野生型ARと変異型AR-V7それぞれを分解誘導した。

 著者らも述べているように、まだ有効性や選択性、安全性や基質適用範囲など、最適化には更なる検討が必要ではあるが、合理的かつ容易に標的タンパクリガンドをMolecular Glueに変換できるアプローチとして興味深い。

 また、EST1027のプロファイリング時に、5,000以上のタンパクの中でCDK4を含む100くらいのタンパクが大きく減少して『そこそこの選択性』と述べており、素人的には100個も減少して大丈夫?って思うが、核酸医薬において、標的遺伝子のノックダウンだけでなく他にも多くの遺伝子が増減するが、AMEDの『核酸医薬品のオフターゲット効果のリスク評価に資するヒト遺伝子機能の抽出と分類に関する調査(発現抑制による機能低下がリスクとなりうるヒト遺伝子を抽出・分類するための最初の試みとして、生命維持に重要な機能を有する遺伝子及び疾患との関与が大きいと考えられる遺伝子約 1,700 個をまず選定し、ヒトとマウスの病態情報を整理したもの)』を参照しながら安全性を確認する的な話を聞いた気がするので、タンパク分解誘導も色々分解しちゃうけど疾患やマージン等を含めて安全性を確認していくのかな。知らんけど。

https://www.amed.go.jp/program/list/17/01/yakuzai_kakusaniyakuhin.html

 

とは言え、自分が扱っている化合物に試してみたいよね。(試してみたかった)

唆るぜ、これは・・・!

 

 

 

 

 

マジックメチルを狙って入れる_その2

マジックメチルを狙って入れる_その2

#souyakuAC2023

 今回のメチル基導入は、活性向上に寄与していないので正確には「マジックメチル」ではないが・・・。魔法のように目的物を単一で取得している観点ではマジックメチルのようだと言いたい。活性や他のプロファイルを維持しつつ反応を制御する絶妙なメチル基である。

 

神業・・・いや・・・魔技としかいいようがない。

 

【1報目:塩野義製薬の事例】

〇次世代HIV-1 インテグラーゼ阻害剤ドルテグラビルの創薬研究

https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/22/4/22_19/_pdf/-char/ja

〇Carbamoyl Pyridone HIV-1 Integrase Inhibitors 3. A Diastereomeric Approach to Chiral Nonracemic Tricyclic Ring Systems and the Discovery of Dolutegravir (S/GSK1349572) and (S/GSK1265744)

https://doi.org/10.1021/jm400645w

〇Practical and Scalable Synthetic Method for Preparation of Dolutegravir Sodium: Improvement of a Synthetic Route for Large-Scale Synthesis

https://doi.org/10.1021/acs.oprd.8b00409

 

 ドルテグラビルは、塩野義製薬がGlaxoSmithKline (GSK)と共同研究で創製したHIV-1 インテグラーゼ阻害剤である。GSK社、米Pfizer社、塩野義製薬の3社による合弁会社ViiV社に導出しており、その売上は、Tivcay (ドルテグラビル単剤:14億ポンド=2,500億円), Triumeq (ドルテグラビル併用剤:18億ポンド=3,300億円), Juluca (ドルテグラビル併用剤:6億ポンド=1,200億円), Dovato (ドルテグラビル併用剤:14億ポンド=2,500億円)で、すべて合計するとおよそ1兆円弱の売上を稼いでいる。※1ポンド=182円で計算。

https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/investors/ir-library/presentation-materials/fy2022/20230330.pdf (20ページ目)

 塩野義製薬とGSKは2002年に共同研究を開始し、過去に報告例のあるキレート型阻害剤の重ね合わせモデルから新規ケミカルクラスをデザインして合成展開を行い、ドルテグラビルを創出した。

  • 既存のメタルキレート型阻害剤の構造を参考にCpd 1をデザインした。
    • 野生株(WT)に対しては高活性だったが、変異株Q148K, N155H)に対しては活性が大きく減弱した。
    • 4-ピリドン構造を三環系ヘミアミナールエーテル構造に変換したCpd 5は変異株に対して活性を維持した。☚重要なブレークスルー

  • セミ体Cpd 5を光学分割するとそれぞれプロファイルが異なったため、キラル合成する必要があった。
    • 環構築反応において、原料アミノアルコールに不斉メチル基を導入することで反応を立体的に制御した。
    • 不斉メチル基の位置を変えるなど誘導体展開を実施し、ドルテグラビルを見出した。

