星を継ぐもの
中外さんの環状ペプチドAUBE00創製の報告。KRAS・NRAS・HRASのたった1残基の違いを立体固定化で認識させ、大きな構造変換を伴わずにアミノ酸側鎖の最適化だけでKRAS選択性と経口BA改善を達成。オレフィンを含むのはRCMで合成した中間体をついでに評価したら当たりだったかも? 同様の事例でエーザイさんのアリセプトがある。
中外さんはアミノ酸1つだけでやるのか

【イントロ: 中外製薬の中分子戦略とLUNA18】
1) 中分子創薬として環状ペプチドを選択
2) アミノ酸数 = 11個, CLogP ≧ 12.9, N-アルキル化 ≧ 6個が膜透過しやすい
3) mRNAディスプレイ法とNCLで硫黄フリーの環状ペプチドを合成
紹介記事: https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/11/30/055443
4) ヒットペプチドAP8784はKRAS表面でInduced-fitを含む疎水性相互作用
5) AP8784から大きな構造変化や極性アミノ酸導入は伴わずにLUNA18を取得
紹介記事: https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2023/12/03/072840
しかし、2025年12月期 第2四半期決算説明会において、「LUNA18において、経口吸収性及び臨床でのRASシグナル経路の阻害活性を確認。一方、RAS阻害薬における競争優位性の観点からAUBE00への開発注力を決定。」
https://www.chugai-pharm.co.jp/cont_file_dl.php?f=FILE_5_77.pdf&src=[%0],[%1]&rep=119,77
競争優位性の観点とは、「LUNA18が、RAS (KRAS, NRAS, HRAS)の全てを阻害するpan-RAS阻害剤であったことにより治療安全域が狭かったため」と考えられる。そこで、中外製薬は、LUNA18の後継品としてKRAS選択的な阻害剤を目指し、AUBE00を創製した。
Exploiting Bridged Conformations for Precise Molecular Recognition in the Design of KRAS-Selective, Orally Available Macrocyclic Peptides
Journal American Chemical Society, 2026, XX, XXXX-XXXX.
https://doi.org/10.1021/jacs.6c14212.
【その1: たった1つのアミノ酸残基の違いを狙うメドケム戦略】
● KRAS, NRAS, HRASは構造がほぼ同一で、KRAS選択性の獲得は極めて困難
・ LUNA18の結合部位においては、アミノ酸95位のみ
✓ KRAS=His95, NRAS=Leu95, HRAS=Gln95
✓ とは言え、残基は違うし、構造解析を見ると少し距離に差があるかも??

・ 狙いは2点、① Leu95/Gln95との相互作用を阻害する、② His95との相互作用を強化する
・ LUNA18誘導体1において、AA95近傍のアミノ酸4, 5, 6位のアルキル側鎖を伸ばしてみる
✓ 4, 6位は、アルキル鎖を長くするとKRAS阻害活性が減弱する上、NRAS, HRAS選択性は改善せず
✓ 5位は、Me, Et, nPrの順に選択性が改善 (nBuはKRAS活性減弱/選択性は大差なし)

・ 化合物S7は活性維持・選択性改善したが、まだまだ不十分
・ 構造解析を見ると5位N-nPr基がL95(NRAS)/N95(HRAS)を避けるように折れ曲がって配置
✓ nPrの自由度の高さが原因と考えられるため、固定化/固定化してみる

・ 8員環にすると選択性が大きく改善した
✓ 飽和ラクタム15はKRAS活性も激減してしまったが、不飽和ラクタム17が多少持ちこたえた
✓ 構造解析により、オレフィンのCHとHis95のCH-π相互作用が示唆された

【その2: アミノ酸最適化によりPK改善してABE00取得】
・ 選択性は改善したが、Pgp基質化により経口吸収性に課題あり、PK最適化が必要
✓ Caco-2 PappはLUNA18と同等だったが、実際の経口BAは5-11%程度で、LUNA18 (22%)の半分以下であり、Pgpの影響と推察
✓ Pgp影響を評価するため、2つの改良Caco-2系を構築
1) Pgp阻害剤zosuquidarを添加するCaco-2 Papp-sp
2) 化合物の濃度を通常の10 μMから3 μMに下げて評価するCaco-2 Papp-se
→ 通常の10 μMは高濃度で飽和していた可能性があり
→ 低い経口BAの化合物はCaco-2 Papp-seでLUNA18より低い値だった(こっちを採用)
・ 3位や9位のアミノ酸残基の微調整で吸収性・活性・選択性を最適化
・ 化合物30 (ABE00/AP7400)は、Caco-2 Papp-seがLUNA18と同等の値で、実際にラットF=41%, イヌF=65%の高い経口BAを達成
・ NCI-H441ゼノグラフトモデルマウスに対して、2, 4, 10 mg/kgを1日1回の経口投与で用量依存的な腫瘍体積の抑制 (抗腫瘍活性)を示した
✓ LUNA18の後継として、臨床開発中 (Phase1)

今回注目したいのは、3点です
1つ目は、AUBE00の選択性を改善したラクタム部分にオレフィンが含まれている点です。
狙ってデザインしたのでしょうか? 個人的には酸化的代謝が懸念されるので合成しようと思わないです。おそらくオレフィンメタセシス反応 (RCM)で合成して、その中間体をついでに評価したら目的物よりも高活性だったから評価を進めたのかなって想像します。 ついでに合成した化合物の方が良かった事例としては、エーザイさんのアリセプト (ドネペジル)が有名と思います。 こういう心掛け・習慣は大事だなと思いました (あくまで推察ですが)。

もしくは、分子サイズが大きいので、代謝されやすい部位があっても代謝酵素に認識されづらくて大丈夫とかあるのでしょうか? 脂溶性が高いにも関わらず分布容積Vdも高くないので、低分子とは違う傾向・常識があるかもしれません。
2つ目は、LUNA18からAUBE00までの誘導化において、大きな構造変換を行っていない点です。
これは、当初の中外さんのヒット取得のコンセプトが活かされています (以下、以前の記事の抜粋)。
● 環状で固定された母核を持ったヒット化合物が、すでにドラッグライク(ここでは良好な細胞膜透過性と代謝安定性と定義)であることは非常に重要である。
✓ 臨床候補化合物の取得を目指した最適化合成のステージにおいて、大きな構造変化を伴わずにアミノ酸の側鎖の検討で活性やドラッグライクの改善に専念できる。
✓ 母核がダメだと構造変換など広く探索して各プロファイルの両立が難しい。(低分子と一緒)
アミノ酸の側鎖の検討だけで最適化できたことで、すぐにバックアップ化合物を創製することができたのでしょう。
3つ目は、改善Caco-2です。
実際にはPgp阻害剤を添加する評価系、低濃度で実施する評価系というシンプルな改善と思いますが、in vitroに落とし込むのは大事です。そして、以前にNurix社のProtein degrader NX-5948がMDCK-MDR1評価においては低い膜透過性と高いEfflux ratioであったにもかかわらず、謎の中枢移行性を示すという記事を紹介しましたが、高分子量の化合物のPKは、低分子と同じやり方では通用しない可能性があり、それぞれ工夫が必要なのでしょう。
記事: https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2025/06/08/161527
いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。




































































