ペプチド医薬の低分子化

#souyakuAC2022

 

ペプチド医薬の低分子化

Peptide-to-Small Molecule: A Pharmacophore-Guided Small Molecule Lead Generation Strategy from High-Affinity Macrocyclic Peptides
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c00919


ハイライト
1)創薬コンセプト:塩野義製薬とペプチドリームの共同研究(多分)により、環状ペプチドから低分子化合物をデザインした。
2)ペプチドの取得:ペプチドディスプレイで取得した環状ペプチドの相互作用解析を行い、ファーマコフォアと抽出した。
3)低分子の取得:抽出したファーマコフォアを元にバーチャルスクリーニングを行い、ヒット化合物から誘導化を途中までin silicoのみで進めた。
4)注目したい点:ヒットペプチドの結合様式(Induced Fit)が他のタンパクとの選択性に効いているかも


創薬コンセプト】
低分子化合物は、調製が容易で、細胞膜透過性があり、経口投与が期待でき、製造コストが安いという利点があるが、タンパク質間相互作用(Protein-Protein Interaction:PPI)やプロテアーゼなど、いわゆるタフターゲットを標的とした場合は、例えば結合部位の平面性が高いなどを理由に、狙うのが難しい場合がある。
一方で、環状ペプチドならそれらの標的に対応できる可能性があるが、分子サイズが大きく、極性表面積(Polar Surface Area:PSA)が高く、細胞膜透過性に限界がある。
もし環状ペプチドを低分子化合物に変換できれば、その両方の利点を享受できるのではないか?

そこで、ペプチドリームのディスプレイ技術によって取得した環状ペプチドを元に、塩野義製薬が低分子をデザインする研究が開始された。
戦略検証の標的として、ニコチンアミドN-メチル基転移酵素(Nicotinamide N-methyltransferase:NNMT)を選択した。NNMTの過剰発現は肥満や糖尿病などとの関連が示唆されている。

ペプチドの低分子化(ペプチド模倣)は、以下の論文によると、4つのアプローチに分類できる。
Structure-Based Design of Inhibitors of Protein–Protein Interactions: Mimicking Peptide Binding Epitopes
https://doi.org/10.1002/anie.201412070
クラスA)Modified Peptide:相互作用に関与するペプチドに修飾されたα-アミノ酸を導入したりアミノ酸間を架橋したりすることで活性コンフォメーションを固定する。
クラスB)Modified Peptide/Foldamers:β-アミノ酸やペプトイドなどを導入することで活性コンフォメーションを固定する。
クラスC)Structural Mimetics:ペプチド骨格を例えばベンゼンなどに置き換えて相互作用に関与する側鎖の方向を固定する。
クラスD)Mechanistic Mimetics:側鎖をそのまま模倣するのではなく、相互作用を模倣する。

彼らは、クラスDのアプローチで低分子化合物の取得を目指した。


【ペプチドの取得】
1)1兆個のペプチドディスプレイの結合アッセイで環状ペプチド1を取得した。
  → 非天然アミノ酸(4-カルバモイルフェニルアラニン:F4CONとN-ヘキシルグリシン:HexG)を含む9-merのα-アミノ酸で構成され、チオエーテルで環化されたペプチドであった。細胞系で活性なし。

2)1とNNMTの共結晶をホモダイマーとして取得、X線構造解析を行った。
  → ①HxG(5-mer目)とTrp(6-mer目)の周辺でNNMTのコンフォメーションが変化して潜在ポケット形成が誘導され(Induced Fit)

  → ②Phe(1-mer目)とPro(7-mer目)、Cys(8-mer目)、Gly(9-mer目)は溶媒に曝されていた。

3)アラニンスキャンにより、ペプチドを構成するアミノ酸1つ1つをアラニンに変換して活性を評価し、重要なアミノ酸を同定した。
  → Arg(3-mer目)とGly(4-mer目)、HxG(5-mer目)とTrp(6-mer目)をアラニンに変換すると活性が激減した。(ホットスポット同定)

4)Grid Inhomogeneous Solvation Theory:GISTにより水分子の熱力学的特性を計算した。
  → 結合ポケット中に水分子が存在する際、熱力学的に安定な水分子と不安定な水分子が存在する。
   不安定な水分子を押し出して相互作用を獲得することで活性向上が期待できる。

4-1)Arg(3-mer目)の側鎖グアニジンの周辺にある水分子はエンタルピー的に不利な水分子であった。
  → カチオン性アミノ基によって押し出して代わりにThr163と相互作用する。(ファーマコフォア抽出)
4-2)HxG(5-mer目)とTrp(6-mer目)の主鎖カルボニルの周辺にある水分子はエンタルピー的に不利な水分子であった。
  → 2つの水素結合アクセプターによって水分子を押し出して代わりにTyr86/Val143と相互作用する。(ファーマコフォア抽出)
  → GISTとは別でHxGのヘキシル基とTrpのインドールは疎水性ポケット形成を誘導してハマっており重要(ファーマコフォアの抽出)


【低分子の取得】
1)市販・社内の600万フラグメントライブラリーでドッキングベースのバーチャルスクリーニングを行った。
  → 3つのファーマコフォアでフィルターを掛けて所望の化合物取得を目指した。
  → 残念ながら3つのファーマコフォアを満たす化合物はヒットしなかった。

2)2つの水素結合アクセプターと疎水性ポケットにファーマコフォアを絞って再評価
  → Virtual Hit-Aを取得

3)カチオン性アミノ基を導入してThr163と相互作用を獲得し、更に他にも相互作用を増やしてDesogned Molecule-D(11)をデザインした。
  → ここまでin silicoのみで進めた。

4)実際に合成するとNNMT IC50 = 54 µMの阻害活性であった。
  → NMRでNNMTの狙った残基への結合を確認した。

4-1)誘導化合成を行い、化合物13を合成した。11から活性が2,000倍向上した。
  → 共結晶をモノマーとして取得し、X線構造解析で11のドッキング解析やペプチド1の共結晶と同様であった。

4-2)誘導隊合成を行い、化合物14を合成した。13から活性が14倍向上した。
  → 細胞系で活性あり、細胞毒性なし
  → 現在はADMET改善などを行っている。

 

【注目したい点】
NNMTには類似したタンパク、インドールエチルアミン-N-メチル基転移酵素(Indolethylamine N-methyltransferase:INMT)が存在する。基質ミミックな阻害剤であるSinefunginはNNMTだけでなくINMTも阻害してしまうが(Table-1)、環状ペプチド1と低分子化合物14は阻害しなかった。
高選択性を獲得できたのは、Induced Fitによる潜在ポケット形成のお陰ではないか?
スクリーニングヒットの中から先に進める化合物を選抜する際は、Induced Fitのような結合様式に注目すると良いかもしれない。
もしかしたら選択性だけでなく、ペプチドを低分子化する際に標的タンパクのホットスポットを同定することが活性に重要と思うが、Induced fitも活性に重要かもしれない。そしてこれはペプチド医薬の低分子化に限らずヒット化合物選抜の際に有用な視点かもしれない。
ただしX線共結晶構造解析が必要になるけれども・・・。
ペプチドリームの舛屋さんが以前に講演で「まず前提として我々は化合物の共結晶をたくさん取れる」的なことを言ってた気がするけど、そこ大事ね。
クライオ電顕はどんな感じだろ。