創って壊す

創って壊す

#souyakuAC2024

 メドケムのテクニックに、化合物の構造の環を創る (固定化・マクロサイクル化)や、環を壊す (環変換・スキャホールドホッピング)がある。今回はAstrazeneca (AZ)社による環を創って壊す組み合わせテクニックを紹介する。

(スキャホールドホッピングは環を壊すとは言わないか・・・無理やり感あるかも・・・)

 

破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!

破壊と創造は表裏一体!!

Discovery of AZD4747, a Potent and Selective Inhibitor of Mutant GTPase KRASG12C with Demonstrable CNS Penetration, J. Med. Chem. 2023, 66, 9147–9160.

https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.3c00746

 

 GTPase KRASは細胞の増殖や分化を調節するタンパク質である。GTP結合型(オン)とGDP結合型(オフ)とに切り替わること細胞増殖のシグナルを伝達するが、変異が生じて常時活性状態となると細胞増殖が制御不能になり、癌が発生する。KRAS変異による活性化はヒト腫瘍の最大30%でみられ、特にコドン12変異が多い。KRASG12Cはコドン12のグリシンシステインに変異したKRASで、肺腺癌に高頻度でみられ、すい臓癌および直腸がんでも見られる。

以前KRASは『undruggable target』とされてきた。理由は、①KRASの結合ポケットが浅く化合物が結合するのが難しい、②細胞内に豊富に存在するGTPのKRASへの結合親和性がピコモーラーと非常に高く阻害するためには高い阻害活性が必要、等である。

しかし、カリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF)のKevan Shokat教授らよりKRASG12CGDP結合型のアロステリック部位でCys12と共有結合するアプローチが報告され、Wellspring社 (Shokat教授が共同設立者)より共有結合型KRASG12Cアロステリック阻害剤ARS-1620が報告され、Amgen社よりSotorasib/AMG-510が創出された。Sotorasibは本邦で非小細胞肺癌の治療薬として承認されている。AZ社も(おそらく)ARS-1620を元に新たに環を創ることでAZD4625が創出している。

ここで課題がある。癌の変異や転移である。非小細胞肺癌の患者の20%で中枢への転移がみられているが、SotorasibやAZD4625はMDCK ERが高く、Rat Kpu,uが低いことから中枢移行性が低いと推察され適用は難しい。

そこで、AZ社は中枢移行性KRASG12C阻害剤の創出を目指した。

 

【その1:環を壊してEfflux Ratio (ER)改善】

  • AZD4625のキナゾリン骨格のピリミジン部分を除去して分子量とPSAの低減を狙う。
    • 化合物22および25はMDCK ERが大幅に改善。
    • 環サイズは8員環より7員環の方が高活性。
  • MDCK細胞はヒト排出トランスポーターのMDR1 (P-gp)とBCRPを両方発現させてER評価。
  • 化合物25のMDCK ER改善に対してラットKpu,uが0.11とあまり高くないがヒト-げっ歯類間の種差と考察。

 

【その2:化合物25の置換基変換で活性向上】

  • LogD (脂溶性) を上げると、活性は上がるが代謝安定性が下がる。
  • LogDを下げると、活性が下がるしMDCK ERも悪化(上がる)。
  • フルオロ基をメチルアセチレンに変換した化合物14/AZD4747は活性と代謝安定性・MDCK ERのバランスが良好。

  • 化合物14は、Rat Kpu,u = 0.1だがP-gp阻害剤と併用すると1に上がる。
    • Dog Kpu,u = 0.7, Monkey Kpu,u = 1.6のため、げっ歯類特有と推察。
  • 11Cラベル化した化合物14を用いてカニクイザルでPETマイクロドージングによるイメージング評価実施し、CNS移行を確認。
    • CNS移行サロゲートマーカーとして脳脊髄液 (CSF)中の化合物濃度が評価されることがあるが、CSFは血液脳関門 (BBB)の外であり、ERが低い化合物には有用だが、高い化合物は脳内と一致せず場合によってはミスリードする可能性がある。
  • 化合物14は、KRASG12C変異細胞NCI-H358のシステイン含有プロテオーム解析で選択性を確認(KRASG12Cの他はVAT1/Cys86とPTGR1/Cys239に結合)
  • NCI-H358で細胞増殖抑制活性を確認、NCI-H358ゼノグラフトモデルマウスで腫瘍サイズ縮小等を確認

 

 今回注目したい点は2点あります。

 1つ目は、環を壊すアプローチと創るアプローチ両方使った点です。同様のアプローチとして、第一三共エドキサバン創製において、AZ社の特許を参考にピペラジン誘導体展開し、病態モデルラットで薬効確認まで順調だったがサルPK試験で行き詰まり、環を壊して創って再展開することでエドキサバンに辿り着いたそうです(有機合成化学講習会2012/6/20の個人メモより)。構造が大きく変わればプロファイルも変わるので骨格変換テクニックの一つとして良いです。

 2つ目は、MDR1/BCRPダブル発現MDCK細胞や、ヒト-げっ歯類間の種差、CSF中薬物濃度の懸念、PETイメージングなど評価の点です。特にダブル発現は個人的に興味深いです。前職ではERはP-gpしか評価してなかったけど、BCRPの寄与はどのくらいあるのかな?MDR1とBCRPそれぞれ評価する発表を見かけるので大事かも。

 三環式化合物は、芳香環のホルミル化と還元的アミノ化の後に芳香族求核置換反応で構築。その後、薗頭カップリングと鈴木カップリングを続けて化合物14を合成。

いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。