活性はcisがきめる
”安定配座”と”活性配座”を揃えることが活性に重要、と今までに何度も紹介してきたが、今回も同じ。第一三共やPfizerの"マジックメチル"や、リバプール大学の"マジック窒素"、それそれ配座を制限することで活性を大きく向上させている。
メチル基・・・
オレ・・・どうすればいい?
cisの方がいいと思う?

【①第一三共のcis配座】
Discovery of DS-3801b, a non-macrolide GPR38 agonist with N-methylanilide structure
Bioorg Med Chem Lett., 2022, 59, 128554.
https://doi.org/10.1016/j.bmcl.2022.128554.
モチリン(Motilin)は22個のアミノ酸からなる消化管(GI)ホルモンであり、消化管の平滑筋細胞に発現しているモチリン受容体(GPR38)に結合することで、消化管運動の調節に関与している。よってGPR38作動薬は、胃排出遅延症や慢性便秘の治療薬として期待されている。
マクロライド系抗生物質エリスロマイシンは、GPR38受容体作動薬としての機能も持ち、胃排出遅延症の治療薬として臨床上で使用されている。しかし、エリスロマイシンは本来抗菌薬であるため長期使用は望ましくない。AbbottはGPR38作動活性を残したまま抗菌活性を無くしたABT-229を創製したが、脱感作を招いた。
そこで、第一三共は、マクロライド以外のGPR38作動薬の創製を目指した。
●他社化合物を組み合わせた後、構造変換して新規リード化合物4を創出
・GSKの化合物の部分構造を組み合わせて高活性な2を取得
✓ 脂溶性が高く今後の合成展開に懸念
・ピリジンのリジッドを維持しつつ開環(アミドに変換)
✓ 活性を維持しつつ脂溶性を低減した4を取得
✓ NH-アミド3は活性なし

●メチルスキャンした後、脂溶性低減して開発化合物DS-3801bを創出
・4のベンゼン環にメチル基を導入
✓ 2位は活性が4倍減弱したが、3位は活性が26倍増強(マジックメチル)
✓ 6は高活性だがCYP3A4 MBIあり、回避を目指す
・ピペラジンがMBIの原因と推察されたが変換すると活性減弱してダメ
・極性基の導入(ピリジンやアルコール、アミド)で脂溶性を調節して回避を目指す
✓ ヒドロキシメチル基を導入した12は活性を維持しつつMBI低減
→ 12はDS-3801bとしてPhase1まで進んだ・・・が開発中止

●Cryo-EMによるDS-3801bとGPR38の複合体構造解析
Decoding the structural basis of ligand recognition and biased signaling in the motilin receptor
Cell Rep. 2025. 44, 115329.
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.115329.
・DS-3801bはGPR38のオルソステリック部位に結合
✓ ピペラジン部分はGlu119, Asp94残基と相互作用
✓ 全体的にLeu98, 245, 249, 314を中心に疎水性相互作用
✓ トリル部分のメチル基はPhe314と相互作用
✓ アミドの活性配座はcis型

・一般的にNH-アミドはtrans型、NMe-アミドはcis配座を取りやすい傾向にある
✓ 3と4の活性の違いは、cis-transの違いと考えられる

【②Pfizerのcis配座】
Conformational Role of Methyl in the Potency of Cyclohexane-Substituted Squaramide CCR6 Antagonists
J. Med. Chem. 2025, 68, 4818–4828.
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jmedchem.4c03106.
以前に紹介した記事『正しい配座』の続き
CCR6およびSQA1のプロファイルの説明は下記リンク参照
https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2025/10/18/072919
●SQA1のイソプロピルフラニルプロピル部分を変換
・シクロヘキシル基に変換した20aは活性が約320倍も減弱
・20aのシクロヘキサン2位にcisメチル基を導入した20cは活性が約370倍も増強

・アミノ基とメチル基の関係は、cis体20fは高活性、trans体20eは低活性
✓cis体であることが活性に重要

●20cとCCR6のドッキングでcisの高活性の原因を考察
・シクロヘキシル部分は疎水性ポケットを占有
✓ シクロヘキシルアミンのC-Nはaxial配座
→ Axialならハマるが、もしequatorialならV67, T70残基と立体反発
→ C-Nがaxial配座を取ることが活性に重要

・20aはequatorial優位だが、cisメチル基を導入した20cはaxial優位

・cis体20fとtrans体20eの活性差も同様と考えられる

・結局のところ、SQA1から誘導体展開でPF-07054894を取得して潰瘍性大腸炎患者を対象にPhase1臨床開発中(シクロヘキシルは選ばれず。代謝・物性に問題あったかな?)

