本命は2つ目
Boehringer Ingelheim (BI)とVanderbilt大学 (VU)は、Switch I/IIポケットを1stスクリーニングのフラグメントで一旦占有した後、2ndスクリーニングで本命のSwitch IIポケットにハマる非共有結合型の化合物を取得し、pan-KRAS阻害剤に誘導した。
Amgenは、KRAS G12C阻害剤のワーヘッドを外して結合様式を調整し、pan-KRAS阻害剤に誘導した。
どちらもマジックメチルが活性に効いており、ポケットを埋めるだけでなく、活性配座で固定する2つ目の役割が重要と考えられる。

【①イントロ:KRAS 変異の背景と課題】
RAS遺伝子の変異はヒト腫瘍の約20%で発生し、そのうち約85%はKRAS変異を有しており、特に G12D (29%), G12V (23%), G12C (15%)が主要変異である。
KRASは、2つの理由で低分子創薬が難しかった。
①GTP/GDPのKRASへの結合親和性がピコモーラーと非常に高く、かつ細胞内に豊富に存在するため、オルソステリック部位でそれらと競合で阻害するのが難しい、
②KRASは平坦で浅い溝しか持たず、他に低分子が結合できる深くて疎水性のアロステリック部位がない
しかし、2013年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF)のKevan Shokat教授らよりKRAS G12C変異 GDP結合型のアロステリック部位のCys12と共有結合するアプローチが報告され、研究が活発化した。これは共有結合化合物によるInduced fitで新たな結合ポケットが形成されたことによる。そしてWellspring社 (Shokat教授が共同設立者)より共有結合型KRASG12Cアロステリック阻害剤ARS-1620が報告され、これを基盤として、Amgen社のSotorasibやMirati Therapeutics社 (BMS社が買収)のAdagrasibが創出された。 
一方、G12CはKRAS変異の15%に過ぎず、G12C以外のKRAS 変異を標的とする化合物の開発が強く求められていた。また、固形がんは複数の変異で構成されており、例えばNSCLCはG12Cの割合が多いが、G12VやG12D, その他の変異、さらにはNRAS変異も存在するため、より広範なKRASを阻害できるpan-KRAS阻害剤の創製が必要であった。
以下、Boehringer Ingelheim社/Vanderbilt大学およびAmgen社のpan-KRAS阻害剤の創製について紹介する。
【②Boehringer Ingelheim(BI)とVanderbilt大学(VU)の事例】
Fragment Optimization of Reversible Binding to the Switch II Pocket on KRAS Leads to a Potent, In Vivo Active KRASG12C Inhibitor
J. Med. Chem. 2022, 65, 14614–14629.
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c01120.
Discovery of BI-2493, a Pan-KRAS Inhibitor Showing In Vivo Efficacy
J. Med. Chem. 2025, 68, 15649–15668.
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.5c00576.(7/26ページが消えてる!?)
● メドケム戦略:Fragment-based drug discoveryを実施し、セカンドサイトスクリーニングでフラグメントヒット1を取得
・ 既存のメドケム:G12Cに共有結合するwarhead 付きの弱いbinderから出発
・ BIとVUのメドケム:共有結合を利用せずにSwitch IIポケットに結合するフラグメントから出発
→ これにより、G12C以外の変異にも対応できる
・ 本アプローチの課題:通常のフラグメントスクリーニングでは、Switch I/IIポケットに結合するフラグメントが優先的にヒットする
・ 対策:フラグメントで一旦Switch I/IIポケットを塞いだ後で、Switch IIポケットに結合するフラグメントを探索
→ KRAS G12VのSwitch I/IIポケットにS39C変異を導入し、ベンゾイミダゾメタンチオオール(BIT)を共有結合させてSwitch I/IIポケットを占有し、フラグメントが入れないようにする
→ 13,000化合物のHSQC NMRスクリーニングでSwitch IIポケットに結合するフラグメントヒット1を取得 (セカンドサイトスクリーニング)
→ ヒット1のKRAS G12V,S39C‑BITへのKD値は116 μM

