マジックメチルを狙って入れる_その2

マジックメチルを狙って入れる_その2

#souyakuAC2023

 今回のメチル基導入は、活性向上に寄与していないので正確には「マジックメチル」ではないが・・・。魔法のように目的物を単一で取得している観点ではマジックメチルのようだと言いたい。活性や他のプロファイルを維持しつつ反応を制御する絶妙なメチル基である。

 

神業・・・いや・・・魔技としかいいようがない。

 

【1報目:塩野義製薬の事例】

〇次世代HIV-1 インテグラーゼ阻害剤ドルテグラビルの創薬研究

https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/22/4/22_19/_pdf/-char/ja

〇Carbamoyl Pyridone HIV-1 Integrase Inhibitors 3. A Diastereomeric Approach to Chiral Nonracemic Tricyclic Ring Systems and the Discovery of Dolutegravir (S/GSK1349572) and (S/GSK1265744)

https://doi.org/10.1021/jm400645w

〇Practical and Scalable Synthetic Method for Preparation of Dolutegravir Sodium: Improvement of a Synthetic Route for Large-Scale Synthesis

https://doi.org/10.1021/acs.oprd.8b00409

 

 ドルテグラビルは、塩野義製薬がGlaxoSmithKline (GSK)と共同研究で創製したHIV-1 インテグラーゼ阻害剤である。GSK社、米Pfizer社、塩野義製薬の3社による合弁会社ViiV社に導出しており、その売上は、Tivcay (ドルテグラビル単剤:14億ポンド=2,500億円), Triumeq (ドルテグラビル併用剤:18億ポンド=3,300億円), Juluca (ドルテグラビル併用剤:6億ポンド=1,200億円), Dovato (ドルテグラビル併用剤:14億ポンド=2,500億円)で、すべて合計するとおよそ1兆円弱の売上を稼いでいる。※1ポンド=182円で計算。

https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/investors/ir-library/presentation-materials/fy2022/20230330.pdf (20ページ目)

 塩野義製薬とGSKは2002年に共同研究を開始し、過去に報告例のあるキレート型阻害剤の重ね合わせモデルから新規ケミカルクラスをデザインして合成展開を行い、ドルテグラビルを創出した。

  • 既存のメタルキレート型阻害剤の構造を参考にCpd 1をデザインした。
    • 野生株(WT)に対しては高活性だったが、変異株Q148K, N155H)に対しては活性が大きく減弱した。
    • 4-ピリドン構造を三環系ヘミアミナールエーテル構造に変換したCpd 5は変異株に対して活性を維持した。☚重要なブレークスルー

  • セミ体Cpd 5を光学分割するとそれぞれプロファイルが異なったため、キラル合成する必要があった。
    • 環構築反応において、原料アミノアルコールに不斉メチル基を導入することで反応を立体的に制御した。
    • 不斉メチル基の位置を変えるなど誘導体展開を実施し、ドルテグラビルを見出した。

 ちなみに、ドルテグラビルは耐性株に有効なだけでなく耐性出現リスクが小さいことも注目点であるが、それは以前に“2匹目のドジョウを狙えるpart2(耐性株に効かす)”という記事で紹介したことある。『変異しない部位のみ』と『小さく強く相互作用』することが重要と考えられる。

〇2匹目のドジョウを狙えるpart2(耐性株に効かす)

https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2022/12/19/062129

 また、ヘミアミナールエーテル構造は一見すると酸性条件に不安定なんじゃないかと気になる方もいるかもしれないが、窒素原子がアミド結合を形成しているため安定である。似た部分構造(ヘミアミナールエーテル+アミド)を持った例として、大正製薬不眠症治療薬として開発中かもしれないオレキシン1/2受容体デュアル拮抗薬TS-142がある。

https://doi.org/10.1016/j.bmc.2020.115489

 

 

【2報目:小野薬品の事例】

〇カテプシンK阻害剤 ONO- 5334の創製~代謝物から新たな阻害剤の発見と展開~

https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/23/3/23_19/_pdf/-char/ja

 

 カテプシンK は破骨細胞に発現しているシステインプロテアーゼであり、骨基質の主要成分のⅠ型コラーゲンを分解することにより骨吸収(骨の分解)を担っている。多くの既存薬は、骨吸収を抑制すると骨形成も抑制されたり、骨形成を促進すると骨吸収も促進されたり、所謂カップリング作用を示すが、カテプシンK阻害剤は、骨吸収を抑制しつつ骨形成には影響を及ぼさないアンカップリング作用が期待されている。

小野薬品は、基質アナログから新規ケミカルクラスをデザインして合成展開を行い、ONO- 5334を創出した。

  • 基質アナログ(Cbz-Leu-Leu-CHO)から、新規ケミカルクラスCpd 3を見出した。
    • 誘導体展開において化合物のin vitroとin vivoが相関しないことが多かった。
    • Cpd 11の不純物解析から活性本体はCpd 12であることを見出した。☚重要なブレークスルー

  • Cpd 12から誘導体展開してCpd 21を見出した。
    • セミ体Cpd 21を光学分割するとそれぞれ活性が異なったためキラル精製する必要があった。
    • チアゾリジン環の4位に不斉メチル基を導入した。
    • 塩基(トリエチルアミン)共存下で晶析を実施すると、異性化しながらS体を単一で取得できた。(エチル基だと結晶化は上手くいかなかったと言っていた気がする、うろ覚えだけど多分。)

 

 置換基を導入することで、①塩基性を制御して動態プロファイルや安全性を改善したり、②安定配座を制御して活性配座に近づけたり、③反応を制御して光学異性体を選択的に取得したり、色々なことができる。化合物を平面ではなく立体的にデザインを考えるのが重要である。そして、これら成功の裏に、何十倍も失敗した取り組み・アイディアがあったかもしれないけど、それらを必死で考えて諦めずにチャレンジし続けるのがメドケムの醍醐味であり、そのために日々勉強してネタ(引き出し)をたくさん作っていくのが大事よね。

 メドケムの道は一日にしてならずぢゃ。