塩基性を立体的に調節したいrevised

塩基性を立体的に調節したいrevised

2年前に紹介した記事、文章だけだったので構造式を追加しました。

あと少し追記も。

 

 前の記事で、PROTAC経口化のカギはリンカーにアミノ基を導入・調節することかもしれないと述べました。それではアミノ基の調節はどのようにすれば良いか。電子吸引性基の導入が一般的ですが、今回、嵩高さ(立体障害)の導入による調節事例を紹介します。

 

オイラ達の戦いはここからだ。明日勝つために、寝るぞーっ!!!

 

 アミノ基のような塩基性基は、標的タンパク中の負電荷と相互作用したり、化合物の溶解度を上げたり、組織移行性を上げたり、分布容積Vdを上げて生物学的半減期(=0.693×分布容積÷クリアランス)を延ばしたり、多くの利点があります。(PROTACのリンカーもそうかも)

 一方で、塩基性が強すぎると、細胞毒性の増強、hERG阻害やホスホリピドーシス、低膜透過性やPgp基質認識などのリスクがあるため、良い塩梅に調節したいものです。

 一般的に、塩基性を調節するアプローチとして『アミノ基の近傍に電子吸引性基を導入』が考えられます。

例えば、ピぺリジンの塩基性を調節しようと思うと、『ピペリジン環に電子吸引性基を導入』と『ピペリジンNHに電子吸引性基を導入』の2パターンが考えられます。

以下に各化合物のACD/PerceptでのpKa予測値を示します。

 しかし、個人的な経験として、「スルホニル基」はPgp基質認識性が上がったり分子量増大により膜透過性が下がったり、「ジフルオロ基」は脂溶性増大により溶解度が下がったり代謝安定性が下がったり、一方で「酸素原子」や「モノフルオロ基」だけ塩基性を調節するにはちょっと物足りなかったことがあります。

 電子吸引性基を導入する以外のアプローチとして、嵩高さ(立体障害)を導入するアプローチがあります。

 

立体障害の塩基性への影響に関して、以下の比較が分かり易いです。

バイオ研究者がちゃんと知っておきたい化学(P3図4 )

https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/chemistry/cfb03.pdf

アンモニア(pKa=9.3)に対して、エチルアミン(pKa=10.6)、ジエチルアミン(pKa=10.9)と電子供与性のエチル基が増える度に塩基性が上がっていますが、3級アミンのトリエチルアミン(pKa=10.7)は僅かに塩基性が減少しています。記事にある通り、これはエチル基が立体的障害により窒素原子の非共有電子対がプロトン化されづらくなったためと考えられます。一方で、構造を固定して非共有電子対が剝き出しになったキヌクリジン(pKa=11.0)は塩基性が上がっています。

 

以下に、メドケム事例を2つ紹介します。

 

【1つ目:Merck社の事例】

KSP Inhibitors;Discovery of MK-0731 for the Treatment of Taxane-Refractory Cancer

https://doi.org/10.1021/jm800386y

論文のハイライトは以下の気ままに創薬化学で紹介されています。

http://medchem4410.seesaa.net/article/217883323.html

1) pKaとMDR ratio (Pgp基質性)が相関する

2) モノフルオロエチルアミンは代謝されてモノフルオロ酢酸が生成するリスク有り

3) シクロプロピルアミンも反応性代謝物のリスク有り

4) フッ素をピぺリジン環に導入するとアキシャルとエクアトリアルでpKaが異なる

 

 今回私が気になったのは、3) N-シクロプロピルピぺリジンに関して。以下に、論文にあったピぺリジンのN-置換基のpKa(実測値)と私がACD Percepta pKaで算出した予測値を比較します。ただし予測したのは3年前 (2021年)です。

 シクロプロピル基は電子供与性にも関わらず、電子吸引性のフッ素が入ったフルオロエチルと同等以下の塩基性に抑えられています。一方で、実測と予測に乖離があります。

 

【2つ目:PTC社/Roche社の事例】

Discovery of Risdiplam, a SMN2 Gene Splicing Modifier for the Treatment of SMA

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.8b00741

 先行化合物RG7800はhERG阻害やホスホリピドーシスを示し、おそらくピぺリジンの塩基性が原因と考えら、塩基性を調節することでRisdiplamを創出しました。

先ほどと同じように、pKa(実測値)とACD/Percepta pKa(予測値)を比較します。

 こちらはシクロプロピルを窒素原子ではなく隣に導入することで立体障害によって塩基性を抑えられています。一方で、先ほどと同様、実測と予測に乖離があります。

 

 今回はシクロプロピル基を用いて立体的に塩基性を調節した事例でしたが、他にもピペリジンのN-置換基にオキセタンを導入することで立体的だけでなく酸素原子の電気吸引性とダブルで調節するのもありです。(剥き出しの酸素原子は脂溶性の調節や、水素結合アクセプターとしての効果も期待できるかも) 例えば以下のMerck社の事例では、色々なテクニックを使用して塩基性脂溶性、細胞膜透過性を調節しています。さすがメルク!おれたちに・・・(略)

Structure-Guided Discovery of Aminoquinazolines as Brain-Penetrant and Selective LRRK2 Inhibitors

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.1c01968

 

 とは言え、今回紹介した2例では、pKaの実測値と私がACD Percepta pKa (Classic)で予測した値は、大きな乖離があります。嵩高さ(立体障害)の導入による塩基性調節の予測はメドケムの経験・感覚に頼らざるを得ないのか? 3次元構造から予測できそうな気がするけど。いやぁ、メドケムって本当にいいものですね