 ちなみに、ドルテグラビルは耐性株に有効なだけでなく耐性出現リスクが小さいことも注目点であるが、それは以前に“2匹目のドジョウを狙えるpart2(耐性株に効かす)”という記事で紹介したことある。『変異しない部位のみ』と『小さく強く相互作用』することが重要と考えられる。

〇2匹目のドジョウを狙えるpart2(耐性株に効かす)

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/12/19/062129

 また、ヘミアミナールエーテル構造は一見すると酸性条件に不安定なんじゃないかと気になる方もいるかもしれないが、窒素原子がアミド結合を形成しているため安定である。似た部分構造(ヘミアミナールエーテル+アミド)を持った例として、大正製薬不眠症治療薬として開発中かもしれないオレキシン1/2受容体デュアル拮抗薬TS-142がある。

https://doi.org/10.1016/j.bmc.2020.115489

 

 

【2報目:小野薬品の事例】

〇カテプシンK阻害剤 ONO- 5334の創製~代謝物から新たな阻害剤の発見と展開~

https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/23/3/23_19/_pdf/-char/ja

 

 カテプシンK は破骨細胞に発現しているシステインプロテアーゼであり、骨基質の主要成分のⅠ型コラーゲンを分解することにより骨吸収(骨の分解)を担っている。多くの既存薬は、骨吸収を抑制すると骨形成も抑制されたり、骨形成を促進すると骨吸収も促進されたり、所謂カップリング作用を示すが、カテプシンK阻害剤は、骨吸収を抑制しつつ骨形成には影響を及ぼさないアンカップリング作用が期待されている。

小野薬品は、基質アナログから新規ケミカルクラスをデザインして合成展開を行い、ONO- 5334を創出した。

  • 基質アナログ(Cbz-Leu-Leu-CHO)から、新規ケミカルクラスCpd 3を見出した。
    • 誘導体展開において化合物のin vitroとin vivoが相関しないことが多かった。
    • Cpd 11の不純物解析から活性本体はCpd 12であることを見出した。☚重要なブレークスルー

  • Cpd 12から誘導体展開してCpd 21を見出した。
    • セミ体Cpd 21を光学分割するとそれぞれ活性が異なったためキラル精製する必要があった。
    • チアゾリジン環の4位に不斉メチル基を導入した。
    • 塩基(トリエチルアミン)共存下で晶析を実施すると、異性化しながらS体を単一で取得できた。(エチル基だと結晶化は上手くいかなかったと言っていた気がする、うろ覚えだけど多分。)

 

 置換基を導入することで、①塩基性を制御して動態プロファイルや安全性を改善したり、②安定配座を制御して活性配座に近づけたり、③反応を制御して光学異性体を選択的に取得したり、色々なことができる。化合物を平面ではなく立体的にデザインを考えるのが重要である。そして、これら成功の裏に、何十倍も失敗した取り組み・アイディアがあったかもしれないけど、それらを必死で考えて諦めずにチャレンジし続けるのがメドケムの醍醐味であり、そのために日々勉強してネタ(引き出し)をたくさん作っていくのが大事よね。

 メドケムの道は一日にしてならずぢゃ。

 

マジックメチルを狙って入れる_その1

マジックメチルを狙って入れる_その1

 

#souyakuAC2023

 

 以前に塩基性を立体的に制御する記事を書いたが、

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/03/03/064117

もちろん活性においても同様である。今回、置換基を導入することで立体配座を制御して安定配座を活性配座に近づけて活性向上を達成した事例を2つ紹介する。

 

「立体」だ!!

「立体」でやれ!

 

1報目:メルク社の事例

Discovery and Optimization of Potent, Selective, and Brain-Penetrant 1-Heteroaryl-1H-Indazole LRRK2 Kinase Inhibitors for the Treatment of Parkinson’s Disease

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c01605

 

 LRRK2 (Leucine rich repeat kinase 2)阻害薬は、神経変性疾患パーキンソン病の疾患修飾薬として期待されている。メルク社は以前にLRRK2阻害剤MLi-2を報告したが、MLi-2は種間でPKのバラつきが大きくヒト予測投与量が高用量となり、かつ薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)と遺伝毒性リスクがあり、周辺展開では改善できなかった。そこで、上記リスクを改善した新規LRRK2阻害剤の創製を目指した。

 