● 構造解析をベースに合成計画
・ 後述のSARの通り、以下3つは高親和性に重要
✓ シクロヘキシル部分が疎水性領域に(Val9, Met72, Phe78, Ile100, Val103)にハマってる
✓ アミノ基がAsp69残基, Glu63主鎖と水素結合
✓ シアノ基がGlu63主鎖と水素結合
・ シクロヘキシル部分からVal12に向かう11 Åの通路あり
→ フラグメントgrowingが可能
● ヒット1から合成展開し、化合物20a取得
・ アミノ基とシアノ基は高親和性に重要 (上記、構造解析の通り)
・ シクロヘキシルは開環やシクロヘプチルに増炭、芳香環が許容されたが、現状がベスト
・ シクロヘキシルにジメチル導入でKD改善(KD < 10 μM)
→ 一つをヘテロ環変えてもKD維持 (KD = 20 μM)
・ アミドやカルボン酸はKD減弱
・ 化合物20a/bはKD < 10 μMの高親和性
✓ Switch I/IIを塞がなくても結合できる強いreversible binderに進化
● 化合物20a/bはpan-KRASや特定のG12変異阻害剤の基本骨格となりうる
・ 構造解析はヒット1と同様の結合部位・結合様式
・ 二環(フェニルオキサジアゾール)はシクロヘキシルとVal12間の通り道を占有している
・ オキサジアゾールはHis95と水素結合を形成
✓ 元々、Glu62がHis95と水素結合していたが、上記によりGlu62は化合物20aのアニリンNHと水を介した水素結合に再配置
・ アニリンとVal12の距離が近く、変換することでpan-KRASや特定のG12変異に対応可能
・ 一例として、アクリルアミド導入でKRASG12C阻害剤BI-0474 (23)を取得
✓ BI-0474は、in vitro KRASG12C阻害活性、in vivo NCI-H353細胞株由来非小細胞肺がん異種移植片モデルマウスに対して、40 mg/kgをIP投与して腫瘍体積抑制効果を示した
● 化合物20aの類縁化合物1からpan-KRAS阻害剤の取得を目指す
・ 化合物1は、KRASのG12VおよびWTに活性あり
✓ G12Vに効けば他の変異にも活性が期待できるので、まずはG12Vをメインで評価する
・ ピペラジン1位NHは、Asp92残基と水を介した水素結合
・ ピペラジン2位周辺は、Asp92とTyr96によるサブポケットがあり
→ メチル基を入れてみる
・ シクロヘキシル部分のメチル基周辺は、Val9を中心とした疎水性ポケットがあり
→ メチル基を増炭してオキサジアゾール環と繋ぐことで、①疎水性ポケットを埋める、②活性配座で固定する、による活性向上を狙う
● マジックメチル導入、スピロ環化を経てBI-2493を取得
・ 化合物1のピペラジン2位にメチル基を導入した化合物5は活性激増
✓ 構造解析より、Asp92とTyr96のサブポケットを占有している
・ ピペラジンを変えた化合物10-13の変遷
① ジアゼパンは活性微増 (Glu62と直接水素結合による)、膜透過性低下と排出率増加 (塩基性増強による)
② メチルジアゼパンは水素結合ドナーをつぶして膜透過性と排出率が改善したが、おそらく脱メチルしやすくなって代謝不安定化
③ メチルピロリジンもメチルジアゼパンと同様
・ スピロ環化したBI-2943は、Val9を中心とした疎水性ポケットを占有して活性激増
✓ 膜透過性と排出率の改善はおそらく脂溶性の増加により、代謝安定化はおそらくオキサジアゾールがスピロのシクロヘキシル部分の嵩高さにより、AUCの激増は、膜透過性/排出率と代謝安定性の改善による、と思われる
・ BI-2493は、in vitro細胞系でKRASのG12C, D, Vを阻害し、in vivoゼノグラフトモデルマウスのKRASのG12C, Vそれぞれに対して39 or 90 mg/kgを1日2回経口投与して腫瘍体積抑制効果を示し、体重減少は示さなかった
✓ BI-2493から更なる最適を経てBI3706674(構造未公開)を取得、臨床開発に進んでいる


【②Amgenのマジックメチル】
Expanding Addressable KRAS Mutations through the Structure- and Property-Based Design of Dual-State (GDP/GTP), Reversible Pan-KRAS Inhibitors
J. Med. Chem. 2026, XXXX, XXX-XXX.
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.6c01325.
● メドケム戦略:KRASG12C阻害剤ソトラシブのアクリルアミドを除去して、KRASG12D阻害剤を得る
・ 結果 → 失敗:G12C阻害活性は消失したが、G12D阻害活性もなかった
・ 原因:ソトラシブはKIが低く、共有結合が無くなると弱いため
・ KRASG12C阻害剤には2つの結合モードがあり、His95-inの方が高い結合親和性を示す
①His95-out:ソトラシブ
②His95-in:ARS 1620, アダグラシブ
→ ソトラシブのピリジンがHis95を押し出していたため、外す
・ ピリジンを除去した化合物1は、KRASG12D阻害活性を示した

