RNA分解誘導から化学構造を思う

RNA分解誘導から化学構造を思う

#souyakuAC2021

 

 近年、低分子でRNAを標的とした創薬に注目が集まっており、例えば、成熟mRNAを標的としたタンパク質翻訳阻害やpre-mRNAを標的としたスプライシング修飾、pre-miRNAを標的としたmiRNA成熟化阻害またはRNA分解誘導など多くのアプローチが報告されています。
その中でも、今回はRNA分解誘導に関して紹介します。


 RNA分解誘導とて、以下の3つのアプローチが報告されています(全てスクリプス研究所のDisney先生の報告)。

1)核内エキソソームを介したRNA分解誘導(例:低分子がイントロン領域にあるリピート配列に結合して選択的スプライシング後に核内エキソソームによって分解_Cell Chem. Biol. 2021, 28, 34-45)

2)酸化的開裂を介したRNA分解誘導(例:ブレオマイシン誘導体と連結した低分子がリピート配列に結合して酸化的開裂_PNAS, 2019, 116, 7799-7804)

3)RNase Lを介したRNA分解誘導(例:RNase Lバインダーと連結した低分子がpre-miRNAのDicer切断領域に結合してリボヌクレアーゼによって分解させるPROTACみたいなRIBOTAC_PNAS, 2022, 117, 2406-2411)

それぞれ適用条件や分子量、有効性などに長所と短所があります。今回は、3)に関して、Disney先生のRibonuclease Targeting Chimera(RIBOTAC)の紹介です。

 

Small-molecule targeted recruitment of a nuclease to cleave an oncogenic RNA in a mouse model of metastatic cancer
https://doi.org/10.1073/pnas.1914286117

 Disney研では、RNA配列に応じた4,096種類の2時構造に結合する化合物のデータベースInfornaを構築しており、標的RNAの配列情報を元に結合する化合物を取得することができます。
本論文では、癌転移への関与が示唆されているmiR-21の前駆体pre-miR-21の配列情報から、2次構造に結合する化合物をInfornaで取得し、RNase Lバインダーと連結させることで、RIBOTACを合成しました。
RIBOTACは細胞系でmiR-21の産生を抑制し、乳癌転移モデルマウスに対しても、10mpkのip投与で肺への癌転移を抑制しました。

 ただし、InfornaはDisney研独自の化合物ライブラリーであるため(多分)、薬物動態や安全性などのプロファイルが不明かもしれません(個人的な意見)。
そこで、次の論文では、学術および非営利の研究コミュニティにオープンアクセスプラットフォームとして提供されているReFRAME(Repurposing Focused Rescue, and Accelerated Medchem_PNAS, 2018, 115, 10750-10755)からRNAと結合する低分子化合物の取得を目指しました。

 

Reprogramming of Protein-Targeted Small-Molecule Medicines to RNA by Ribonuclease Recruitment
https://doi.org/10.1021/jacs.1c02248

 ReFRAMEは臨床開発に到達した、もしくは前臨床において主要なプロファイリングを完了した約12,000化合物のドラッグリポジショニングライブラリーです。そのうち9,300化合物を用いて、3×2インターナルループで構成された1,024個のRNAライブラリーに対する結合活性を評価したところ、68化合物がRNAバインダーとして得られました。

 興味深いことに、得られたRNAバインダーの多くはキナーゼ阻害剤でした。とは言え、必ずしもキナーゼ阻害剤には限りませんでした。
特に強く選択的に結合することが確認されたバインダーは、Fibroblast Growth Factor Receptor(FGFR)やVascular Endothelial Growth Factor Receptor(VEGFR)など多くのチロシンキナーゼを阻害するDovitinibと、五糖に特異的に結合して抗凝固作用を示すDelparantag、DNAトポイソメラーゼ阻害剤のPiroxantron、非ステロイド抗炎症薬Metiazinic acidの4化合物でした。

 その中で、miR-21前駆体pre-miR-21のDicer切断部位にあたるインターナルループ(5'-GAC/3'-CG)と結合するDovitinibを選択し、先ほどの報告と同様にRNase Lバインダーと連結させることで、RIBOTACを合成しました。

 興味深いのは、トランスクリプトーム解析において、RIBOTACは核酸LNAと同等の選択性を示したことです。PROTACにおいて低分子とE3リガーゼを連結させると選択性が向上する傾向がありますが、RIBOTACにおいても同様の傾向を示すようです。

 RIBOTACは、アルポート症候群モデルマウス(miR-21は癌転移だけでなく腎疾患との関連も示唆されています)に対して、miR-21量の減少とPPARα発現量の増加(miR-21が発現抑制するタンパク質の一つ)、そして、腎機能の改善を示しました。


 ここで注目したいのは、Inforna化合物とDovitinibが非常によく似た化学構造を持っている点です(個人的な意見)。標的RNAの結合部位が同じであれば化合物の出元が異なっていても似た化学構造に辿り着いてしまうのでしょうか?

ポジティブに捉えると、標的RNAの配列を元に結合する化合物をin virtualで予測しやすいかもしれませんし、何よりDisney先生のInfornaが有用であると考えられます。
ただし、ネガティブに捉えると、化合物の多様性に限界があるかもしれませんし、標的RNAの配列と似た他のRNAとの選択性が難しいかもしれません。
今後もRNAに結合する低分子化合物の化学構造に注目していきたいと思います。