低分子で持続的放出(長期作用)

#souyakuAC2021

いつも楽しく拝見するだけの創薬カレンダーでしたが、初めて投稿したいと思います。
ブログ作成自体も初めてなので、そもそもちゃんと表示されているか・・・。

薬効を長期に持続させるための化学的アプローチとして、化合物にPEGや多糖類を付与したり、カルボン酸を導入したり、Fcタンパク質を融合させたり、等があると思います。
製剤的アプローチとしては、デポ製剤のような徐放性製剤が考えられます。

今回は、化学的アプローチでデポ製剤のような徐放性を持たせるアプローチ(多分)を紹介したいと思います。

Giliad社のLenacapavir(GS-6207)です。
https://www.medchemexpress.com/gs-6207.html?locale=ja-JP
複雑で大きな構造をしています。

Gilead社は、2021年3月のプレスリリースで、『多剤耐性がみられるHIV-1感染症の患者さんを対象にした第II/III相CAPELLA試験において、にlenacapavirを6カ月に1回皮下投与したところ、26週間にわたりウイルス学的抑制が得られた』と発表しています。
https://www.gilead.co.jp/-/media/japan/pdfs/press-releases/03-24-2021/gilead-hiv-croi-lenacapavir-date-release20210324-prefinalhp.pdf?la=ja-jp&hash=19806097FDF26BD1A76B234AA64A9A3E

Lenacapavir(GS-6207)とはどのような化合物なのでしょうか。
以下の論文を元に簡単に紹介したいと思います。
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2443-1

Lenacapavir(GS-6207)はHIV-1カプシドタンパク阻害剤です。
HIV-1カプシドタンパクは、ウイルス複製に重要な役割を果たすタンパクで、前駆体が放出された後にHIV-1プロテアーゼによって切断され、250の六量体と12の五量体で構成された円錐状のカプシドに組み立てられます。

【Lenacapavir(GS-6207)取得の経緯】
in vitroアッセイによって、HIV-1カプシドタンパクを組み立て阻害する低分子と促進する低分子それぞれを同定しました。
どちらも抗ウイルス活性ありましたが、阻害型は化合物変換による活性向上に限界がありました。
おそらくHIV-1カプシドタンパクは多量のサブユニットから構成されているため低分子では対応できなかったのかもしれません。
促進型は逆効果のように思えますが、促進によって組み立てられたHIV-1カプシドタンパクは奇形であり抗ウイルス効果を示しました。
得られた促進型化合物を最適化することでLenacapavir(GS-6207)を得ました。

X線構造解析によって、Lenacapavir(GS-6207)は六量体の1つのサブユニットのN末ドメインと隣接するもう1つのサブユニットのC末ドメインの間に結合していることが分かりました。
Lenacapavir(GS-6207)とHIV-1カプシドタンパクは、2つのカチオン-π相互作用と7つの水素結合を含む広範な疎水性および静電相互作用を介して結合していました。

【長期作用(持続性)について】
臨床試験では健常者に単回皮下注100mg投与でHIV-1野生株に対するEC95以上の血漿中濃度を12週以上維持し、300mg投与で24週以上維持しました。
患者においても同様の血漿中濃度を示し、450mg投与で9日後の血漿HIV-1 RNAをLog10で2.20減少させました。

長期作用の理由は、高い代謝安定性と低い溶解性によると考えられています。
分子量は968でTPSAは多分160くらい。懸濁液で皮下注されたGS-6207は少しずつ溶解しながら持続的放出されました。

個人的には、Lenacapavir(GS-6207)はタンパク質間相互作用(PPI)促進剤に該当すると考えています。
あくまで主観的なイメージですが、PPIに作用する化合物は、標的タンパクや標的部位に依るので一概には言えませんが、例えばVenetoclaxのように、低分子であっても化学構造的に大きくなる傾向があるように思います。
今回のLenacapavir(GS-6207)も、PPIに作用するために広範な疎水性および静電相互作用を介して結合し、化学的に大きくなってしまいました。
一般的に構造が大きくなると物性(溶解度)や膜透過性が下がるので低分子創薬的には避けたいのですが、Lenacapavir(GS-6207)はそれを上手く利用して持続的放出(長期作用)につなげているのだと思います。
非常に面白いアプローチだと思います。

面白いアプローチと言えば、HIV-1カプシドタンパクを組み立て阻害する低分子ではなく、促進する低分子を選んだ点も興味深いと思います。
もしかしたら、1:1のPPIではなく大量のサブユニットから形成されるPPIを狙う場合は、低分子で阻害するのは難しいのでしょうか?
低分子創薬は奥が深いですね。