【③リバプール大学のcis配座】
Potent Preorganized Pyrazolidine Cyclophilin D Inhibitors Prevent Mitochondrial and Organ Injury in a Mouse Pancreatitis Disease Model
J. Med. Chem. 2025, ASAP.
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.5c01146.
ミトコンドリア損傷と機能不全は、急性膵炎、筋ジストロフィー、神経変性疾患など多くの疾患に関与している。原因の一つとして、ミトコンドリアマトリックスのシクロフィリンD(CypD)が、ミトコンドリア透過性遷移孔(MPTP)の細胞内カルシウムや酸化ストレスに対する感受性を高め、持続的に開口させて機能不全を誘発するためである。CypDはKDや阻害によってMPTP関連疾患のモデル動物で臓器障害が軽減され、治療標的として注目されている。Cyp阻害剤としてシクロスポリンAが知られているが、物性や免疫抑制作用に課題がある。
そこでリバプール大学のPaul教授らは、物性良好かつ免疫抑制作用のないCypD阻害剤の創出を目指した。
●構造解析を元に窒素原子を導入して安定配座と活性配座を合わせる
・以前の研究で見出した化合物4aとCypDの複合体X線結晶構造解析
✓ ピロリジンアミドの活性配座はcis型
・計算でプロリンアミドは僅かにtrans優性、アザプロリンアミドはcis優性

・化合物4aのピロリジンに窒素原子を導入
✓化合物12aは活性が30倍増強
✓窒素導入によりLogDが下がり、溶解度や代謝安定性が若干改善、タンパク結合率低減

・X線結晶構造解析でCypD-12a複合体は4aと同様の結合配座
✓ ブロモベンゼンはPhe60残基とT字型π-π相互作用, Leu122残基とCH-π相互作用
✓ アニリンNHはThr107主鎖と水素結合
✓ ウレアCOはArg55残基と水素結合
✓ ウレアNHとアミドCOはAsn102残基と水素結合
✓cis体であることが活性に重要

●12aのブロモベンゼンとアニリンを構造変換して18fを取得
・ 活性が約12倍向上
・ Caerulein誘発急性膵炎モデルマウスに腹膜内投与で用量依存的な重症度を改善

今回注目したいのは、2点です。
一つ目は、Pfizerの報告におけるaxial-equatorial配座間の活性差の大きさです。
ドッキングの図を見ると明らかにポケットを占有する方向が変わりそうに見えるので、誘導体展開の際に一方だけ合成して判断するのは危険だなと思いました(当たりまえ)。 例えばPROTACのリンカーに環状アミンが頻用されていますが、そこに置換基を導入する際にも気を付けなければいけませんね。 ちょっと違いますが飽和環の立体を利用するのはメドケムだけでなく反応でも効いてくるので、デザインの際には意識しときたいですね(以下、塩野義さんドルテグラビル)。

二つ目は、リバプール大学の報告における窒素原子とカルボニル基による電荷の反発による構造制限です。
立体反発だけでなく電荷の反発も考慮すべきだなと感じました(当たりまえ)。 似た事例として、以前にSanofiのsiRNAとGalNAcリガンドを繋げる検討で、アルキルリンカーは柔軟性が高くGalNAc三量体がASGPRに結合する際のエントロピーロスが考えられるが、PEGリンカーは酸素原子間の反発によりアルキル側鎖より剛性が高いため、KD活性が高くなった、と考察していました。
https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2025/11/03/184433
いやぁ、メドケムって本当にいいものですね。