ちょうどいい反応性の共有結合反応剤

#souyakuAC2022

ちょうどいい反応性の共有結合反応剤


九州大学の王子田彰夫先生からクロロフルオロアセトアミド(CFA)をWarheadとした共有結合性の3CLpro阻害剤の創製研究が報告された。

Discovery of Chlorofluoroacetamide-Based Covalent Inhibitors for Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 3CL Protease
https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c01081


CFAとは、不可逆的な共有結合を形成するWarheadである。
詳しくは、以下の記事が分かり易い。

コバレント阻害剤の標的特異性向上を目指した新規反応基の探索とEGFR阻害剤への応用
https://www.jstage.jst.go.jp/article/medchem/27/2/27_92/_article/-char/ja/

共有結合は、持続性(Binding Kinetics)の観点で優位であると考えられる。
> 持続性の良い化合物を狙って取得するには?(Binding Kinetics)
https://azarashi-panda.hatenablog.com/entry/2021/12/20/102642

一方で、標的タンパク質以外(オフターゲット)との非特異的反応による副作用の懸念も考えられる。
王子田先生らは、普段は反応性が低いが、標的タンパク質のポケット内で近傍にシステイン残基が近づいたときのみ反応して共有結合を形成するクロロフルオロアセトアミド(CFA)をWarheadとして見出した。
いわゆる、ちょうどいい反応性の共有結合反応剤である。(ちなみにCFAがもしポケット外で共有結合を形成した場合は加水分解されてチオールが再生するようだ。)


今回、王子田先生らは、3CLpro阻害剤PF-00835231の可逆的な共有結合を形成するヒドロキシメチルケトンを、アザペプチドリンカーを介して不可逆的な共有結合を形成するCFAに置き換えた。加えて、インドールのメトキシ基をフルオロ基に変換して活性に微調整を行い、化合物8a(YH-6)を創出した。

化合物8a(YH-6)と元化合物であるPF-00835231、2022年2月にパキロビッドとして特例承認されたPfizer社のNirmatrelvir(PF-07321332)、そして先日ゾコーバとして特例承認された塩野義製薬のEnsitrelvir(S-217622)の3CL protease阻害活性IC50とSARS-CoV-2の各株に対する抗ウイルス活性EC50、弊社のAI予測による各化合物のLogD7.4とPAMPA(pH7.4)を以下の表にまとめた。※

※8a(YH-6)とPF-00835231、Nirmatrelvirは本論文のデータだが、Ensitrelvirは塩野義さんの論文から引用しており細胞が違うため、比較はあくまで参考である。
塩野義さん論文:https://doi.org/10.1021/acs.jmedchem.2c00117

興味深いのは、酵素阻害活性と抗ウイルス活性の乖離の度合が各化合物で異なる点である。
8a(YH-6)は2.1~5.5倍減弱、PF-00835231は406~941倍減弱、Nirmatrelvirは27~72倍減弱、Ensitrelvirは22~40倍減弱、している。
PF-00835231が他と比べて大きく減弱しているのは、LogDが低く膜透過性(PAMPA)が低いためだろうか、あくまで予測値だけれども。
一方で、NirmatrelvirとEnsitrelvirは同程度の減弱度合で、8a(YH-6)が最も減弱していない。もしかしたら、前者は可逆型の共有結合で、後者は不可逆型の共有結合なので、その差かもしれない。


論文中では、今後はin vivoによる抗ウイルス評価を実施する必要があると述べており、実際に不可逆型の共有結合阻害剤によって薬効面や持続性面でどのような優位な点があるか楽しみである。ゾコーバが1日1回5日間、パキロビッドパックが1日2回5日間らしいので、初回1回のみでオーケーとかなら面白い。
もちろん、ポケット外では加水分解されるらしいとは言え、一般的には共有結合による安全性面の懸念も考えられるが、今回の抗ウイルス薬は慢性疾患のような長期投与ではなく短期投与で済むし・・・と期待したいが、どうかな。