【MLi-2から骨格変換してCpd 20を創出】

  • インダゾールを逆向きに変換して水素結合ドナー(HBD)の数を減らした。
    • HBD数が多いとPgp基質認識性が上がり(脳内移行性が下がり)中枢薬に不向きとなる。
    • MLi-2のインダゾールの1位NHやCpd 20の3位水素原子はHBDとしてHinge領域と相互作用している。
    • 静電ポテンシャル(Va(r): electrostatic potential descriptor values)の計算値から、HBDの塩基性すなわち相互作用の強さ(活性への影響)を推察した。骨格変換で活性が下がった分は他の相互作用でサポートした。
  • 溶媒露出部位のジメチルモルホリンからヒドロキシ基を含むピロリジンに変換して溶解度向上を狙った。結果として効果は無かったが。
    • ヒドロキシ基はHBDなのでPgp基質認識性が上がりそうだがジメチルでマスクして逃れるデザイン。
  • ピロリジンを架橋してFsp3を上げて(平面性を下げて)溶解度向上を狙った。
    • 溶解度に劇的に効果あり。

 

【安定配座と活性配座が一致すると活性向上】

  • Cpd 20のシクロプロピル基に置換基(メチル、ジメチル、シクロプロピル)を導入したCpd21,22, 24を合成した。
    • ジメチルのCpd22のみ活性が低下した。
    • 結合様式を解析すると、シアノ基の水を介した水素結合とシクロプロピル基の疎水性相互作用がハマるのは、シアノ基とインダゾール縮環が同一平面状、つまり活性配座は角度0°が良い。
    • QM計算すると、Cpd 22の最安定配座は角度110°で、0°を取るには8 kcal/mol程度の大きなペナルティを要する。
    • 一方でCpd 24の最安定配座は角度0°で活性配座と一致して高活性を示した。

 

  • 最終的には、Cpd 24はin vitro小核陽性で先には進めず。ピロリジンの架橋を解いたCpd 25がin vitro小核陰性・Ames陰性で有望化合物として選抜された。
    • 僅かな違いで毒性回避できることもあるので最適化は細かく合成すべし。

 

2報目:大正製薬の事例

Lead generation from N-[benzyl(4-phenylbutyl)carbamoyl]amino acid as a novel LPA1 antagonist for the treatment of systemic sclerosis

https://doi.org/10.1016/j.ejmech.2023.115749

 

 LPA1 (Lysophosphatidic acid receptor 1)は組織線維化と関連が示唆されていることから、その拮抗薬は全身性強皮症の治療薬として期待されている。大正製薬は、自社ライブラリーのHTSから見出したヒット化合物を元に既知のX線結晶構造解析の情報(4Z34)を利用したStructure-Based Drug Discoveryを行い、Cpd 17 (IC50 = 110 nM)を見出した。更なる活性向上を目指して、MD計算から置換基導入による安定配座の制御を計画した。

 

【メチル基導入で安定配座を活性配座に寄せて活性向上】

  • MD計算でCpd 17とLPA1の複合体解析を実施したところ、N-ベンジル部位は127°の状態が活性配座であった。
    • 一方でCpd 17の安定配座は±120°周辺で逆向きも取り得る。
  • ベンジル位にメチル基を導入した化合物の安定配座を計算すると、(R)-体Cpd 18は120°周辺に傾き、(S)-体Cpd 19は-120°周辺に傾いた。
    • 実際にCpd 18 (IC50 = 1.60 nM)で活性が69倍向上、Cpd 19 (IC50 = 470 nM)は活性が4倍低減した。

 

 化合物の活性向上を目指す際に、①新たな相互作用を獲得したり、②すでにある相互作用を強化したり、がアプローチとして考えられますが、安定配座と活性配座を一致させることも有用なアプローチの一つです。今回は置換基を導入することでそれを達成した事例を紹介しましたが、他にも構造を固定化(Rigid)にするのもありです。ただ、一般的に固定化すると平面性が上がる傾向がある気がする(スピロ構造みたいに立体的に固定化することもあるけど)ので、溶解度とかも考慮すると、置換基導入で安定配座を制御しつつ3次元性も上げるアプローチは面白いなって思いました。合成難易度も上がるかもだけど。大正さんはエルマンイミンを用いて上手く合成していると思う。

 マジックメチルを狙って入れる。ハッキシ言って、おもしろカッコいいぜ!