● 化合物1から展開して、活性激増した化合物7を取得
・ ピペラジンを架橋:配座固定してイオン結合増強、増炭による疎水性相互作用も期待
・ ピロリジンをバタフライアミン (ピロリジン2つ)に変換:上と同じくイオン結合増強と疎水性相互作用か
✓ 論文には、His95とエッジtoフェイス相互作用、Glu62と塩橋相互作用、とある
・ フェノールをアミノシアノベンゾチオフェンに変換:
→ 化合物7はErasca社のERAS-5024に非常に構造が似ているが・・・ (そもそもシアノアミノチオフェン部分は1つ目のBI/VUと完全に同じ)
・ 課題①:バイオアベイラビリティが低く (F < 1%)、膜透過性も低い (MDCK Papp = 0.06 ×10-6 cm/s) _CD1 mice, 5mpk
・ 課題②:高い組織吸着性(fu = 0.0009)でin vivo薬効示さず
・ 課題③:周辺化合物11 (同じくジアミンあり)のin vivo評価で皮膚壊死や急性炎症が見られた
・ 原因:アミン2つの高い塩基性、ピペラジンとアミノチオフェンの水素結合ドナー×3
・ 対策:アミンを減らす、水素結合ドナーを減らす
● 化合物7から展開して、バイオアベイラビリティを改善した化合物16を取得
・ アミノチオフェンをナフトールに変換して、水素結合ドナーを1つ削減
・ ピペラジンをピペリジンに変換して、アミンを1つ削減
✓ 化合物12はAsp12との塩橋が失われたため、KRASG12Dへの阻害活性が激減
→ Asp12と水素結合形成を狙ってヒドロキシ基を導入した化合物14は活性回復
→ 同位にメチル基を追加した化合物16は活性が激増
・ 化合物16 (AM-2382)は、バイオアベイラビリティF=12%

・ pan-KRAS inhibitor:KRAS WT, G12D, V, C, A, S, G13D, Q61Hに対して、2~10 nMの阻害活性を示した (NanoBRET)
✓ HRAASとNRASへの阻害活性は弱い (His95がないため)
・ Dual inhibitor:不活性型GDP(OFF)だけでなく活性型GTP(ON)も阻害する
・ ゼノグラフトモデルマウス(AsPC-1, Panc04.03, SW620)それぞれ1日1回または2回100 mg/kg経口投与で腫瘍体積の抑制作用を示し、300 mg/kgでも体重減少は見られなかった
・ 本化合物は臨床開発に進んでおらず、別のpan-KRAS阻害剤(AMG410)が進んでいる
● AM 2383の結合様式
・ X線結晶構造解析を実施
✓ ナフトールがAsp69と水素結合を形成
✓ バタフライアミンがGlu62と塩橋を形成
✓ アザキナゾリンの窒素がHis95と水素結合を形成
✓ ピペリジン3位に導入したヒドロキシ基はTyr96と水素結合を形成しつつ、高エネルギー水およびGly10主鎖CO, Thr58残基と水素結合ネットワークを形成
✓ メチル基はSwitch IIポケットの疎水領域に深く入り込む

今回注目したいのは、3点です。
1つ目は、BI/VUが、一旦フラグメントでSwitch I/IIポケットを塞いだ後、セカンドサイトスクリーニングでSwitch IIポケットにハマるヒットフラグメントの取得した点です。
個人的には、セカンドサイトスクリーニングは1つ目のフラグメントを育てるため (マージングするため)に行うと思い込んでいましたが、1つ目のフラグメントは囮で、本命は2つ目という使い方は面白いです。今回に限らず、特定の結合部位 (例えばオルソステリック部位)を埋めて、他の結合部位を探索することができそうです。1つ目のフラグメントが共有結合性というのも重要と思います。
2つ目は、マジックメチルが2重で効いてそうな点です。
BI/VUとAmgen、どちらもメチル基の導入によって活性が激増しています。おそらくポケットを埋める役割と思いますが、加えて配座を制限 (安定配座と活性配座を近づける)して、前者はアミンの向きを調整してAsp92との相互作用を、後者はヒドロキシ基の向きを調整して高エネルギーの水との水素結合を、それぞれサポートしていると考えられ、もしかしたらそっちの方が活性に寄与しているかもしれません。
3つ目は、Amgenの化合物7が高い組織吸着性(fu = 0.0009)でin vivo薬効示さなかった点です。
個人的には、組織吸着性=脂溶性と思い込んでいたので、なぜジアミンで高極性っぽい化合物7が?って思いましたが、ジアミンであるがゆえに細胞膜上の陰イオン性部位と強く相互作用して吸着しやすいんでしょうね。そのまま細胞膜障害性に進むのかも。ところで、活性を追い求めて標的タンパクとの相互作用を増やすために極性基、特にアミノ基を何個も、しかも剥き出しのNHとかを入れて、活性は激増したけど動態や毒性に懸念がでて補正に向かう・・・って、Structure-based drug designでありがちなパターンのように感じました。以前よくあった。これは、最初から物性・安全性を考慮したデザインをした方が良いのか、それとも最初は活性のみ、その後で補正、の方が早く化合物を見出せるのか、どちらがより効率的なんでしょうね?
いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。
















































































